第九十二話 Re:ゼロから始める後日談①

 アルオデリオの犯行は未遂に終わり、ステージは無事に終わった。

 証拠は十分に揃っているので罪に問う事もできるが被害も特になかったし、オルデリミーナが後は自分に任せてくれと言うので、アルオデリオ一味はその場で解放してやった。

 まあ王族相手にこれ以上問題を大きくしても何の得もないし、貸しを作っておくのも良いだろうと思うってな感じで一件落着と相なった。


 そして俺はそんなやりとりを物陰から見ていた。もう一人の俺が全部心得ているみたいだし後は任せて帰ることにしようとするのだが。


「あれ? これ画面消えてね? あれ? どうやって点けるんだ?」


 デジタル時の歯車の電源が切れているみたいなのだが入れ方がわからない。最近の家電製品は説明書が付いてないからほんと困っちゃうよね。


 どこをどう弄ればいいのかさっぱりだどうしよう、このままだと元の時間に戻ることができないぞと、ちょっと焦り始める。


「あー、それたぶん魔力を注入しないと動きませんよ」

「あ、そうなの? それならそうと早く……」


 突然俺の横で誰かがそう言う、顔を上げると俺と一緒にデジタル時の歯車を覗きこんでいたのはぽっぴんであった。


「うおぅっ! ぽっぴんっ!?」


 ぽっぴんは怪しげな眼で俺のことを、じーっと見つめている。


「な、なんだよ?」

「なんでべんりさんが二人居るんですか?」


 向こうの方で皆と談笑している俺のことを指差しながらぽっぴんが言う。

 やばい! 見られた。いや、やばいのか? やばいってことはないよな別に? よくよく考えるとやばくはないよね。

 と言うわけで全部片付いたので、俺はぽっぴんにこれまであったことを説明した。


「ほほぉ、つまり私は大賢者になれたと言うことですね」

「あ、あぁ、そんな称号を誰から貰うのかは知らないがなれたんじゃないのか?」

「それならよかったです」


 満足げにしているぽっぴんであったが、1万年以上もひとりぼっちになるのにそれはいいのであろうか?


「まあ私のことです。1億と2千年経っても問題ないと思うのでそれは気にしないでください。さて、べんりさん。その腕時計を見せてください」

「わかるのかよ?」

「私の作ったものです。なんとなくわかりますよ。ほら、ここに私考案の賢者マークがあります」


 本体の裏側にはドリームキャストみたいなぐるぐるマークが小さく彫られていた。

 そうしてぽっぴんは手慣れた様子で操作すると、ものの数十秒で設定ができたらしく俺に渡してくれた。


「これでべんりさんが気を失ったあの時間に戻れますよ」

「さんきゅー、おまえすげえな。ところで、あれからなにがあったんだよ?」

「それは戻ればわかりますよ。べんりさんが妙に優しかった理由もなんとなくわかりました」

「?」


 そう言うぽっぴんの笑顔は未来で別れた時と同じあどけないものであった。

 俺はデジタル時の歯車を起動すると再びぽっぴんに向き直って別れを告げる。


「おまえにお別れを言うのは今日で二度目だ」

「忙しい人ですね。じゃあ、また。べんりさん」

「ああ、またな。ぽっぴん」



 そして俺は元来た時間へと戻った。





「べんりっ! しっかりしてべんりっ!! お願い目を覚ましてよべんりっ!」


 呼ぶ声に目を開けるとソフィリーナが涙目で俺の顔を覗きこんでいる。


「なんだよ、おまえかよ」

「なんだよってなによっ! なんなのよあんたっ! 死んだり生き返ったり、なに? 死ぬ死ぬ詐欺なの? 馬鹿なの死ぬの? いい加減にしないと本当に死んだときに誰も泣いてくれなくなるわようわあああああああああん」


 びーびーと泣きじゃくりながら俺にしがみついてくるソフィリーナ、まったくもって騒がしい奴だな。オチオチ死んでもいられないわまったく。

 周りを見ると皆ホッとした様子で俺のことを見ている。


「本当になんともないんですかべんりくん?」

「ああ、大丈夫だよローリン」

「私と戦った時も同じようなことがありましたよね? 一度お医者様に詳しく見て貰ったほうがよろしいのでは?」

「心配かけてすいませんシータさん、たぶん医者に相談したら即刻精神病棟行きなのでやめておきます」


 俺の冗談に小首を傾げるシータさん。まあ本当に冗談じゃなくなる可能性があるけどね。


 ようやく帰ってきた。例えるなら全10話くらいかけて時間旅行をしていた気分だ。俺は立ち上がると皆に向かって言う。


「よっしゃっ! 気を取り直して楽しもうぜっ!」


 俺の元気な様子を見て安心したのか、皆またお祭りを楽しみ始めるのであった。


 色んな屋台を回って見ていると、祭りの熱気に中てられたのか、遠巻きに見ていた人間達も次第に参加し始め、いつしか辺りは人間も魔族も関係なく祭りを楽しむ人で溢れかえっていた。

 そこには沢山の笑顔が溢れ、幸せそうな姿を見せる人々があった。

本当に良かった。これだけでも、俺がこの異世界にやってきた意味があったんじゃないかと思えるくらいに、本当に……。



「むむ! べんりさん。あのバナナチョコとか言うやつ、とても甘い匂いがして美味しそうです」

「おまえ甘い物ばっか食ってると太るぞ」

「私は賢いので人の数倍脳が糖分を求めるので大丈夫ですよ」


 そう言いながらねだる様な視線を俺に向けてくるぽっぴん。普段だったら自分で買えと言ってやるところだが。


「しょうがねえな。買ってやるよ」

「え? 本当ですかっ!? なんですか急に?」

「ついでにあのりんご飴も買ってやろう」

「ええっ!? 一体なんですか、気持ち悪いですっ! やっぱりさっき倒れた時に頭でも打ったんじゃないですか?」


 おい、しれっと気持ち悪いとか言っただろてめえ、やっぱり買ってやるのやめようかな。


 そして時刻は夕方、16時を過ぎようとした頃に騒ぎは起きる。



「ここは初代レギンス皇を祀る神聖なる場所だぞお! 即刻こんな祭りは取り止めろおっ!」



 来たな!



 通りの向こうから騎士団を引き連れて現れたアルオデリオを見て俺は、これから起こる大騒動を思い起こすのであった。



 つづく。

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