第百七話  嫉妬で焼かれた肉の味②

 店内に入るとそこには肉が並べられていた。そりゃそうだ肉屋だからな。


 とは言っても、それほど多くの生肉は扱ってはいない。冷蔵庫がないので長くは持たないからな。燻製や干し肉や塩漬け、ハムやソーセージなんかがメインで置かれている。

大きな店とかだと魔法使いを雇って冷凍にしたりしているらしいが、魔法を使える奴がわざわざそんな職に就くよりも、もっと稼げる職業はいっぱいあるのでそんな店はほとんどないわけだ。


 店のカウンターには誰もおらず中を覗くと、おっさんがなにやら肉に塩を振っているところであった。その塩の振り方が異常にかっこいい、そんなに上から振る必要あるのかよ? あとなんか肉切る時にいちいちポーズ取らなくていいからな? なんだかわからんが肉に対する愛情が滲み出ているぞゴンザレス。あの人がゴンザレスだよな?


 店内で立ち尽くしていると俺達に気が付いたゴンザレスが奥からやってくる。


「いらっしゃい。肉をお探しで?」


 そりゃあ肉屋に来たのに野菜をくれと言う奴はいないだろう。

するとメームちゃんが幾つかの肉を指差しながら分量を言っていく。


「これを300と、これを150、あとこれを250、これは300ちょうだい」


 随分買っていくんだねメームちゃん、そんなにお肉を買ってなにをするのかな? 俺はわけがわからず黙って見ているのだが、メームちゃんは注文を終えると俺の方を振り向いて手を差し出す。


「べんり。おかね」


 あー、これ俺が払うのね。


「メームちゃん。そんなにお肉買ってなにするの?」

「たべる」


 いやいやいや、そんなに一人で食べきれないでしょ。そんな肉食だったっけメームちゃん? にしても一人で1㎏も食べ切れるわけがない、腐っちゃうよ。


「お腹空いてるの? だったらどっかでごはん食べていく?」


 しかしメームちゃんはぶるぶると首を横に振って聞かない様子。こうなってしまっては頑ななのでしょうがない。いつからこんな寺門ジ○ンみたいになったのかは知らないが、まあきっと成長期なんだろう。


 ゴンザレスが奥で肉を切り終わって包んで持って来てくれる。


「ありがとう。ゴンザレスさん」

「? 俺はゴンザレスじゃないぞ」

「え? だって店名が……」

「ああ、あれはなんとなく肉屋っぽい名前にしただけで、俺の名前はヌスレットってんだ」


 そいつは失礼しました。それにしてもなんでゴンザレスが肉屋っぽいのかはわからない。あと本当の名前をどっかで聞いたことがあるような気がするけど、どうせ思い出せないから気にしないでおこう。


 お代を払い終えると俺とメームちゃんは店を出た。食べ物屋に動物を入れるわけには行かないので外に待たせておいた獣王の背中に買った肉を括り付けると、メームちゃんは俺が肩車をしてあげる。


「べんり。つぎはあっちー」


 なんだかメームちゃんの中で買うものが既に決まっているらしいな。こうなったら財布の許す限りとことん付き合おうじゃないか! なんてったって俺はメームちゃんにはめちゃめちゃ甘いからなっ!



 そして午後3時を回る頃にやっと買い物を終えると俺達はコンビニへと再び戻ってきた。

 獣王の背中には買った食材やその他諸々が山の様に積まれている。コンビニに着く頃にはもう足もぷるぷると震えて限界の様子であった。途中助けを求めてきたが俺はそれを無視。乗り物に徹しようとしたおまえの望み通り扱ってやったんだから感謝しろよ。


 どうやらソフィリーナとぽっぴんも帰ってきていたらしく、俺達が大荷物を抱えて帰ってきたことに気が付くとゾロゾロと店内から出てきた。


「なぁにぃ? そんなにいっぱいなにを買ってきたのー?」

「肉やら野菜やら。あとなんか木炭とかその他諸々だ」


 ソフィリーナは眉を顰めながら荷物を広げる俺達の姿を見ている。

 その横で肉と聞いたぽっぴんが興奮した様子で声をあげる。


「むむっ! 今日は焼肉ですかっ!? やりましたね! 外で食べないで帰ってきて正解でした」


 やれやれ、おまえはほんとに食べ物の事となると、まったくもって卑しい奴だ。


「べんり。ちょっと手伝って」


 メームちゃんに手を引かれて俺は店の中へ入って行く。そしてバックヤードに来ると什器棚の上を指差してメームちゃんが言う。


「あれとって」

「え? なに? なにがあるの?」


 言われるがままに俺は踏み台を持って来て棚の上を見ると、バーベキューコンロがそこにはあった。


 いつの間にこんなものを……。




「えー、と言うわけで今日はメームちゃん主催で、急遽バーベキュー大会を開くこととなりました」


 参加者は俺にメームちゃんに獣王、そしてソフィリーナにローリンにぽっぴんの五人と一匹である。

 一体メームちゃんは何を考えているのか? もしかして皆と仲良くなる為にこんなことを? そうとなればこれは全力で強力しなければなるまい。やっぱりメームちゃんも気にしていたのだ。俺達と出会って、共に十二宮での死闘を戦い抜き、まぁぶるちょこっと。のメンバーとして厳しい練習を乗り越えてきはしたが、やはりどこかまだお互い気を使うと言うか、余所余所しいところがあるからな。

 メームちゃんの立案で皆とこうして和気あいあいとパーティーを開けば、そんな溝も埋まるってもんだろう。


「それでは皆さんお飲み物は行き渡ったでしょうか?」

「そんなことどうでもいいから早く肉を焼きましょうべんりさんっ!」

「そうよぉ。乾杯なんてあとあと、早く火点けなさいよ火っ!」


 ちっ、協調性のない奴らだな。ソフィリーナとぽっぴんに急かされて俺は木炭に火を点けると、なんだかキャンプっぽい感じになり気分も高揚してきた。

 ソフィリーナなんかはもう既に最初の缶ビールを飲み干しており、次から次へと店の酒を飲み始めている。後で請求するからな。


「べんり。いっしょにおにくやこう」


 そう言ってメームちゃんがお皿に盛ったお肉を持って来た。


「おー、いいねいいねー。やっぱ新鮮な肉は美味そうだ」


 俺が抱えてあげると、トングで肉を網の上に並べるメームちゃん。ジュージューと音を立てながら焼けて行く肉の香ばしい匂い、脂が溶け出して程よい感じに焼けてきた。


「べんりくん、そろそろいいんじゃないですか? メームさんの分と取ってあげますね」


 ローリンが箸を伸ばすのだが、それをメームちゃんがインターセプト。焼けた肉を皿に取って俺の口元へと持ってくる。


「はいべんり。あーん」

「え? 食べさせてくれるの?」


 メームちゃんがにっこりと微笑んで頷く。それならば頂きましょう、パクっ!


「うーん。肉汁が染み出てじゅ~しぃ~」

「べんり。おいしい?」

「うん。メームちゃんが食べさせてくれたから更に美味しくなったよ」

「じゃあもう一個」


 そう言うとメームちゃんは肉を取るのだが、なにやら口元に笑みを浮かべて他の三人を見たような気がしたのは俺だけだろうか?


 その瞬間、他の三人に電撃が走ると急に場の空気がピリピリしだし、楽しいバーベキューの空気に暗雲が立ち込めはじめるのであった。



 つづく。

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