第六十話 究極の剣士対決! 聖騎士対魔剣士の巻③
「つ……強い……」
ローリンは床に剣を突き立て膝を突くとそう零した。
「くっ、皆さん下がってくださいっ! またあの攻撃が来ますっ!!」
「我が魔剣の前に平伏せっ! 聞くがよいっ! バウルムンクの叫びをっ!!」
「エクスっ! カリボーーーーーーンっ!」
二人の放った必殺の一撃が衝突すると、その衝撃波が俺達に襲い掛かる。
「ぬおおおおおおっ! これやばくないか? こんなところにいたら俺達も巻き添えをくらうぞ」
「むぅ、魔法で援護したいところですが二人の動きが早すぎて狙いが定まりません」
「おまえの魔法はローリンも巻き込むからやめろっ、それよりソフィリーナ! ゴッデスウォールで防御を……って、おまえなにやってんの?」
振り返るとソフィリーナが頭を抱えて悶絶している、どうやら飛んできたなにかの破片が当たったようだ。涙目になりながら「もうやる気なくした」と不貞腐れている姿に俺達はげんなりするのであった。
「ふははははっ! いいぞ女子高生よっ! もっと、もっと私を楽しませろ女子高生っ! おまえの技でもっとこの私を快楽へと導くのだ。じょしこうせえええいっ!」
なんか盛り上がってるなぁ、あっち。
なぜかそこだけ聞いてると物凄く卑猥な台詞に聞こえるのは何故だろうか? 歓喜の声をあげるエカチェリーネに、俺はついついイケナイ妄想をしてしまった。
しかし徐々に押され始めるローリン。相手が強いのはわかっているが、しかしこれまでと比べても動きにキレがないように感じられる。
必殺の一撃もフルパワーで放っていないように見えるし……まさかあいつ。
エカチェリーネの剣を受けて床を転がるローリンは柱へと叩きつけられた。
「ローリン! おまえまさか、俺達を巻き添えにしない為に力をセーブしているのか!?」
俺の問い掛けに答えないローリンは、片膝を突きながら相手のことを見据えている。
しかし、俺はその瞳に確かな揺らぎを感じた。やっぱりあいつは、本気で戦っていない。
その反応に苛立った様子を見せたのはエカチェリーネであった。
「ほぉ……奴の言っていることは本当か女子高生ローリン? おまえはこの私を相手に手を抜いていると?」
そりゃあ苛立つだろう、互角、いやそれ以上の力を見せつけた相手が、追いつめている相手が実力を出し切っていないなんて、命のやり取りをしているこの場で本気を出していないなんて、こんな舐めた話はないだろう。
エカチェリーネの問いにローリンはかぶりを振るとぽつりと言う。
「手を抜いてなんていませんよ」
「なら、あの男はなぜあんなことを言う? おまえの一撃が全力ではないとあの男は知っているのではないのかっ!?」
「確かに、私は全力で技を放っていません」
「きさま……私を愚弄しているのか」
一体なんなんだ? ローリンは相手を挑発してなにをしようとしているんだ? そんな風に翻弄しなければやはり勝てない相手なのだろうか? はっきり言ってここにいる誰もが、白兵戦に於いてローリンに敵う者は一人もいない。だからローリンがなにを考えて全力をださず相手にやられているのかわからなかった。
「違います。愚弄しているわけではありません。確かに技や力その他諸々あなたの剣は、300年練り上げたと言うには正直それほど大したことはありませんが」
「な? なんだとっ? おまえ、やっぱり馬鹿にしているだろうっ!?」
「いやいやいや、本当に馬鹿にしているわけではないですよ。まあ、確かに強いとは思いますよ。いやでも、やっぱりそれほど大したことはないかもしれないかな?」
ローリンの言葉に真っ赤になりぷるぷると震えだすエカチェリーネ。
おそらくローリンは本当に相手のことを馬鹿にしているわけではないのだろうが、はっきり言ってこれは怒るだろう。
「とにかく、私の本気の一撃はとても危険なんです。あなただけではなく、ここにいる皆を巻き込んでしまう恐れがあるのです」
エカチェリーネは完璧に舐められたと思ったのだろう、最早怒りすら通り越してなんだか仏のように安らかな顔になっていますよ。
あれは完全にあれだ。悟りを開いた状態だね。純粋な怒りでなんか内に秘めたる超パワーに目覚めてしまうかもしれない。
「いいだろうっ! だったらその全力っ、私が出させてやる。後悔するなよ女子高生っ!」
そう言うと「ハァァァアアアっ!」と言いながら剣にパワーを籠め始めるエカチェリーネ。
「おいおいおい、なんかやばいんじゃないのか? あれはなんかすごい技を放つんじゃねえのか?」
「今だああっ! やっちまえJKっ! 相手は隙だらけだぞおおおっ!」
叫びながらエカチェリーネに石を投げつけるソフィリーナを俺は後ろから羽交い絞めにして止める。
なんて無粋なやつなんだこいつは、少年誌だったら相手がパワーを溜めてる時に攻撃なんてご法度だぞ。ここは素直に「な、なんて
ローリンはと言うと、この状況になってもまだ迷っているように見えた。
本当に全力で技を撃つことを躊躇っている様子は、エカチェリーネの闘争心に更に火をつけたようだ。
「この宮殿ごときさまらを木端微塵にしてくれるわああああっ!」
最早完全に悪役の台詞である。まあ余裕ぶっこいて出てきた強キャラだと思ってた奴が、実は器の小さい奴だったってのはお約束と言えばお約束だ。
このままエカチェリーネの超必殺技が放たれるかと思ったのだが、そこへ突如飛び出したのはなんと獣王であった。
獣王はエカチェリーネにしがみ付くと上空へと一気に上昇する。
「
「そ、そんなっ! それでは獣王さんまでっ!」
「俺ごと撃ち抜くんだっ! それしかねえっ! やれえええええっ!!」
ど、どうして? そんな……そんなことってあるかよ。
信じられねえ、どうして地下のダンジョンなのにそんなに空が高いのかなぁ?
全員が小首を傾げて不思議に思うのだが、みるみる上空へと舞い上がって行く獣王とエカチェリーネ。
ローリンは震える手を強く握りしめると剣を振るうのであった。
「くっ! 離せ獣王っ! きさまっ、なぜ? なぜ聖騎士の味方をするっ! きさまは奴を憎んでいたのではないのかあああっ!?」
「ふ……エカチェリーネ・オルストラ。確かにおまえは強い、剣士としては一流かもしれねえ。でもな、本当の強さってのはよ……一度は憎んだ相手でも、許せる心を持つことなんだぜ? 俺はそれをあいつに教わ」
「うるせええええええええっ!」
エカチェリーネが獣王をぶっ飛ばして離脱した直後、ローリンの放った一撃が獣王だけを飲み込むのであった。
つづく。
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