第7話 馬車の中で
馬車…のようなものに乗った三人は、とりあえず名前だけ目前にいる二人に伝えた。
「誠様、那毬様、留様ですね」
確認するようにイネスが言う。
「これからハインケル領主の屋敷へ向かいます。しばらく滞在したのち、王都へ向かう予定です」
「……」
こくり、と三人が頷く。
「今はまだ混乱していることが多いでしょう。大丈夫です。『箱』の能力も『鍵』の能力も、そして最後の方の能力も近いうちに発現…現れることでしょう」
その言葉に、一瞬那毬がイネスを見る。
「こちらに来られる方は、総じて特殊な能力を持っています。元の世界で何の力も持たない方が、この世界に来る祭、神に能力を付与…与えられるのです」
その視線に目ざとく気付いたのだろう。イネスが補足説明をする。
「こちらに来た異世界からの来訪者を、私たちが神子とお呼びするのも、その人智を超えた能力によるところが大きいですね」
「……能力」
ぼそりとつぶやいたのは留だ。
「少し、説明をしておきましょうか。あまり文献にも神子様に関する記述は少ないんですが…人智を超えた能力は、この世界の魔術と根本的に違うものです。こちらの世界では魔術というものがありますが、それは四代元素、水、炎、風、土の力を借りる形で行われている、技術です。ですが、神子様の持つそれは…」
「まさに神の奇跡だ。ある神子は、生物ならば瀕死の者まで元の姿に戻す、『癒』の力を持っていた。ある神子は、何もないところから『道』をつくりだし、この国の発展に尽力した。あらゆるところに『壁』を出す能力『穴』を作り出す能力。挙げればそれだけきりがない」
「その中でも、唯一魔王を倒せる神子様が、『箱』の神子様と『鍵』の神子様なのです」
――つまり、それだけの人間をこの国は、世界は、召喚していたことになる、か。
留はその渋面を隠すためにうつむく。
隣の誠も、思案気な顔だ。
――傲慢な国だ。
そう、思わずにはいられなかった。
困ったときには異世界から召喚する。それを、繰り返してきたのだろう。
「神子様たちはまだ幼い。文献にある通りですが…。これからしばらくの間は、この国の基本的な情勢や教養を覚えていただきます。魔王と戦う準備も、訓練や魔族側の知識をお教えすることになるでしょう」
「……箱でも鍵でもないものは?」
聞いたのは留だった。
「……どんな能力かにもよりますが、ある程度同じことをしていただき、能力に応じてお二人とは別行動をとることになると思います。能力によってはお二人のサポートに回る場合もあるでしょう」
一瞬の間が、不吉なものに思えたのは留だけではないだろう。
「……魔王って…世界は?」
誠が口を開く。
「まだ、神子様たちには難しいことかもしれませんが……。魔王を首領とする魔族と私たち人間は、創世の時から争っていると言われています。先代の『箱』の神子と『鍵』の神子が魔王を封じましたが、その封印が解かれようとしているのです。ですが、ご安心を。まだしばらくの猶予があります。今後10年は、魔王も動けないはずです。神子様の身体の成長を待って、魔王と対峙できるはずです」
「……」
少しの間、沈黙が生まれた。
「……帰ることは、できないの?」
か細いその声に、イネスは静かにうなずいた。
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