第百三十七話 ロストギアムとロストマギナ③
戦闘はローリンとメームちゃんに任せて俺達は巻き添えを食わないように離れる。
こういうことを女の子達に任せなくちゃならないと言うのは非常に歯がゆい思いではあるが、自分のできることと出来ないことをしっかり見極め受け入れて、その上で今俺にできる行動を取るべきだ。
「ソフィリーナ。巻き添えを食わないようにいつでも防御できるようにしといてくれ」
「了解っ! そのつもりだから安心して!」
「獣王はユカリスティーネさんの傍に、不慮の事態に対応できるように頼む」
「わかったわんっ! おまえはどうするわん!?」
獣王の言葉に俺はぽっぴんのことを見ると頷いて見せる。
「俺はぽっぴんと一緒にティアラちゃんから時の歯車を取り返す。いいなぽっぴん?」
「おちゃのこさいさいですっ! あんなちびっこ、私の魔法で吹っ飛ばしてやりますよっ!」
吹っ飛ばすなよ。多少力づくにはなるだろうけど魔法はやめろ魔法は。前方を見るとローリン達が戦闘を繰り広げている。あれは最早普通の人間が入り込める領域ではない。MM1000と呼ばれた女はダンジョンの時とは比べものにならないほど強くなっているように見えた。
ローリンの必殺の一撃と同等の威力を放つ両刃の剣を手に、メームちゃんのエネルギー弾を物ともせず打ち消している。最強の二人を一人で相手にしているにも関わらずその表情にはなにも変化はない。まあ、ロボットみたいなのでそういうのは顔に出さないのかもしれないけど、美人なだけにちょっと勿体ないな、なんて思ってしまう。
と言うわけで、あんな怪獣大決戦など普通の人間の俺達が巻き込まれたら死んじゃうので、少女の姿のティアラちゃんに襲い掛かろうと言うわけだ。なんか言ってておかしいような気もするが気にしない。
「ティアラちゃんっ! きみがなにをしようとしているのかはわからないが、もうやめるんだ。それ以上時間操作を繰り返したら、きみがきみじゃいられなくなってしまう」
俺の説得にティアラちゃんは嘲笑するかのような表情を浮かべると、にべもない返事をする。
「断る。これは私の悲願を成就する為に必要な物、もう少しでそれが達成されるのだっ! その邪魔は絶対にさせないっ!」
「おまえの悲願など知ったことか、返さないと言うのであれば力づくです。私はべんりさんみたいに甘くはないですからねっ!」
相変わらず無慈悲な思考のぽっぴんに、俺は焦るのだがその時なにか違和感を感じる。
なにかがおかしい、なにかが起こった。
起こった? なぜ、そう感じたのかはわからない。わからないが、なにかが起こったと言うのであれば、それを起こしたのは……。
「ティアラちゃん……今、なにかしたのか?」
俺は額から冷や汗を流しながらティアラちゃんの事を見つめる。その手には、虹色の輝きを放つ時の歯車があった。
そして、足元。そこに散らばる無数のガラス片と液体。俺がそれに気が付くとティアラちゃんはほくそ笑む。
「こんなチートアイテム。命のやり取りをしている場で無粋だとは思わない?」
ティアラちゃんの言葉に俺達は絶句した。
パワビタンを失った。おそらく、時の歯車を使って時間を止めたのだ。あれはそんなこともできるのか? なんにせよ、戦闘に於いて俺達のアドバンテージであり、命の安全を担保してくれていたパワビタンはもうない。
なにより時間を止めている間、ティアラちゃんは一生懸命俺達の手荷物や衣服の中にあるパワビタンを全部探して、足元で叩き割ったのだろうか? 律儀な子だな。
その瞬間、後方で爆発が起こる。俺とぽっぴんは爆風で地面を転がるのだがなんとか堪えてその場に伏せる。他の皆はソフィリーナがゴッデスウォールで防御してくれているおかげで無事のようだ。
安心するのも束の間。爆発の起こった方を見やると、メームちゃんが地面に膝を突きローリンは少し離れた所に倒れ込んでいた。
そして、メームちゃんの傍らで剣を振り上げている女の姿。
嘘だろ? あの二人がたった一人を相手に。
剣が振り下ろされた瞬間、メームちゃんは咄嗟に手の平からエネルギー弾を放つ。至近距離でそれを喰らったMM1000はガードをしつつ後ろへ吹き飛ばされた。
「ローリンっ! 我が援護する突っ込めっ!」
「心得ましたっ! うおおおおおおおおっ!」
メームちゃんの指示にローリンは雄叫びを上げながらMM1000へと向かっていく。それを反撃させまいとメームちゃんは無数のエネルギー弾で援護、あの二人が力を合わせて、それもこんな息の合った攻撃をするなんて、やっぱりアイドルプロジェクトをしておいてよかったな。この阿吽の呼吸もダンスで息を合わせる時に培ったものだろう。
見事二人の連携攻撃でMM1000の脇腹にローリンの剣が突き立てられた。
「馬鹿者っ!? 気を抜くなっ!」
メームちゃんが声を上げた瞬間、胴を斬られ地面を転がるローリン。
普通の人間であれば腹を刺されれば反撃などしてこないと、ローリンはほんの一瞬だが気を緩めてしまったのだろう、しかし相手は痛みを感じないロボット。完全に破壊され停止するまで攻撃を続ける兵器だ。
ローリンが斬られたことに一瞬動揺したのか、メームちゃんにも隙が生まれていた。
一瞬で間合いを詰められて今度こそ絶対絶命と思われた時、二人の間に割って入りMM1000の剣をその身で受けたのは獣王であった。
つづく。
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