予想外の出逢い

風鈴水影

私の初恋

私は、今まで恋をしたことがなかった。                                          

恋って、どういうものかわからなくて、学校とかで、みんながしている恋の話をずっと黙ってきいているだけだった。恋をすると、人生が変わるとか、予想外の出逢いが…、とか、全然わからなかった。恋の話をきいているときも、ときどき、相槌をうつ程度。恋愛の相談を受けても、中身のない返事ばかり。

                                        

そんな自分が、少し嫌だった。でも、今まで心惹かれた男性なんていないし、告白されたこともない。そもそも、恋愛なんて、どういうものかわかってないから、そういうことがないのも当たり前だと思ってる。                              


今日も、私は、いつも通り学校に行く。

学校に行って、いつも通り電車に乗って、 1時間以上かけて帰ってくる。学校までは、距離が遠くて、電車でも1時間以上かかる。                    そんな 、長い電車の中でも、かっこいいと思う人は、いないし、運命の出逢いなんて、あるはずない。誰とも話さず独りでじっと、駅に着くのを待つ。                                

それが、いつも通り。

今日は、バイトがある。だから、いつも通り、電車を降りて、バイト先へ、車で向かう。         


バイト先は、いろんな大人が買い物に来る、スーパーマーケット。地元では、そこそこ有名なスーパーだと、自分の中では思ってる。だから、いろんな人が、たくさん来る。

私がやっているのは、レジ打ち。だから、いろいろな人と関われる。        

それは、楽しい。            

バイト先には、いい人ばかりだし、とても楽しい。だから、私は、バイトが好きだ。                      今日も、いつも通り、レジ打ちをする。いろんな人が、通っていく。          

「いらっしゃませ、こんばんは!ポイントカードは、お持ちでしょうか?」      

                    

「えっと、これ、ですよね。」


綺麗な低い声。男性かな?と思って顔を上げる。                  

そこにいたのは、とても綺麗な男の人だった。


少し、ドキッと、した。

何故か、わからないけど。


心が動いた。                                  

「あの…、レジ袋、2つ」


「…えっと、かしこまりました。レジ袋、2枚で10円です。」


緊張して、手が震える。手が震えるせいで、間違えて、打ってしまう。


「失礼いたしました!」

慌てて訂正する。

訂正しても、次に打とうとした、キャベツをレタスと間違えて打ってしまって、

「失礼しました!」って言う。そんなことの繰り返し。

                                        


「そんなにあわてなくて大丈夫ですよ。僕、急いでないから。」



唐突に男性が声をかけてきた。とても優しい。その声に、癒された。


少し落ち着いた。

ゆっくりでも、大丈夫。

                                        


そう、自分に言い聞かせて、少しずつ、間違えないように、商品を打っていく。

その男の人の買い物かごは、2つあったから、少し時間がかかってしまう。

そんなことは、はじめからわかっていたはずだったのに、私の打ちミスで、予想以上に時間がかかってしまう。

「えっと、10,036円、頂戴いたします。お支払は現金でよろしいでしょうか。」

「はい。現金でおねがいします。」

「かしこまりました。」


そう言って、入金機におくる。私の働いているスーパーは、入金だけ、お客さんにやってもらう仕組みになっている。       だから、あの男の人と話せる時間は、ほぼない。


「お寿司に、お箸はお付けいたしますか?」「おねがいします。」

「何膳、ご利用ですか?」

「1膳で大丈夫ですよ。」

「かしこまりました。お箸、1膳お付けしました。」    

            

もう、終わってしまう。


あの男性は、にっこり笑って、

「ありがとうございました。」って、言ってくれた。                

私も、

「お待たせしてしまい、申し訳ございませんでした。ありがとうございました。またお越しくださいませ!」           誤りながら、ちゃんとお礼を言った。

自分の中では、笑って言えたと思っている。こんなにドキドキしたのは、初めてだったから、緊張して、動揺した。


そんなことを考えていると、さっきの男の人がレジのほうに戻ってきた。


「あの、さっき、レジ袋って、言いましたよね?入ってなかったんだけど…。」

「…!申し訳ございません!レジ袋、2枚ですよね。少々お待ちください!」


レジ打つことに集中していて、忘れていた。とてもあわてて、レジ袋を2枚取り出す。


「こちらですよね。申し訳ございません。お待たせいたしました。」


「ごめんね。ありがとね。」



気を使わせてしまったかと思い、申し訳なくなって、

「こちらこそ、申し訳ございません。私の不注意です。」


必要以上にあやまってしまった。 

すると、男性は、

「いや…。ありがとう。また、よろしくね。また、会えたらいいね。」

面白そうに笑いながら、言った。


「はっ…はい!ありがとうございました!また、よろしくお願いします。」     そんなこと言われるなんて思ってなかったから、動揺して、そんなふうに、言った。  


彼が店を出ていくまで、私は、男性を目で追った。何だか嬉しくて、でも、恥ずかしくて、何だか心が、きゅーっとなった。


しばらくたって、後ろのレジで打ってた人が私に、話しかけてくれた。


「さっきの人ね、絶対夜に来るんだよね。しかも、たくさん買い物してく。新人さんのレジによく入るんだけど、気に入られたかもね。今度、来るときは、きっと、あなたのとこに入るよ。」

「そうなんですね。」

「そういえば、あの人のレジ打ってるとき、目がキラキラしてたよ。すごく動揺も、してたんだろうけど。」

「…!」


すごく恥ずかしくて、何も返せなかった。何で、こんなに、緊張したんだろう。    何で。何故。。


                                                            

そうか、そうなんだ。                              



「これが、、…!」




恋愛とか、恋とか、その意味がようやくわかった気がした。



                    あの短い時間、一瞬で、私は、恋に落ちた。ドキドキして、動揺して、緊張して。


                                         

多分、そういうことなんだろう。


                     

叶うわけがない恋だろうけど、私の初恋は、初めて会った、お客さんだった。これが、予想外の出逢いか!と思った。                           世の中、どんなことがあるか、わからない。そう思った。

                                        明日から、学校が、バイトが、すべて、楽しみに変わった。                                 恋は、繰り返す日常を、輝かせるのかもしれない。そのことが、実感できる日になった。

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