第百四十話 止まる命と動き出す狂気③
「ソ……ソフ……ィリーナっ! こいつをどう思う?」
「なんか今無理矢理方向転換しなかった?」
疑わしい目つきで俺のことを見てくるソフィリーナであるがそんなことはないぞ。俺は決してあの、魔法の鏡号みたいな展開を期待したわけじゃないからな。と心の中で言い訳をしていると、ぽっぴんがロボットの頭を撫でながら説明を始める。
「こいつは汎用人型家政婦ロボ子さん。炊事洗濯掃除をはじめ、持ち主の様々な要望になんでも応えてくれる優れものです」
人型? いや、このゴミ箱どう見ても人には見えないのだが?
するとぽっぴんがロボ子さんに命令する。
「ロボ子さん。家政婦モードへ」
「カシコマリマシタゴシュジンサマ」
返事をするとロボ子の頭がパカッと開き、中から何かが飛び出てきた。
それは地面に着地するとゆっくりと体を起こして、スカートの裾を持ち上げながらお辞儀をする。
「ロボ子家政婦モードへの移行を完了致しました。なんなりとお申し付けくださいませゴシュジンサマ」
「うむ。それではまずお風呂で背中を流してもらおうかな」
反射的にそう答えてしまった。ゴミ箱ロボ子の中から飛び出してきたメイド姿の美少女ロボ子。はっきり言って超可愛い、同じメイド姿でもリサとは月とすっぽんだ。特に胸のあたりが。
その場に居た全員がまるで虫けらでも見るような視線を俺に送ってくるのだが気にしない。だってこいつらだってクズだもん。
ロボ子は俺の命令に、ニコニコと笑っていたのだが。急に冷たい表情になるとボソっと呟いた。
「おめぇには聞いてねえよこのキモオタ童貞」
え? なに? こわい。なんで?
あまりの態度の急変っぷりに俺がビビっているとソフィリーナが手を上げて要望を言う。
「はいはいはーい! じゃあ山登りで疲れちゃったから足揉んで」
「かしこまりましたご主人様」
ロボ子が頭を下げると床から石柱が伸びる。ソフィリーナをそこに座らせるとロボ子はどこから用意したのかアロマオイルをソフィリーナの足に塗りマッサージを始めるのであった。
「次は私もいいですか?」
「はい。なんなりとお申し付けください」
「そ、それじゃあ。なにか飲み物をここにいる皆の分頂けないでしょうか?」
遠慮気味にユカリスティーネが言うと、ロボ子は「かしこまりました」と答えて部屋の隅へと歩き出す。手を前に翳すと壁が長方形に切り抜かれた様に前へ迫り出し扉のように開いた。そして中からグラスを三つ取り出すとそこへ飲み物を注ぎ、俺以外の三人に振る舞った。
「さすがはロボ子です。人間の要望に嫌な顔一つせずに応えてくれる。最高の家政婦ですね」
冷たいジュースを飲みながらぽっぴんが満足げに言うのだが、俺は納得がいかなかった。
「ちょおっと待ったあっ!」
「なんですかべんりさん?」
「なんですか? じゃねえよ。おまえらわかってて気づかない振りしてるだろっ!」
怒り心頭の俺の前で不思議そうな顔をする三人。くぅぅぅぅムカつくぅぅうううううっ!
「なんで俺にだけ冷たく当たるんだよロボ子っ!? なんかサラっとキモオタ童貞とか言われたしっ! え? なんで? ちょっと泣きそうなんだけど俺」
「そりゃ一緒に風呂入ろうなんて言われたらキモイに決まってんでしょ。同じ空間で呼吸してるって思うだけでも吐き気がするわよ」
「仰る通りですご主人様」
ソフィリーナの言葉に畏まるように頭を下げるロボ子。
はいすいません。俺が悪かったです本当にごめんなさい。
そんなこんなで突如現れたロボ子にぽっぴんが色々と質問をする。この家政婦ロボ子の名前は「
「あなたの主人の名前はなんと言うのですか?」
「エリオリスタン・アルデバラート様です」
「その方は今どこに居るのですか?」
「1万と2千年ほど前に家を空けたきりです。私はご主人様がいつ戻ってきても良いようにと、万全の状態でお迎えできるようにしています」
また1万2千年かよ、8000年後くらいに帰って来るんじゃねえの?
「つまり、1万2千年前にご主人が出て行ったきり戻ってこないのですね?」
ぽっぴんの問い掛けにA25は無表情のまま頷く。この表情、どこかで見たことあるような? そう言えば髪も銀色だし、どことなくあの黒ずくめの女たちに似ているような気がするな。
ぽっぴんはそのまま質問を続けるのだが、それはかなり核心に迫る突っ込んだ内容であった。
「1万二千年前、ご主人が出て行った日に一体なにがあったのですか?」
その質問にA25は突然立ち上がると、また抑揚のない機械的な音声で話し始めた。
「メモリー2567.インデックスH12G576.リード。オオキナヒバシラガマチノチュウシンブニアガルト、リョウシュ、エリオリスタン・アルデバラートハ、リョウミンタチヲマモルタメニ、ヘイシタチヲツレテ、シュッタツシタノデス」
大きな火柱が街に上がった。A25は確かにそう言った。
そこから語られるA25の話は俺達の想像の通りであった。
大きな戦争が始まるとその戦禍に街が飲み込まれた。その業火は次々と飛び火し、瞬く間に世界中に拡がる。そして世界を滅ぼせる威力を持つ兵器を、何の躊躇いもなく使用したのはシンドラントであった。
そこからは歯止めがきかなかった。報復に次ぐ報復、世界は憎しみの炎で包まれ七日間で全てを燃やし尽くしたと言う話であった。
つづく。
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