第十五話 蘇る死人の共通点
その夜、俺達は今日も窓の上から蘇った死人達を眺めている。もちろんその横には、ニナもいる。
「お姉ちゃん、起きてるかなぁ……」
「こんなにいっぱいいると、中々見つけられないだろう?」
「そんなことないよ! ニナはお姉ちゃんを直ぐに見つけられるから。マリナお姉ちゃんと同じポニーテールだもん。たまにツインテールにするけど」
髪型が一緒だったのか……だから懐いてるんじゃねぇだろうなこの子。
「さて……マリナさん」
すると、その反対側に立っているジルが、俺に向かってそう言ってくる。実は今回、少し試したい事があってな。ジルと一緒にこの蘇った死人達の中に、突撃する事にした。
今の所、人を襲って来るような雰囲気には見えないが、もしこれで俺達を襲ってくるとなったら、ここの村人達を非難させないといけないだろう。
「……マリナお姉ちゃん? ジル君?」
そして、窓から身を乗り出した俺達に向かって、ニナが不思議そうに首を傾げてそう言ってくる。
「あ~いつまでも待ってちゃしょうがねぇだろう? ちょっとあいつらに、ニナの姉ちゃんの事聞いてくるな」
「あっ、そっか! それならニナも行く!」
そう言うと思ったよ。だけど、俺の腕を掴もうとしたニナを、セリーヌさんが後ろから抱き寄せた。
「ダメよ、ニナ。あなたはここでお姉ちゃんを探しなさい」
「え~!! やだ! ニナも行く!」
駄々をこねられると中々説得出来ないからな。ここはニナの事は放っておいて、下に飛び降りるとしよう。
「行くぞ、ジル! 杖は?」
「ちゃんと用意しています。それと、僕から離れないで下さい」
「あいよ!」
そして俺達はそう言うと、2階の窓から下へと飛び降りる。だいたい数メートルの高さだからな、怪我をする事はないが、降りる時に重心のもって行き方を間違えると、余計なダメージを受けてしまう。
まぁ、その辺りは死体がひしめく中に降りるんだ。ちょっとそいつらの体を踏み台にすれば、難なく降りられる。さて……。
「……来るか?」
「マリナさん……さっきマリナさんが踏み台にした奴」
「ん? おわっ!」
ちょっと待て、脆すぎねぇか?! 肩の所を踏み台にさせて貰ったけれど、そこの肉が抉り落ちてるぞ!
「あっ、戻りましたね……」
「いや、おい……肉がグジュグジュいって増えて戻……気持ち悪……」
「……死体以外を使った方法は、これで消えましたね。確実に人の体です」
すると、ジルはヨロヨロと歩いている死体の内の一体を引っ掴み、そいつの腐り落ちている肉を引きちぎって観察すると、そう言ってきた。お前、良くそんな事が出来るな……ガキだろうが、お前は。あっ、ガキだからこそ容赦ないのか。
そして、やっぱりこいつらは襲ってこない。だけど臭ぇ……鼻がもげる。
「ジル……これヤベェ、ちょっと死体の少ない所に非難しねぇか?」
「あっ……忘れてました。『
すると、ジルがこちらに杖を向けてそう言うと、その先から霧のようなものが発生し、俺の体と顔全体に纏わり付いてきた。おぉ、爽やかなミントの香りだな……って、消臭出来るなら最初に使っとけよ!
「お前なぁ……」
「あっ、それと遠慮なく触って調べてくれていいですよ。それも魔法で完璧に殺菌・消毒出来るので」
そりゃ便利だな……だけどな、俺は死体を触ったことねぇんだよ。
「あ~それが直ぐに出来るとでも……うわっ! あっ、悪ぃ」
しまった、後ろから歩いてきた死人にぶつかっちまったよ、よろけて倒れやがった。直ぐに肉が抉れるし、直ぐに倒れるし、想像していたゾンビとほぼ一緒だな。
「……んっ?」
すると、俺はその死人の顔から、あるものが流れているのに気付いた。
涙だ。
「……あいつも、こいつもか……なんだこれ。おいジル」
「えぇ、僕も気付きましたよ、この死人達全員泣いてます」
しかも白骨化した奴も泣いてるんだよ。目の窪みから涙を流しているんだよ。そっちの方が恐いわ!
