第十三話 黒い街へ

 徐々に燃えていく宿の中で、俺は熱さに耐えながら、一つ一つ部屋を調べていく。


 あの野郎が出て来た部屋には何もなかったし、いったいどこに抜け道が? もしかして、俺は間違えたのか?


「くそっ……ここに抜け道はないのか?」


 だが、ここ以外は軍が調べ尽くしているはず。抜け道があるとしたらもう……ここしか……。


「……1階の部屋は全部調べたのに、抜け道というか、他に何かあるのか?」


『はぁ……全く……あのねぇ、この世界には何があるの?』


 すると、俺の様子をただ見ていた妖精が、そう言ってきやがった。というか、早く教えろや。そうだよ、魔法があったんだ!

 ちょっと待て……ということは、どこかに別の場所に移動させる為の、移動用の魔法でもあるのか?


 とにかく、俺はまた最初から部屋を調べ始めた。すると、さっき奴が出て来た部屋のベッドの下に、変なものを見つけた。

 まぁ、その部屋のベッドが焼けていて、隙間があったんだよ。そこから何か見えたんで、ベッドを退かしてみたら、丸い何かの陣があったぞ。


「なんだコレは?」


『乗ってみたら~?』


「いやいや、敵の罠かも知れないだろうが、他も……」


『探す暇ある?』


「なっ?!」


 やべぇ……探すのに必死で、宿がどこまで燃えているか分からなかったぞ。もうだいぶ燃え広がっていて、今にも柱や屋根が崩れそうになっているじゃねぇか!

 人間必死になると、熱さって感じなくなるもんだな。とか感心してる場合じゃねぇな。行くしかねぇのかよ!


「あ~くそ。これが罠だったら最悪だぞ!」


『自分の運にかけることね~』


「他人事だと思いやがって! くそ!!」


 とにかく、俺は急いでその丸い部分に飛び込んだ。

 なんか良く見たら、模様や何かの文字が書かれているみたいだが、全く読めねぇ。


 そして、そこに飛び込んだ瞬間、周りの景色が一気に変わった。


 俺の命を奪おうとしていた周りの炎はなくなり、辺りが真っ暗な、ボロボロの家になっていた。

 俺が移動したという感覚じゃねぇ。景色が移動したような感じだな。気持ち悪ぃな、これは……。


 とにかく、罠じゃなくて良かったわ。


「ん~? ここはどこだ?」


 とりあえず、場所の確認だ。

 黒い街なのだろうが、周りに人がいるかどうかの確認をしないと、襲われたりしたら面倒だからな。いちいち敵と戦闘しながらあいつらを探すなんて、凄く厄介だぞ。


「……」


 とにかく、ここに窓はない。目が暗さに慣れてきたから、目の前の扉まで歩いて行き、その向こうの様子を伺ってみた。だが無音だ……。


「誰もいねぇのか?」


 とにかく、俺はゆっくりとその扉を開けてみた。すると、その先は外になっていて、黒い家の外壁が見えた。

 なんだか拍子抜けだぞ。別の部屋か、どこかの建物の地下とか、そんなのを予想したが、普通に外に出たわ。


 なんだ……ここは細い路地にある、小屋みたいなものか。

 それなら、人の目もあまりないだろうな。だったら今の内に、この小屋の上に上がっとけ。


「よっ……と。ほぉ……ここが黒い街か。嫌な雰囲気だねぇ……だが、悪くは……」


『……』


 街を見渡す俺をガン見するな、妖精。

 そうだな、こんな悪い奴ばかりが住んでそうな街を見て、悪くはないとか言っちまったら、更正なんて出来てない証拠だよな。


 よし、ジルとソフィを探すか。


 どうやって探すかと言うと、このジルの持ってた杖さ。これはなんと、腕輪みたいにする事が出来たんだ。

 ジルの奴、こんな身の丈もあるような杖を、常に持ち歩いてるのかと思ったら、こうやって持ち運びしやすいようにしていたのか。でも、確かに杖を持ってない時もあったな。なるほど、こうしていたのか。


 そして、その腕輪をした方の腕を真っ直ぐ伸ばすと……。


「おっ、こっちか……」


 その杖が、持ち主の下に戻ろうとしているんだろうな。俺の腕を動かして、ある方向を指しやがった。だから、そっちにジルがいるんだろう。


 それに情報収集しようにも、こんな悪人しか居なさそうな街じゃあ……。


「あら~!! 奥さん、それ良いお洋服やね!」

「でしょう~なんぼやと思う?」

「そう言うて、高いんちゃうの?」

「そんな事ないわよ~1,000ガネーよ~」

「あら、お安い!!」


 …………気のせいか? 俺のいた世界に戻ってるのか?


