第百八十五話 双竜挟撃、竜を追う者、追われる者②

「女の子に突然背後から飛びかかるとは、おまえがそんな奴だったなんて思わなかったぞ!」

「いや待て落ち着けルゥルゥ誤解だ! これは不慮の事故だ!」


 ちっぱいを揉みながら誤解だと言ったところでなんの説得力もないのだが、赤面しながらも抵抗しないので、俺はとりあえず今の内にこの感触をしっかり味わっておこうとした。

 するとルゥルゥの背後に黒い影が降り立った。それに反応したルゥルゥは飛び退こうとした瞬間、手を後ろに捩じ上げられ地面に組み伏せられる。


「くっ、離せこのイカレ野郎っ!」

「口の悪い方ですね。残念ですけど、手を緩めるわけにはいきません」


 恐ろしく冷たい目でルゥルゥのことを睨みつけながら言い放つローリン。はっきり言って怖い、マジでこいつのことを怒らせるのはやめようと思ったのはこれで何度目だろうか。

 まあ聖剣を盗んだ張本人だからな、自業自得と言えばそうだが、なんだか可哀相になってしまい俺はローリンにあまり手荒いことはしない方がと言うのだが。


「私にだって許せることと許せないことがあるのです。この方の返答次第では、少し痛い目を見ることになるかもしれません」

「ちくしょおおおっ! 離しやがれこの狂戦士がああっ! いたたたたたたたたあっ!」


 ローリンが捩じ上げた腕に力を入れるとルゥルゥが悲鳴を上げた。観念して謝ってしまえばいいのに馬鹿な奴だ。助けてやりたいのは山々だが、こうなってしまったローリンを説得するのは難しい。腕をへし折られちまう前に土下座しとけ。


「単刀直入に聞きます。エクスカリボーンをどうしたのですか?」

「し、知らねえよっ! なんのこと、いたたたたたたたたあああっ! わかった、わかったから力緩めろこの怪力女っ!」


 なぜいちいち火に油を注ぐような真似をするのか。


「もう一度聞きます。見るからに、今ここにはないようですがエクスカリボーンをどこにやったのですか?」

「おまえ、まさか売ったんじゃねえだろうな?」


 ローリンの目がマジで殺しかねない感じになって来たので、早く吐かせた方がいいと思い俺が聞くと、ルゥルゥは真剣な表情になり否定する。


「ば、馬鹿にするなっ! 金の為に盗んだんじゃねえっ!」


 うん馬鹿だなこいつ。盗んだって自白しやがった。まあ監視カメラの映像で知ってたけど、こいつほんとに馬鹿だな。


「他人の物を盗んでおいてお金の為ではないからなどと。盗人猛々しいとはこのことです」

「う、うるせえっ! おまえにあたし達の何がわかるんだっ! なんの苦労も知らないで最強の剣を手に入れて、最強の称号を手に入れたおまえにっ! 姐さんの気持ちがわかるわけないっ!」


 あー、べただなぁ。なるほどなぁ。こいつ、その姐さんって人の為にエクスカリボーン盗んだのかぁ。まあその人にベタ惚れなんだろうなってのはわかるが。


「なんかよくわからんが、おまえは一つ間違っているぞルゥルゥ」

「説教ならごめんだよべんり……どうせ、そんなことをしても姐さんは喜ばないとかそう言いたいんだろ」

「いや、違うなルゥルゥ。ぶっちゃけ聖剣があろうがなかろうが、ローリンが最強なことには変わりない。こいつなら素手でもドラゴンを殺せる可能性がある」


 そう言うとローリンは真っ赤になりルゥルゥを組み伏せていた手を離すと、俺ににじりよって来て抗議する。


「それどういう意味ですかべんりくんっ! 私が馬鹿力の怪力女だって言いたいんですかっ!? 酷いですっ、私のことをそんな風に思っていたなんてっ!」

「そうよべんりくん。気は優しくて力持ちくらいに言ってあげないとローリンが可愛そうじゃない」

「まったくです。ドカベンの似合うキュートなJKですよ」


 いつの間にか下りてきていたソフィリーナとぽっぴんがフォローを入れるのだが、はっきり言って馬鹿にしているようにしか聞こえない。ローリンも二人を睨みつけると膨れながら俺のことをポカポカと叩いてくるのであった。なんで俺なんだよ。


「ところで、あのちっぱい娘。また居なくなりましたよ」


 ぽっぴんの言葉にローリンは正気に戻り辺りを見回すのだが、ルゥルゥは忽然と姿を消してしまっていた。あいつ、なんかそういうスキルでも持ってるのか? ドラゴンセイバーとか言ってたけど絶対に盗賊シーフだろあいつ。

 結局ルゥルゥを取り逃がしてしまい、ローリンは俺に八つ当たりしてくるのであった。




「まあとにかく、あの子が居たってことはわかったんだから気を取り直して行きましょうよ」

「皆さん本当に協力してくれる気あるんですかぁ? やっぱり一人で来ればよかったですぅぅぅ」


 肩を落とし嘆息するローリンであった。


 すると少し先を行っていたぽっぴんが大きく手を振りながら俺達を呼ぶ。返事をしようとするとなにやら口元に指を当てて静かにするようにジェスチャーするのだが、近寄るとその理由がわかった。


 洞穴に数人の冒険者達が身を潜めており、その後ろで横たわる人の姿も見えた。負傷者が居てドラゴンから身を隠しているのだろう。


「あんた達大丈夫か?」

「おお、あんたはコンビニの! それが……仲間が深手を負ってしまって身動きが取れないんだ。回復魔法を使える仲間もドラゴンの襲撃を受けた時にはぐれてしまって」


 すぐにパワビタンを飲ませてやろうとするとローリンが驚きの声をあげる。



「ミリガンシア!?」




 つづく。

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