半額侍

@dantuzidou

第1話 バトルオブ関ケ原 ~高枝切りバサミと一緒に~

うだるように暑いなんて言葉はこういう時に使うのだろう

そんな天気の中、汗水たらしてアルバイトに励んでいた。


「いらっしゃいませ~いらっしゃいませ~」


半額と書かれた大きなのぼりを背にしょって

俺は高枝切りバサミを売っていた。


「いらっしゃいませ~~~~~・・・」


客どころか人っ子一人通らない公園でセミと俺の声だけが聞こえていた。


「誰もいらっしゃらね~~~~~!!!」


バンッと商品をなげうって座り込んだ俺を知人が呼びかけた。


「よう」


視線をやるとそいつは俺が昔やってた剣道の試合でよくあたっていた奴だった


「え~~~っと・・・笹崎さん」


「どうも本条さん。話すのは初めてですよね?笹崎といいます。」

「ああどうも」

「私のことわかりますか?」

「ええもちろん去年の剣道世界王者ですよね!」

「あ、、、いえ違うんですよ。去年の世界大会はけがで棄権したんですよ」

「ああ、そうでしたっけ、すいません(笑)」

「・・・」


「本条さん、今年は大会にでないというのは本当ですか?」

「えっ!?ああハイちょっと仕事が忙しくて」

「本当なんですね、、、」


「私は去年棄権するまで4年連続で世界大会で優勝しています」

「はあ」

「私が戦ってきて最も強かった相手はあなたです」

「・・・はあどうも光栄です」

「なぜ大会にでないのですか?」

「だから仕事が・・・」

「仕事っていうのはそれですか?」


まったく売れていない高枝切りバサミを指さす笹崎


「これはアルバイトですけど、、、もう就職もしないといけないし」

「・・・」

「あなたならスポンサーくらいいくらでもつくはずだ」

「買い被りですよ~」

「現にそれを断っていると聞きましたよ」

「先生に聞いたんですか?」

「はい、、、」

「嘆いてらっしゃいましたよ。才能もあり努力もしているあいつが剣道をやめたがっているのは指導者である私の責任だと」

「そんなことないんですけどね~」

「やはり、判定に納得がいかないのですか?」

「え?」

「あなたは数少ない二刀流の選手だ、二刀流はその数の少なさから世界大会や日本選手権への参加も今は認められていない」

「・・・」

「私から連盟に直訴して、、、」

「そうゆうことではありませんよ」


食い気味に話はじめ笹崎の言葉を遮る本条


「なんというか、緊張感がないというか、私のやる気の問題ですよ」

「先生のせいでもないし剣道連盟のせいでもない」

「・・・残念です。」

「でも私はあきらめません」

「私はあなたと戦っている時が最も充実感を得ることができるんです。」

「あなたはそんなものを売っているような男ではないんだ」

「そんなものとは失礼なうちの大事な商品を」

「超硬質の新金属配合折れない、錆びない、傷つかない、丈夫で長持ちさらには持ちやすく滑り止めがついた大小の2本セットでたったの3万8千円!!一生もんだよ!!買ってかない?」

「あいにくうちに庭木はありません」


「私はあきらめませんよ本条さん。」

「あなた自身あまり納得しているように見えないですしね」

「はあ」


そんなことを言いながら笹崎は帰っていった


「また来るのかな~笹崎君」


半額の旗を刺したままコーヒーを飲んで休憩している本条の横をおじいさんとその孫らしき男の子が手をつないで横切った。

その二人はすぐそこの博物館のような建物に入っていった。

戦国時代の芸術品展示中

そう書いたチラシをもって入っていく二人を何気な~く眺める本条


「なにが”戦国時代フェアだからご年配が来るはずだ”だよバイトリーダー佐々木くんめ、来るのは大半がなんちゃって戦国武将ファンの女子かマジモンのオタクばっかりだ」


本日初めてのお年寄りが博物館に入っていった。博物館の入り口には大きな屏風の絵が飾られていた

二人は係員さんの説明を聞きながら眺めていた

「おじいちゃん大きな絵だね!」

「そうだな~おおきいね」

「これは関ヶ原の戦いを江戸時代初期に描いたものなんですよ」

「ほ~関ケ原}

「じいちゃん関ケ原って天下分け目の関ケ原?」

「おおよく知っとるのそうじゃよその関ケ原じゃろ」

「ええそうですよ」

「僕知ってるよ石田三成と徳川家康の戦いでしょ!」

「くわしいねぇボク」

「へへ」


「あれ?あの真ん中らへんにいるひと変な旗さしてる」

「んん?どこじゃ」

「ほらあれあの半額って書いてある」

「んん?おおほんとじゃ半額じゃ!!半額!!これは面白い旗じゃな」

「これはどんな武将なのかの?」

「それがわからないんですよ、この字も確かに半額って読めますよね!おもしろいんですけど、」

「当時関ヶ原の戦いには大名だけでなく農民上がりの野武士なども多く参戦していて戦国時代最後の戦いに自分の名を少しでも上げて世の中にアピールしたいと考える人も多くいたんです。そんな武将の一人ではないかと言われているんですが、残念ながらこの旗印の記録はほかの歴史書などからは見つかっておらずこの絵だけに乗っているものなんですよ」

「ほお~これは誰が書いたものなんですか?」

「それも不明です。しかし古い神社の地下から発見されたもので江戸時代に書かれたことには間違いなく歴史的資料としてもかなり価値のあるものだそうです。」

「ほおぉ~」

「おじいちゃん奥も見てみようよ」

「おおいこか」

「半額♪半額♪」


「おお~い本条君、差し入れにコーヒー持ってきたよ~」

「本条君?」


そこに本条の姿はなく飲みかけのコーヒーだけがこぼれた状態で落っこちていた。


見渡す限りの草原にポツンとすわっている本条が変な汗をかきながら目をきょろきょろと走らせていた。


「ここ、どこ?」


遠くで太鼓とほら貝と雄たけびのような怒号が聞こえていた

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