ただ泣いているといっても、ボロボロ涙を流しているわけじゃない、目頭に少し水滴が付いていて、それがちょっとずつ落ちている感じだ。真っ暗な夜の中で、上からじゃあ分からないだろうな。
「感情は無いはずなのに、何故……」
そしてそれを見たジルは、ひたすらその原因を考え悩んでいるが、俺としては魂がこいつらのもので間違いないという証拠になるんだから、そこまで悩む必要はないと思うんだよな。記憶はあるんだろうからな……。
だけどその中で、俺はまたおかしなものを見つけてしまった。
「ん? セリーヌさんの妹……泣いてない」
そう、薬屋の家の前で突っ立ているセリーヌさんの妹だけは、涙を流さずにジッと上を眺めていた。その目に、狂気の色を宿して。
「ジル……おい、ジル!」
「なんですか? 僕は今考えごとを……」
「セリーヌさんの妹ヤベェ、昨日はあんなんじゃなかっただろう!」
「えっ? 魔力……マリナさん! 止めて下さい!」
ジルがそう言った瞬間、セリーヌさんの妹は手を2階の窓に向ける。そう、セリーヌさんとニナに向かって。まるで……自分をそこに引っ張り上げてくれと、そう訴えているような感じで、腕を一生懸命伸ばしている。
そしてその手のひらから、黒い渦のようなものが生まれ、今にも飛び出しそうになっている。
「おらぁ!!」
だけど、そこを俺が間一髪間に合って、その子の首元に脚の外側を使って一発蹴りを入れ、振り払うようにして吹き飛ばした。死人達をかき分けながらだったから、危なかったぞ。
それと爆発させると、体が木っ端微塵になってエグい事になりそうだから、爆発はさせていない。この脆さならこれだけでも凄い吹き飛ぶんだよな。だから問題ない。
そして、2階の窓から覗いているセリーヌさんは、顔が真っ青になっていた。あ~くそ、また自分を責めてるだろうな……。
「くそっ……ジル、その子押さえといてくれ!」
「分かりました。それと、魔力分析の方も……あぐっ!」
「ジル?!」
だけど、ジルがその子を氷の魔法で動きを封じようとした瞬間、俺の背後から飛んできた衝撃破で吹き飛ばされた。
「あ~ダメダメ、その子をいじめたら、ダ・メ」
声? こんな死人の中に、人の声? 生きてる人間なのか? だけど確認しないと……。
「お前、何者だよ?」
そして俺はゆっくりと後ろを振り向き、その声の主を見た。
女の子だ。
その子も、セリーヌさんの妹と同じ歳頃の、小さな女の子だった。ニナよりは年上っぽいけどな。
金色のツインテールに、水色と緑のオッドアイ。かなり独特な感じがするけれど、顔は整っていて美少女だな。それと、Tシャツとその下にキャミソールのインナー、ミニのスカートとスポーツシューズを履いていて、活発そうな子に見える。実際活発だったな、いきなりジルを吹き飛ばしているからな。
「あはは、お姉ちゃん達、よっぽどこの死人を調べたいんだね~」
「答えろよ、お前はなんなんだ? 生きてるのか、それとも……」
「当然……死人で~す」
そう言うと、その子は服をめくりあげ、自分の腹をさらけ出す。腐り落ちて中身が飛び出した腹をな……。
「もう良い、分かった。そんな死人のお前が、なんで普通の人間と同じように喋れるんだ?」
「さぁね~そんなの分かんない~」
だけど、その子はそう言った後に、笑顔だった表情が一気に真顔になり、そして呟いた。
「もう時間……? 日に日に短くなってるねぇ。あの子も限界なの? 急がないと……」
雰囲気がガラッと変わったぞ。こいつ……無邪気な少女じゃないぞ、悪意を持った女だ! これは自分がなんで喋れるのかも分かってやがるぞ!
しかもその後、死人達が踵を返して、村の外へと出ようとしている。墓地じゃない、外だ!
今までは色んな所から現れていたから、どこからやって来ているのかの特定が難しかったし、昨日の夜も各々好きなように帰ってるように見えた。
だけど、今近くでこうして見て分かった。こいつら、村の外を見ていやがる!
そしてそいつらと一緒に、謎の少女も立ち去ろうとしている。
「待てや!」
「きゃぁ?! あっぶないなぁ、乱暴なお姉ちゃん」
くそっ、立ち去ろうとするその子に向かって蹴り入れてみたが、軽々と飛び上がって避けられたぞ。そして、大量にいる死人達の上に舞い降りた。
「くすくす、そんなに慌てなくても、明日凄い事をして上げるね。もう時間もないし、この手は使いたくはなかったけれど、しょうがないよね。あの子がもう限界そうだからね……」
そう言うと、その子は死人の中に降りて姿を消した。
くそっ、これだけの死人が群がっていると、人混みの中ではぐれた状態に近い。あっという間に見失ってしまった。
しかもちょっと待て、俺も死人達の中にいて、押し合いへし合いされていて、そしてゾロゾロと村の外に向かって行って……俺まで連れ出されている!!
「あっ……待て、お前等ちょっと!!」
あぁ、だけど……これでこいつらの正体が分からないか? とか考えている場合じゃないかも知れねぇ、また敵地に単独突入とか……ジルに心配させちまう!!
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