第百八十二話 消えた聖剣と迫りくる脅威④
「ローリン様、お久しぶりです」
深々と頭を下げる女の子に。俺はどっかで見たことあるような気がするのだが誰だか思い出せないでいた。ソフィリーナも同じらしく「誰だっけ?」と聞いてくると言う事は、同じ場所で会ったことがあるのだろう。
そのサーヤはよく見るとボロボロであった。身に纏う衣服は所々破けて泥だらけ、隙間から覗く肌にはすり傷や切り傷も見えた。
「どうしたのサーヤ!? すぐにこれを飲んで」
「すいませんローリン様、助かります」
ローリンがパワビタンを手渡すとサーヤはそれを一口飲む。
「ふぁいとおおおおおいっぱあああああああああつっ!」
あ……。
「思い出したああああ! あんた、俺らが初めてローリンと会った時に死にかけてた人だ」
俺の言葉になんだかムッとした表情をするサーヤであったが、すぐに気を取り直し頭を下げる。
「その節はお世話になりました」
いやぁ、名前ありキャラでありながら、あれっきり出てこないもんだからすっかり忘れてたわ。そういやその時ローリンが組んでたパーティーはどうなったんだ? 後二人、魔法使いのお姉さんと、ガチムチの戦士風のおっさんが居たと思うんだが。
怪我が回復するとサーヤは険しい表情でここに来た理由を話しはじめた。
「ローリン様、助けてくださいっ! 皆が、ダンジョンにドラゴンが現れて、冒険者の皆がっ! パーティーの仲間たちがっ!!」
「落ち着いてサーヤ、順を追って説明して」
焦った様子でローリンに縋り付き助けを乞うサーヤ。それを宥めて落ち着かせるとローリンは、バックヤードから椅子を持って来て座らせる。て言うか、なんか今ドラゴンって言っていたと思うけど。とにかく焦らずにちゃんと説明を聞こう。
今日はもう店は閉めることにした。バックヤードに5人も入るのは狭いので売り場に人数分の椅子を持って来てサーヤの話を聞く。
「あれからパーティーを解散し、ローリン様と別れてから、私とミリガンシアは別の冒険者達とパーティーを組んでダンジョンの探索をする日々を送っていました」
ミリガンシアとはあの時一緒にいた魔法使いのお姉さんらしい。今明かされる真実だが、俺がスライムに襲われた時、ローリンが魔法で凍らせて砕いたと思っていたのだが、凍らしたのはミリガンシアがやったものらしい。ローリンはこれまで魔法のまの字も使わなかったからおかしいとは思っていたんだよ。
「ローリン様は、最近このダンジョンにドラゴンが出現したという話を御存知ですか?」
「あ、それなら俺知ってるよ。なんかレジェンド級のドラゴンとかどうとか?」
俺が答えるとサーヤはキッと俺のことを睨み付けてきた。なんで? そしてローリンは驚いた様子で俺に聞き返してきた。
「レジェンド級って、べんりくん一体どこでそれをっ!?」
「え? だから、ギルドでルゥルゥに……どしたの? そんな焦って」
「なるほど、どうやらあの女性が言っていたことは本当のことのようですね。それでエクスカリボーンを持ち去って……」
そこまで言ってローリンはハッとするとサーヤの方を見る。俺達も釣られてサーヤの方を見るのだが、目ん玉を真ん丸にひん剥いて唖然とした様子で震えていた。
「い、いま……え? ローリン様? 今、なんて仰ったのですか?」
やばいっ! いきなり俺達以外に聖剣を盗まれたことがバレた! いや、まだ誤魔化せる。
「いやほらだから、ルゥルゥって奴がね。あ、俺が朝ギルドで会った冒険者なんだけど、その子からドラゴンの情報を聞いたんだよっ!」
「あなたには聞いていませんっ! て言うかその後ですっ! 聖剣を持ち去られたってどういうことですかっ!」
ああああああああっ! 駄目だあああっ! ばっちり聞こえてたんじゃんっ!
バレてしまった。どうしたもんかと頭を抱えるとぽっぴんがすっくと立ち上がる。そしておもむろに皆の前に行くと静かに話しはじめた。
「そうですね……レジェンド級ドラゴンとは、その名の通り伝説級の竜族のことです。そもそもドラゴンとは神聖な生き物であり、中には神にも等しい能力を持つ個体も居ます。その力は計り知れず、モンスターの中では最強と言っても過言ではありません。竜王ともなれば魔王さへも凌ぐ力を持っていると言われています」
え? なんで急にドラゴンの説明し始めたの? いやまあレジェンド級ドラゴンがなんなのか大体わかったからいいけどさ。
突然のぽっぴんの説明にその場にいた全員が呆気にとられるのだが、そんなことはおかまいなしにぽっぴんは更に続ける。
「中でも
なんで最後のほうは江戸っ子みたいになってんだよ? 自分の知識をひけらかすことができてすっきりしたのか、満足げな表情で自分の席にぽっぴんが戻ると、しばしの沈黙が店内を包む。
そして、思い出したかのようにサーヤが声を上げるのであった。
「そのクリスタルドラゴンが現れたんですよおおおおおっ!」
つづく。
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