第二百八話 明かされる真実、聖戦の火蓋は切って落とされた②
あれから一週間、戦火は日に日に激しさを増して言っていると、毎日の様に帝都でも騒がれていた。
北の山脈を越えようとしていた軍隊は帝国軍と合流すると反転、そうそれはかの有名な中国大返しの如し。あれだけの軍勢を休む間もなく来た道を戻るという大強行軍をとったのだ。なぜ一度は竜族側についたカシムアダータが、そんな手の平返しを見せたのかは定かではないが、レギンス帝国と北の大陸のベルバルデ王国、そして魔族が手を組み竜族を迎え撃ったのである。
そして、竜王軍の精鋭である魔星72体の目を欺くために敢えて寝返った振りをしていたローリンやシッタシータ達は、大きな犠牲を払いながらも元魔王カシムアダータから託された魔王の鎧をリリアルミールさんに届けることができたのだが。
「メームちゃん。リリアルミールさんの具合は?」
「うん。だいぶよくなってきた。けさはからだをおこしてごはんもすこしたべたよ」
元々身体が弱かったらしいリリアルミールさんは、今回のこととは関係なく体調を崩し床に伏していたのだ。
そんな状態のリリアルミールさんに、このことを報せて心労をかけるわけにはいかないと、魔王の鎧はメームちゃんが与ることになったのだ。
今回の戦いで魔族は余りにも大きな代償を払った。十二人いる魔闘神のうち、九人があの戦いで命を散らした。正確には三人が戦死、六人が生死不明の行方不明の状態である。
リリアルミールさんがそんな状態にあるので、大神官であるビゲイニアは身動きをとれず、残りの二人はどこにいるのかもわからないのだ。
「いざとなったら、めーむがこれをつかってたたかうよ」
土偶みたいな魔道具を見つめながらメームちゃんはそう言うのだが、俺はそんなことをメームちゃんにさせる気は更々ない。もしまた戦う事になったら今度は絶対に俺が皆を守ってやるそう決めたんだ。
メームちゃんがお昼寝の時間になると俺は獣王に話しかけた。
「おい獣王。ちょっと相談がある」
「なんだわん? どうせろくでもない事だろ? 嫌だわん」
まだ何も言っていないのに露骨に嫌そうな顔をする獣王。ムカつくがここは下手にでるしかない。
「そう言うなよ。前聖戦の生き残りである伝説の四貴死のお前にしか頼めないことなんだ」
「その手には乗らないわん。そうやって煽ててまた俺のことを嵌める気なのはわかってるわん」
なんなんだよこいつの被虐的なマイナス思考は、日頃雑に扱われてるとこんなにもネガティブシンキングになるもんなのか? そこはおまえ、弄ってもらえて美味しいって思えよ。
「おまえさ。俺に魔法を教えてくれないか?」
「無理だわん」
「即答かっ! ちょっとは悩めよっ!」
獣王はやれやれといった感じで俺のことを馬鹿にするように鼻で笑うと、呆れた声で答える。
「べんり。魔法ってのは誰でも彼でも使えるもんじゃないわん。これはもう生まれもっての資質、その身に魔力を宿していなければ使うことは出来ないわん」
その言葉に俺はぐぅの音もでない。そんなことだろうとは思っていたがやはり無理か。なかには後天的に魔法を使えるようになる者もいるらしいが、そう言う人はやはり生まれもって魔力を宿している人には到底及ばないらしい。
獣王が言うには、シンドラントの血を引くぽっぴんは類稀な才能を持っているらしく、魔族である自分が舌を巻くほどの実力者だと言うのだ。毎回毎回とんでもない威力の魔法をぶっ放せるのは、あの
そしてソフィリーナも、腐っても女神。神クラスの魔力を持っているのは当然ということか。
「じゃあやっぱり武器を使えるようになるしかないか」
「やれやれ、今からそんなことをしたって犬死するだけだわん。厳しい言い方になるけどただの人間のおまえは、戦いになったら大人しくしているのが一番なんだわん」
獣王の言葉が俺の胸に突き刺さる。そう、俺はただの人間なのだ。同じようにこの異世界に転移してきたのに、ローリンみたいな力はなにもないのだ。
「結局……どこに行っても俺は役立たずかよ……」
「なにか言ったわん?」
不思議そうな顔をしながら聞いてくる獣王に、なんでもないと答えると店番を任せて俺は地上へと上がった。
外の空気を吸ってもなんだか気分が晴れない。あの戦いでアニキに言われたことが脳裏に浮かぶ。
―― 悔しいのなら強くなれ。打ちのめされても何度でも立ち上がるのだ。不平不満を口にしたところで、それはおまえになんの力も与えてくれはしないっ! ならばぐっと堪え、歯を食いしばり、その思いを力へと変えるのだっ! ――
そんなこと言ったってアニキ、今すぐにでも強くならないと俺は誰も救えないじゃないか……。
トボトボと路地裏を歩いていると、突然背後から誰かに押され俺は転んでしまった。
いや、押されたのではない。走って来た誰かが背後からぶつかったのだ。その人も俺とは反対に尻餅をついていて、周りには落とした袋から零れたパンや果物が転がっていた。
「いたたた。ちょっとあんた、ちゃんと前見て走れよな」
「す、すいません。急いでいたもので本当にごめんなさい」
そう言うと散らばった荷物を慌てて拾おうとする。俺がそれを手伝ってやると深々と頭を下げてその人は走り出そうとするのだが、なにをそんなに焦っているのか? その理由はすぐにわかった。
「おーいみんなっ、こっちにいたぞっ! もう逃げられねえぞこの泥棒があっ! ん? なんだ、べんりも一緒じゃねえか!?」
路地の向こうからパン屋と八百屋と肉屋と魚屋と、とにかく商店街の奴らがわらわらと現れる。なぜだか全員、食い物を扱っている店主達なのが、俺は気になるのであった。
つづく。
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