第十六話 とある洞穴にて
さて……今俺がどこに居るかと言うと……薄暗い洞窟の中だ。村から少し離れた所にある洞穴に、死人達が入っていったんだが……モンスターの巣穴なのか、やたらと広いし天井も高い。下に潜っていった感じなんだけどな。
そしてその先の大きな広場で、死人達は崩れるようにして倒れていき、そのまま動かなくなった。
「……ここがこいつらの寝床というか、死人達が作られた場所か? 良い発見なんだが……」
「あんたは逃げられないわよ」
さっきの金髪ツインテールの女の子が、俺の真正面で睨みつけている。因みに俺は、倒れて動かなくなった死人達の上で、胡座をかいてるんだがな。あれだけ死人達に揉みくちゃにされたらよ……開き直っちゃうんだわ。
さて……この後どうしようか。
「まさか着いてこられるなんてね……」
「着いて来たくて着いて来たわけじゃねぇんだがな。あの状況じゃあ、死人達の群れから出られずに、一緒に来てしまうのは当然だろうが」
「盲点ね……」
盲点もクソもないだろうが、向こうからしたら予想もしていなかったんだろうな。
「さて……このまま俺を帰す気はないんだな?」
「当然よ。ここの場所がバレると、対策取られるでしょうが。こいつらはまだ必要なのよ」
「なんでだ?」
「教えないわよ」
そりゃ当然だよな。それなら、この子の正体から聞いてみるか。まず思い浮かぶのは……。
「お前、ニナの姉か?」
「誰それ?」
違った……しかも本当に分からないみたいだな。何を言っているか分からないといった表情をしている。
それじゃあ、こいつは何者だ? セリーヌさんの妹はそいつの横で倒れているし、完全に見知らぬ奴の身内か何かか?
「とにかく、悪いけれどあんたはここから出さないから」
「殺すとかしねぇんだな」
「して欲しいのぉ?」
そんな悪そうな顔で見ても意味ないぞ、俺を殺すんじゃなく、ここから出さないと言った時点で、戦闘が出来るほどの能力はないって言ってるようなもんだからな。
何せ今いる所は洞窟なんだ、逃げようと思ったらいくらでも方法があるくらい、隠れる場所も逃げるスペースもある。こういう場合、他の奴等ならとっとと殺すだろう。それをしないと言うことは、そんなに戦闘力がないって事だ。
「……」
「あぐっ?!」
前言撤回、割と戦闘力あった。なんか、目に見えない力で首を締められてる!
「あなた、今脱出出来ると思ってるでしょ? させないわよ」
「ぐっ……くっ、活発そうなイメージだったのに、それが本性かい」
「そうよ……死ぬ前から変わってない、私が私であるためのものよ」
そして、その少女はゆっくりと腕を上げると、それと同時に俺の体まで浮き上がっていく。念力とかそういう類のものか?!
「調子に……乗るな!」
「くっ……!!」
とにかく、俺は急いで脚を蹴り上げ、その先で風の爆発を起こすと、下に倒れている死人達を巻き上げる。そしてもう一回前方に蹴りを入れ、同じ爆発を起こすと、その暴風を使って死人達を少女に向けて吹き飛ばした。
「ちょっと……困るわよ。これはまだ使うんだから……!」
「死人とは言え物扱いかよ! まぁ、俺も物扱いだけどな!」
「……精神の無い肉体なんて、例えその人物の魂であっても、人と言うにはほど遠いわよ」
生きてる人間の定義ってやつか? 残念ながら、死んだら人じゃないってのも分からなくもないがな……現に俺だって、今自分が助かるためにこいつらを……あんまり良い気分はしねぇけどな。
「とにかく、目眩まししようとしても無駄よ。私の力は、あなたが見えなくても関係ないんだから……それと、死人達も私には当たらないから」
「ぐっ……くそっ!」
確かに言うとおりだわ。まだ思い切り首を締められてるし、死人達も空中で止まり、そのまま地面に落とされたわ。参ったな、念力とかそういう類のものは、どう振りほどけば良い?
