第九章 聖戦のプレリュード~ 神と悪魔編 ~

第二百七話  明かされる真実、聖戦の火蓋は切って落とされた①

 気が付くと目の前には見慣れた顔が三つ俺のことを覗き込んでいた。

 ソフィリーナ、ローリン、ぽっぴん。うちの三馬鹿アルバイト達だ。


「おまえら……なにやってんだ?」

「なにやってんだじゃないわよっ! どうしていつもべんりくんはそうやって無茶して死にかけるのよっ!」


 どうやら俺はまたソフィリーナのことを泣かしたらしい。ローリンとぽっぴんも俺のことを心配そうに見つめているのだが、俺が気を失っている間にパワビタンを飲ませてくれたらしくもう外傷はない。


「そうだっ! アニキ達はっ!? リサやシータさんっ、魔闘神の皆は? て言うかローリンおまえっ、説明しろよっ! 一体どうしてあんなことをっ!」


 俺が捲し立てると、落ち着けと言って俺のことを宥めるソフィリーナ。ローリンは申し訳なさそうに頭を下げると涙を流す。


「ごめんなさいべんりくん……私がもっとしっかりしていればこんなことには……私は聖騎士失格です。私の所為でリサさんやシータさん達は……」

「なんだよ? リサやシータさん達はどうなったんだよ? まさか、あいつら本当に死んで……。そんな、じゃあどうして俺は生きてるんだ? デビル・メイ・エクスクラメイションで辺り一帯吹き飛んだんじゃないのかよっ!」


 俺が捲し立て声を荒げると誰かに後ろから頭を叩かれる。振り返るとそこに居たのはメームちゃんだった。


「少しは落ち着いて話しを聞けべんり。我が順を追って説明してやろう」

「め、メームちゃん?」


 どうやら俺はメームちゃんに助けられたらしい。なんだかドッタンバッタンうるさいのでオチオチお昼寝もしていられないと十二宮の様子を見に来たメームちゃんは、魔闘神達の放ったデビル・メイ・エクスクラメイションが、俺が介入することによりパワーの均衡を失い爆発する瞬間だったらしい。

 咄嗟に時を止めたメームちゃんは俺のことを連れてその場を離れるが、そこで体力の限界だった。他の皆は連れてくることができなかった。この十二宮には特殊な結界が張られている為、被害はある程度抑えることはできたらしいのだが、流石にデビル・メイ・エクスクラメイション二発分のエネルギーがぶつかり合ったのだ。第十の宮と十一の宮は跡形もなく吹き飛び、あそこら辺一帯は空間の歪みが激しくなってしまったと言うのだ。


「そうか、メームちゃんが俺のことを助けてくれたのか……」


 メームちゃんの説明で俺は落ち着きを取り戻すのだが、まだもう一つ説明を聞かなければならないことがある。


「ローリン、そいつらと一緒ってことはもう話せるんだろ? 俺にも聞かせてくれよ。おまえやシータさん達がなぜあんなことをしていたのか」

「わかりましたべんりくん……それは」


 ローリンは神妙な面持ちになると鎧の中から何かを取り出して俺に見せる。


「元魔王カシムアダータから預かった。この魔王の鎧をリリアルミールさんに渡す為だったのですっ!」

「な、なんだってえええええええええっ!? って、それなに? 鎧? なんか土偶にしか見えないんだけど」


 ローリンが手にしている灰色の土偶みたいな塊を指差しながら俺は怪訝顔をする。ローリンに代わりなぜかソフィリーナがふっと笑うと、これだからべんりくんはみたいな小馬鹿にしたような顔で補足する。


「それは封印の施された魔道具なのよ。魔王の血でしかその封印を解くことの出来ない代物なの。ローリン達はある奴らの目を誤魔化す為に、敢えて敵の振りをしてここに乗り込んで来たってわけなのよ」


 ははぁん。まあ大体知ってたけどねそう言う理由だって、ていうかなんでおまえがドヤ顔で説明してんだよ。なんかムカつくわぁ。


「でえ、そのある奴らって誰なんだよ? カシムは敵じゃなかったのかよ?」

「それは、あたし達から説明するよべんり」


 聞き覚えのある声に俺は振り返ると、そこに居たのはルゥルゥであった。


「ルゥルゥ? なんでおまえが? それに紅の騎士、アマンダさんだっけ?」

「べんり。あたしと姐さんは、北の王国ベルバルデの兵士だ。あたし達はある任務を負って帝国に潜入したんだ」

「ある任務?」

「そうそれは、ベルバルデの実情を帝国に報せ、竜王に対抗する為の助力を扇ぎにきたんだ」

「はあ? そんな任務を負ってたのになんで聖剣を盗んだりしたんだよ?」

「そ、それは……」


 ルゥルゥは渋るのだが、アマンダが一歩前に踏み出すと兜を脱ぎ去り素顔を俺達に晒した。それを見て俺は驚く、他の皆はもうすでに知っているらしく驚きはしないものの皆黙って目を伏せていた。

 アマンダの皮膚はまるで爬虫類の鱗の様になっており、目も金色に輝くまるでドラゴンの様になっていた。そして無言のまま俺のことを見つめるアマンダ、おそらくもう言葉を発することができないのだろう。


「これは竜の呪いだ。竜の呪いを解くにはドラゴンの血を浴びなければならない。姐さんはこのままだと呪いに侵されて命を落としてしまうんだ」


 竜の呪い。北の大陸で竜の軍勢と戦った時にかけられたものらしい。竜の呪いにかかると、しばしば人間離れした能力を得る者もいるらしい。それがアマンダの超人的な強さの秘密だったのだが、それが続くのは僅かな間だけ。数か月で命を落としてしまうと言うのだ。


「北の軍勢が帝国領土に入って来たのは、竜族に対抗する為に帝国軍との合流を悟られない為だったんだ」


 つまりそれは、竜族と人間と魔族による戦争の始まりを意味する。


 遂に聖戦の火蓋が切って落とされてしまったのだ。



 つづく。

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