第百五十七話 たった一人の少女を身代わりに世界を救った情けない男①

―― 絶滅要塞はデストロイモードへと移行しました。速やかに避難してもどうせ死ぬので諦めてください ――



 またあの舐めた感じの女のアナウンスを聞いて、俺とぽっぴんは苛々しだすのだがそんな場合ではない。デストロイモードってなんだよ? 再起動するのはいいけどなんでそんなことになってるんだ? マジで意味わかんねえ。


「ティアラちゃんがやったのか? どうすんだよこれ?」

「ちびっ子はこの復讐を最後まで見届けることができないと悟っていたのでしょう、ですから最後にこのようなモードへと移行するようにしていたのかもしれません」


 なんてこったい! そう言うことは死ぬ前にちゃんと言っておいて欲しいよね。マジでなんとかしないとやばくねえか?


「ん……うぅぅん……べんりうるさい」

「あ、メームちゃんごめんね。あの女がうるさくして、起きちゃった?」

「なにやってんの?」


 警報音で目を覚ましたメームちゃんが目を擦りながら辺りを見回す。今自分がどこに居るのかまったくわからないので困惑している様子だ。


「メームちゃん。詳しく説明している暇はないんだ。今はとにかくこの絶滅要塞を止めなければならない。後で説明してあげるから」


 そこまで言って俺はおかしなことに気が付いた。今俺はメームちゃんをおんぶしている。この絶滅要塞を動かすためにはメームちゃんの魔力が必要な筈だ。そのメームちゃんがここに居るのになんで再起動して動き出したんだ? その疑問を口にすると答えたのはぽっぴんであった。


「おそらくは時の歯車です。一度メームさんから魔力が供給されてしまえば、それを無限にループさせることができるのでしょう。そう言う風にプログラムすればできないことではありません」


 ああもうっ! あの歯車ほんとやだ。取り戻したら破壊した方がいんじゃねえのあれ。


「じゃあ時の歯車を取り出せばこいつは停止するんだな?」

「わかりません。取り出したところで燃料が尽きるまで動き続ける可能性もあります。とにかくここでぐずぐず悩んでいても答えは出ません、早く時の歯車を見つけ出しましょう」

「そ、そうだな」


 するとメームちゃんが指差す。


「あっち」

「え? わかるの?」

「うん、なんとなく」


 15年も自分の体内にあった物だから、その気配を察知できるのかもしれないとメームちゃんは微笑んだ。ありがとうメームちゃん、おかげで助かったぜ。メームちゃんの道案内で俺達は時の歯車の元へと駆け出すのであった。



 階段を駆け下りると獣王が犬の姿に戻り待っていた。ロボット達はなんとか倒すことができたようだ。流石体内に蓄えていた魔力を解放しただけのことはあるな。


「べんり、無事だった……。メ、メイムノーム様っ! おおっ! おまえメイムノーム様を助け出してくれ、っておいっ! なんで無視するわんっ!」

「うるせえっ! 感動の再会は後だっ、今はこいつを止めることの方が最優先なんだよっ!」


 納得のいかない様子で獣王は後をついてくる。もうすぐそこ、時の歯車の気配が近くなっているとメームちゃんは言う。


「べんり、このへや。このなかにあるよ」


 メームちゃんの指差す部屋の中へ入ると、なんだかよくわからない機械のいっぱいある部屋であった。

 ここがエンジンルームなのであろうか? わからないが、目の前の機械のパネル部分に嵌めこまれている時の歯車を見て俺達は安堵した。


「よかった。これでなにもかも無事に解決できる」


 俺は時の歯車をそのパネルから外すのだが、なにも変わった様子はない。相変わらず警報は鳴っている。それどころかエンジンに火が入ったようなゴウンゴウンと言う音が要塞内に響き渡り、ギシギシと音を立てて動き始めたように感じた直後、ズシンと振動が響く。なにかが爆発したような感じだ。


―― 後方、第二脚部に重大な損傷。修復不可能の為パージします ――


 どうやら後ろ足がぶっ壊れたらしい、もしかしたらローリンかもしれない。とにかくこれでこいつの進行を遅らせることができると思ったのだが、操作パネルを弄っていたぽっぴんが険しい顔をしながら告げる。


「この程度では止まりませんね。八本ある内のたかが一本を失った程度です。なんの支障もないでしょう」

「で、でもこれはたぶんローリンだ。内側からなら破壊できるってことがわかったんだ、なら止める手立ても」

「止まるまでにどれくらいかかるでしょうか? それまでにどれくらいの犠牲がでるか見当もつきませんよ」


 そんなこと言われたって他にどうすりゃいいんだよ? こいつを止める方法がわからない以上ぶっ壊すしかないだろう。

 ぽっぴんも懸命に操作パネルを弄りながら色々と試しているのだが、やはり停止させることはできなかった。


「一度デストロイモードに設定されたら最後、もう停止させることはできないっぽいですね。これは本当に最終手段の暴走モードなのでしょう」

「なんでこんなもん作ったんだよシンドラントは、世界を滅ぼして自分らも滅んじゃったら意味ねえじゃねえか」

「死なばもろともって奴ですね。まったくもって狂気の沙汰です」


 忌々しげに呟くぽっぴん。やはり許せないのだろう、こんな未来のない兵器を開発したこと自体がぽっぴんにとっては許せないことなのだ。


 どうすることもできずにいるとメームちゃんが俺の背中で囁いた。


「べんり、これをとめればいいの?」

「うんメームちゃん。でも、どうすることもできないんだ。今考えているんだけど、くそっ……。なにも思い浮かばない、ここまで来て俺は……ちっくしょう……」


 悔しかった。なにもできないなんて、メームちゃんを助け出して時の歯車を取り戻しても、世界が終わってしまってはなにも意味がないじゃないか、俺にもっと力があれば、強さがあれば、知恵があれば、こんな最悪の事態もなんとかすることができたのかもしれない。なにもできずに手をこまねいているだけの自分が情けなくて、悔しくてしかたなかった。


「ごめんメームちゃん……俺は……俺にはなにもできない」

「めーむがとめるよ」

「え? でも、メームちゃん」

「ときのはぐるまはまだうごいてるよ」


 メームちゃんの言葉に、俺は手にしていた時の歯車を見ると淡い虹色の光を放っていた。


「それをせいぎょすることができれば、こいつをとめることもできるよ」

「メームちゃん、制御ってどうやって?」

「めーむのなかにもどせばそれができる」


 そう言うとメームちゃんは俺の背中から飛び降り、時の歯車を奪うと自分の胸へと押し当てた。




 つづく。

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