 いや、違う。良く見たら、ちゃんと黒いヒョウ柄のシャツを着たおばちゃん達が、道の真ん中で話し合って……話し合っ……。


『元の世界には戻ってないからね』


「いや、だけどな……」


『混血世界って言ったでしょ? あんたの世界も、混ざってるのよ』


 だからってよぉ……ピンポイントに、この生態はないだろうが!


「でもな……ウチのこの服いくらや思う?」

「あら、どうせウチと同じ……」

「500ガネーや! ついでに、元は3000ガネーやで!」

「んなっ! それ、どこの店や!!」


 あ~もういい……安物合戦はもういいわ!

 因みに、ガネーってのはこの国の通貨だろうな。円にしたらいくらかは知らないが、聞く限りほぼ円と変わらないだろう。


 とりあえず、小屋の上からその街を眺めてみたが、白い街と変わらないくらい、人々は活気に溢れ、普通の生活を送っているように見えた。


 家の色、服の色が黒いだけで、他は変わらない……と思ったが、街灯が禍々しかったり、所々に置いてある石像が、悪魔っぽかったりしてるから、なんか変な雰囲気ではあるな。


 とにかく、俺は黒い服装じゃないからな。あまり通りを歩かない方が良いだろう。さて……2人はどこに捕まってるんだ。


「ん~幸せそうな人々ばっかだなぁ。この街が本当に、悪い事を考えてるのか?」


 そして、俺は屋根伝いに移動しながら、街の様子も伺っているが、全員悪い事を考えるような奴等じゃなさそうだ。そうなると、一部か?

 現に、無抵抗の人間を簡単に殺す奴がいたし、危険な思想の持ち主は、どの国にでも確実にいる。


「う~ん……どうなってるんだ……」


「それは、ここにはとんでもない組織があるからな」


「やっぱそれか……組織ねぇ……それじゃあ、黒い街は危険だからって、その街に住む人間全員を、危険因子扱いするのは間違ってるわけか」


「いや、分からないよ~あんな会話をしていて、あんな風に見えて、腹の底では凄い事考えてるかもな」


「マジかよ……」


 ちょっと待て、俺は今誰と話してんだ? またこれかよ。俺の横から、誰かが話しかけてきてるんだが?!


「よぅ! 愛しのアドモ……んぐっ?!」


「なんでお前がいるんだ……!!」


 蹴れない……蹴りそうになったが、蹴ったらバレる! なんでエリクがいるんだ?!

 しかも、凄い歯の浮くような台詞を言いそうになりやがった。だからとりあえず、こいつの口を塞ぐ! 至近距離にいやがったから、直ぐに防げたが、移動は一旦停止だな。


 そして、その後エリクが何か言いたげだったから、そのまま手を離した。だけどな、変な事言おうとしたら、今度は蹴るからな。


「全く……照れちゃって可愛い……分かった、とりあえず真面目に答えよう」


「そうして貰えると助かるな」


 こいつの察しが良くて助かったよ。俺が膝を曲げながら、ゆっくりと足を上げた瞬間、エリクは両手を上げてそう言ってきたよ。


「とりあえずだ、俺は君を捕まえに来たわけじゃない。君の手助けをするために、君の後を付けていた」


 後をつけてたんか。それなら、燃えている宿にも居たってのか? おいおい、一歩間違えたら死ぬとこだったんだぞ。助けろや。いや、ギリギリで助けて、俺の好感度をとか思ってたんだろうな。2人仲良くこんがり焼けてたらどうするんだ?


「全く、綺麗な肌にこんな火傷と傷を……ゲリール」


 すると、エリクは俺の手を取ると、治癒魔法をかけてきた。あぁ、興奮していたから、火傷の痛みとか、傷の痛みを忘れていたわ。アドレナリンが大量分泌されてたな。


「これでオーケーだ、アドモアゼル……」


 だけどその後、エリクはそのまま、俺の手の甲にキスをしてきやがった。


「いぃぃっ……! 止めろ!!」


「ぐぁはっ!!」


 あっ、やべっ! 蹴っちまった!! しかも叫んでんじゃねぇよ、エリク! バレるだろうが!!


 だが、エリクはそのまま、俺の腕が指し示す方に吹き飛んで行く。んっ? この腕輪が指し示してる方と言うことは……待て待て、何やってんだエリク! このままじゃあ、敵にまでバレるだろうが!


 とにかく、俺は急いで吹き飛んだエリクを追いかけて行く。


 ふざけんじゃねぇ……手伝うどころか、足手まといになるんじゃねぇよ!

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