あぁ、くそ……意識が遠のいていく。せめてジルみたいに、相手を凍らせられたら……。
『……あんた何馬鹿な事やってるの?』
「…………」
出来たよ、そうだよ忘れていたよ。俺の特異力は、何も爆炎とか暴風を生み出すだけじゃねぇんだった。
爆発させるようにして、瞬時に凍らせる事も可能だったんだ! ただ、その爆発をイメージするのは難しいし、ジルがいつもやってる凍らせ方をイメージしてみるか。
「くっ……上手く、いってくれぇ!!」
そして俺は、意識が失いそうになる中で、渾身の力を振り絞っり、脚を上に上げてそのまま振り下ろした。すると……。
「なっ……なによこれっ?!」
振り下ろした足先から冷風が飛び出し、それが勢いよく地面に落ちた瞬間……この洞窟が一瞬で氷の洞窟に変わってしまった。凍るの早くねぇか?!
「おっと……あっぶね! げほっ……」
そして相手の意識が途絶えたのか、浮いていた俺はそのまま下に落ちて、凍った床に足を取られそうになった。
とにかく、必死に息をして苦しいのをなくしていくが、冷たい空気で肺が凍りそうになるぞ。
「う~寒っ……これ、ちょっと強力過ぎなんじゃ……」
寝転がってる死人達も凍っちゃったからな、こりゃ氷が溶けるまで起きてこねぇんじゃねぇか?
ただ、その様子を見て妖精が真剣な顔をしていると思ったら、急ににやけ顔に変わりやがった。嫌な事を言いそうな予感がするな……。
『あはぁ……な~るほどねぇ。あんたの凍るイメージが強すぎるから、いったい何でかと思ったけれど、恋する乙女は強力よねぇ~あの男の子の……』
「それ以上喋んな! てめぇも凍らせてやるぞ!」
『残念、触れませ~ん』
くそ! 触れたらこいつを永久に凍らせてやるのに!
「ちょっと~私の前で何1人芝居してるのよ」
すると、凍らせてその氷で閉じ込めたはずの金髪ツインテールの女の子が、念力みたいな不思議な力で氷を割り、そのまま動き出した。やべぇ、今の内に逃げておくべきだった。
「はぁ~ビックリした。でも残念~なんで逃げなかったか分からないけれど、随分と舐めてくれたわね」
そして、その子はまた俺に向かって腕を伸ばしてくる。だけどな、その動作を見るとある予測が出来るわけよ。
「おっと……!」
凍った床で足を取られそうになったが、何とかしてそいつの正面から動いてみた。そして予測通りに、何も起きない事を感じて確信したよ。
その腕の先から、念力みたいなものを飛ばしているんだな。それならその腕にさえ気を付けていれば、さっきみたいに締められる事はないわけだ。
「あら、バレたの? 残念ねぇ~」
「へっ、避け方さえ分かれば後はこっちのもんだ! おらっ!」
その後俺は、前方に蹴りを入れて風の爆発を起こすと、暴風でそいつを吹き飛ばそうとする……と同時に、俺自身もその爆風に乗ってこの広場から脱出だ!
「あ~もう……ちょっとぉ! 髪が乱れるじゃない。思った以上にお転婆な子ねぇ……」
よし、だいぶ距離を取れたぞ。出口がどっちかも頭にある。俺は一度通った道は忘れねぇからな!
そして俺は、その出口の方に向かって走り出す。結構入り組んではいるが……行きは左に2回曲がって、真っ直ぐ行き、右に1回、左に3回、そしてまた真っ直ぐ、その後右に3回……だな。帰りはその逆よ。それにしても結構深いんだな……ここは。
「あんな奴がいたんじゃぁ、じっくり調べる事も出来ねぇな」
その後、左に3回曲がった所で、俺の背後から声が聞こえてきた。
「待ちなさいよ~!」
あの金髪ツインテールの子だな。なんとか逃げ……。
「グジュル……ジュルル」
おぅ、曲がり角からなんともグロテスクなミミズみたいなモンスター。とか呑気に観察してる場合じゃねぇ!! やっぱりここはモンスターの巣穴かよ! なんて所を隠れ家にしてやがんだ!
「ジュルル……」
「おわっ!! 来んじゃねぇ! ボケェ!!」
長いし太いし、俺なんて一口で食われてしまうぞ! とにかく俺は、そのミミズみたいなモンスターから逃げるため、一目散に逆方向へと走り出す。
やべぇぞ……このままじゃ来た道が分からなくなる。こういう所は目印がねぇから、曲がった回数で覚えないといけないのに、こいつから逃げていたらここから出られなくなる!
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