第五十九話 究極の剣士対決! 聖騎士対魔剣士の巻②

 なにを言っているんだ? なにも抵抗しないからこの場で自分を切り伏せろだと? 気でも違えたのかローリン?


「ローリンなに言ってんだっ! ここに来て突然どうしたってんだよ?」

「突然ではありませんっ!!」


 声を荒げるローリン。本当にどうしたと言うのか。

 ローリンは俯き涙声で続ける。


「この戦いが始まってからずっと……いえ、ここに来る前からずっとそうです。私は私のしてきたことをずっと悔やんできました」


 ローリンの懺悔が始まると、エカチェリーネも剣を下ろし目を瞑りじっと耳を傾ける。


 こちらの世界に来てからと言うもの、聖女と間違われ帝国に差し出され、ひょんなことから聖剣を手にし、騎士としての才能が開花すると数多の戦場に駆り出され、振るいたくもない力を振るい続けた。

 戦場では多くの兵士の命を奪ってきたと、そして悪戯に使ったその力の所為でなんの罪もない魔族達の住処を奪ってしまったことに、ローリンはずっと己を責めてきたと言うのだ。


「私はそんな罪深い人間だと言う事を、べんりくん達と出会ってから忘れていました。いいえっ、ずっと思い出さないようにしていたんですっ! コンビニでの皆との暮らしが楽しくて、ずっとそれを忘れていたかったんですっ!」


 その場で両膝を突き泣き崩れるローリンを、俺達は黙って見ていることしかできなかった。

 その姿を見てエカチェリーネは憐れむような視線をローリンに向けると言い放つ。


「とんだ甘ったれであったな、聖騎士ローリンよ。己の振るったその剣を、力を使ったことを後悔しているだと? ふざけるなあああああっ!」


 怒声を上げるエカチェリーネに驚き顔を上げるローリン。


「ならば、おまえの剣によって倒れて行った戦士達の存在意義とはなんであったのだ? 立場は違えど己の立つ側の国土を民を家族を守らんが為に、命を捧げた戦士達に対する侮辱であるぞっ!」


 エカチェリーネは拳を突き出し握りしめると、怒りで震えていた。


 そうだ、彼女の言う通りだ。一歩間違えればそうなっていたのはローリンの方であったかもしれない。戦争とはそういうものなのだ。

 誰だって好き好んで相手の命を奪っているわけではない。そういう奴もいるのかもしれないけれど、少なくともローリンは違う。


 エカチェリーネの叱咤に茫然とするローリンにゆっくり近づいて行くと、傍らに寄り添うようにして話しかけたのは獣王であった。


「まさか、あんたが聖騎士だったとはな……灯台下暗しとはまさにこのことだわん」


 え? 今頃気が付いたのおまえ? 今まで散々そういうやりとりあったよな。なかったっけ? まじであいつ獣以下の知能しかないんじゃね?


「獣王さん……ごめんなさい。なかなか言いだせなくて、私って本当に卑怯者ですよね」


 獣王に向かって頭を垂れて謝るローリン。


 やめるんだっ! そんなケダモノに対して人間が頭を下げる必要なんてないっ! そいつは単なる犬なんだぞっ!


「俺は聖騎士のことが大嫌いだわん。俺達の住処を奪い、魔王様や皆のことを傷つけた。そんな奴をずっと憎んでいたわん」

「獣王さん……」

「でもよ。そんな聖騎士があんただって知った今、なぜだかよ……復讐しようっていう気持ちがこれっぽっちも沸いてこないわん」


 ローリンの肩にお手をするように前足をかけて語りかける獣王。

 なんだか犬に慰められるているその姿がマジでちょっと切ない。


「獣王ともあろう者が人間であるあんたに、メイムノーム様の為に必死で戦っているあんたに情が移ってしまったわん。だからよ、そんな風に下を向いていたら駄目だわん。あんたが自分で自分を許せないと言うのなら、剣を取るわん。騎士なら騎士らしくっ! 剣士なら剣士らしくっ! その剣で罪を贖うわんっ!」


 な、なんなんだこの犬……。うわああああああ、なんかムカつくぅぅぅううっ! なんか良い事言ってやったみたいな感じで、したり顔で帰ってくるのが無性にムカつくうううっ!


 俺と同じ気持ちなのだろうか、帰ってきた犬の頭をメームちゃんが思いっきり引っぱたいていた。


 暫く俯き黙り込んでいたローリンであったが、床に置いた聖剣を手にするとゆっくりと立ち上がる。

 そして、大きく深呼吸すると俺達の方へは振り返らずに告げた。


「やっぱり私は聖騎士なんかじゃないです。だって……だって私はただの女子高生なんですからっ!」


 そう言うと金髪のウィッグを脱ぎ捨てて剣を鞘から引き抜いた。


「ふふ、どうやら吹っ切れたようだなっ!」

「吹っ切れてなんていませんっ! なんだか無性に腹が立ったんです。犬なんかに同情されたのがムカついたんですっ! だから私は聖騎士をやめますっ! ここからは単なるJKになってあなたを倒しますっ!」


 ローリンのその言葉に誰もがうんうんと頷くと、獣王は一人いじけて泣いているのであった。


「いいだろう。女子高生ローリン、相手にとって不足はない。全力で行くぞっ!」

「望むところですっ!」


 お互いが剣を抜き構える、そして最初に仕掛けたのはローリンであった。


「エクスっ! カリボーーーーーーンっ!!」


 出たっ! ローリン必殺の一撃、城を吹き飛ばす威力のエネルギーが衝撃波となりエカチェリーネに向かって放たれる。

 しかしエカチェリーネは余裕の表情を見せると、剣を片手で振り下ろした。

 その瞬間、大地が割れローリンの衝撃波も一緒に切り裂かれ爆散した。


「ば……馬鹿なっ!?」


 声をあげたのは俺であった。

 技を破られた当の本人は奥歯を噛み険しい顔をしている。

 エカチェリーネは口元に笑みを浮かべると、剣をゆったりと水平に構えてローリンを見据えた。


「なるほど、聞きしに勝る一撃だな。次は私の番だっ! 聞くがいい。魔界の亡者の怨嗟の声をっ! バウルムンクシュライっ!」



片手突き一閃!



 大気を切り裂く音なのか、まるで悲鳴のような高音を鳴り響かせながらの突進突き。


 エカチェリーネが駆け抜けると、成す術なくローリンは宙を舞い頭から地面に叩きつけられるのであった。



 つづく。

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