第百八話  嫉妬で焼かれた肉の味③

 甲斐甲斐しく焼けた肉を皿に取り俺に食べさせてくれるメームちゃん。お返しにと俺もメームちゃんに食べさせてあげる。

 メームちゃんは俺の肉を頬張ると唇からヌルヌルした液体が垂れる、それを舌先でペロっと舐め取ると頬を染めながら。


「ん……べんりの美味し……」


 なーんて脳内妄想を爆発させているとコンロの向かいからなにやら物凄い殺気を感じた。


「ソフィリーナさん……なんですかあのバカップル? なんだか無性に腹立つんですけど、なんなんでしょうかこのモヤモヤする感じは?」

「わかるわぽっぴん。あれよあれ、これは殺意って奴ね。幸せならOK! とか言う奴もいるけどそんなのは詭弁よ。他人の幸せそうな姿なんて毒以外のなにものでもないわっ!」


 なんなんだこいつら、マジでやべえな。嫉妬乙wwww。


 そんな二人を余所にメームちゃんは、俺のコップが空なのに気が付くと飲み物を注いでくれる。俺がそれを一気に飲み干すと「いいのみっぷりね、うふふ」なんて言いながらまたお酌してくれるのだ。

 そんな姿が更に二人の神経を逆撫でするのか、忌々しげな顔でこちらを睨み付けている。


「ちっ、まあいいわ。ぽっぴん、あんなのは無視して肉を食べましょう肉を」

「そうですね。あんな奴らよりも肉です。肉さえあれば私はそれでいいのですっ!」


 そう言いながら肉を網の上に並べる二人。


「むふふふふ~。そろそろですかねぇ? お肉ちゃん♪ いい感じで脂が滲み出てきて堪らないですねぇ」


 ぽっぴんは涎を垂らしながら肉が焼き上がるのを今か今かと待つ、そしてちょうどいい焼き加減になった所で肉を一気に皿の上に取り上げるのだが、野菜を取りに行っていたメームちゃんが後ろからぶつかってしまった。

 その拍子に焼き上がった肉を皿ごと地面に落としてしまうぽっぴん。


「あ、ごめんね」


 それだけ言うとメームちゃんは俺の所に戻ってきて、何食わぬ顔で野菜を焼き始めるのであった。


 ぽっぴんは震える手で皿を拾い上げると、付いていた肉汁をペロリと舐めて雄叫びを上げた。


「うおおおおおおおおおおっ! 野郎っ! ぶっ殺すっ!」

「お、落ち着きなさいぽっぴんっ! お肉ならまだあるからっ! 今ここで魔法をぶっ放したら台無しよおっ! ローリンも見てないで止め……ってローリン?」


 ローリンはと言うとそんな目の前の大騒ぎすらも目に入らないのか、もう炭になっている肉を何度も何度もひっくり返しながら、いちゃいちゃする俺とメームちゃんのことをぼーっと見つめている。


「こ、こっちのお肉はどうかしら? ちょうどいい具合に焼けて」


 思考の停止しているローリンの姿に苦笑いしながらソフィリーナは別の肉を取ろうとするのだが。


「ちょっと火よわくなってるかも」


 そう言ってメームちゃんは団扇で木炭を扇ぎ始めると、火の粉が舞いあがり反対側のソフィリーナに襲い掛かった。


「あっつっ! アチアチっ! あちいいいいいいいいいいっ!」


 ソフィリーナが火の粉を掃いながらジタバタしている間に肉を取り上げるとメームちゃんはそれを俺に食べさせてくれる。


「おまえらさっきからなにやってんだよ? 食べ物で遊ぶなよなぁ」

「なに言ってんのよっ! さっきからわたし達が肉を食べようとすると妨害してくるのはその子じゃないのっ!」

「たまたまタイミングが重なっただけじゃないかよ。お呼ばれされてるおまえらが気を使えよな。折角メームちゃんが用意してくれたお肉がもったいないだろ」


 お金を払ったのは俺だけどな。


 そんな俺の言葉が気に食わないのか、ソフィリーナは顔を真っ赤にして憤慨している。そしてその怒りを押し殺すかのごとく、肉の代わりにビールを口の中に流し込むのであった。


 するとメームちゃんの方から気を使ってソフィリーナ達に話しかける。子供にこんな気を使わせるなんて、まったくもって駄目な女神と賢者だな。


「そふぃりーな。ちゃんとおにくたべてる?」

「ええ、おかげさまでまだ一口もありつけてないわ」

「ぽっぴんは?」

「ほおほお? ソフィリーナさん、今私はおちょくられているのでしょうか?」


 物凄く険悪なムードが流れ始めるのだが、メームちゃんはにっこり笑うといい感じに霜降っている高級そうなステーキ肉をだしてきた。


「これ、いちばんいい肉だからたべて。ふたりのためにとっておいた」


 なんだかんだで良いお肉を二人の為に用意しておくなんて、メームちゃんは本当にお茶目だな。きっと恥ずかしくてちょっとした悪戯をしていたのだろう、ソフィリーナとぽっぴんもそんなメームちゃんに対して怒るのも大人気ないと思ったのか、素直にそれを受け取った。


「ま、まあ、そう言うなら頂こうかしら」


 ソフィリーナは警戒しながら肉を受け取ると網の上に乗せて焼き始める。


「レアくらいがちょうどいい」


 メームちゃんに言われてそんなに火は通さずに網からあげると軽く塩を振って食べる。


「あら? 美味しいわねこれ。独特な味だけど、臭みもなくてほんのり甘い感じ。なんのお肉だろう? 牛や豚ではないわね。ね? ぽっぴん」

「むむっ! これは!? 濃厚な味でありながら、あっさりとした脂の甘みに加えコリコリとした独特の歯応え、かと言って硬いわけでもなく、これぞ、ザ・肉って感じですねっ! これは一体何の肉ですか!?」


 どうやらかなり美味しいお肉らしい。二人は貪るように肉の味を堪能している。

 そんな二人の問い掛けにメームちゃんは眉一つ動かさずに答える。


「それは、ピーのピーのぶぶんのにく」


「「ぶううううううううううううっ!」」


 同時に吹き出すソフィリーナとぽっぴん。


 それは一応食用の、とあるモンスターの肉棒なのだが、まあはっきり言って好んで食べたいとは思わない部位の肉であった。

 最早完全にメームちゃんに弄ばれている二人、ダンジョンの端でげーげーと吐いて戻って来ると物凄い剣幕で俺のことを睨みつけてくる。


 そんな気まずい空気の中、俺とメームちゃんだけがイチャイチャしつつ肉を食べ、ソフィリーナとぽっぴんは野菜を消化しつつ、ローリンは灰になった肉を引っ繰り返し続けていたのだが、流石にこの状態は良くないと俺は一計を案じてみることにした。


「ちょっとトイレ行ってくるわぁ。あ、俺の肉ちゃんと取っておいてね」


 そうやって席を外して女子だけにすれば、自ずと距離も縮まるのではないかと、そんな安易な考えがよくなかった。



 これは俺がトイレに行っている間に起こったことを、後から獣王に聞いた女同士の戦いの物語である。



 つづく。

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