イントロダクション Ⅱ

 さて、ここからの主役はまだ見習いの女の子たち、”魔法少女未満”の紡ぐ物語。


 統合暦1296年。

 商業国エズネリフの首都ガレリアには、”王立魔法教導学校”と呼ばれる教育機関が存在しました。広く各地から集められた若き「魔法使い候補生」たちの学び舎として伝統あるこの学校の片隅、まるで打ち棄てられたように古い教室棟にまだ一つだけ入っているクラスのことを、果たしてどれだけの人が知っているでしょうか。

 生徒にも教師にも忘れかけられたこのクラスに属するのは、性格や能力そのほか個人で抱えるさまざまな問題のために、うまく魔法を扱うことができずに落第認定されてしまったいわゆる”落ちこぼれ”の生徒たち。出身も性格も特技も様々に違う彼女たちですが、一つだけ全員に共通していることがありました。


 皆、「魔法使い」になることだけは諦めていなかったのです。



  ただそうは言ってもやはり落ちこぼれ。魔法行使者としての実力が足りないのは純然たる事実であり、彼女たちは立ちはだかる壁に悩みながら日々を過ごしていました。


 そんなあるとき、一つの転機が訪れます。

 生徒の一人が図書館の隅で偶然見つけた、埃をかぶっていた古い蔵書。その本を開くと、なんとそこには人類の魔法力の秘密が記されていました。


 曰く、魔法とは人々の強い“想い”が現実に作用することで起きるもの。

 発動者の想いが強ければ強いほど強力な魔法として発動し、また外部の人々から向けられる好意的な感情、前向きな願望、強い思念もまた、魔法力の源として反映される。それはつまりはこういうことでもありました。


「多くの人々に知られ、尊敬される人ほどより強力な魔法使いとなることができる。」


  自らの内にある力だけに頼ることに限界を感じていた彼女たちにとって、この秘密を知ったことは一つの光明となるのでした。


 「人の“想い”が魔法となるのなら…『私たちが立派な魔法使いになれますように』って、もっとたくさんの人たちに想ってもらえばいいんじゃないかな!? 」



 もっと多くの人に自分達を知ってもらいたい、たくさんの人に応援してもらいたい。そんなことが今の自分たちにどうやったらできるだろうか?


 “自分たちが人に知られ、好かれ、応援してもらえる方法はなんだろう?”


 少女たちは何度も話し合い、とても多くの時間を費やして考え抜いた末にある一つのアイデアを思いつきます。



 もしかしたら間違った方法かもしれないし、うまくいくかもわからない。それでも一縷の望みに賭けて彼女たちが踏み出した一歩。その形はなんと「音楽」でした。



 そう、そしてここからがあなたと共に覗く世界。彼女たちの物語の始まりです。


 


 彼女たちの想いを歌にのせて歌うのです。広場で、学校で、酒場で、遊び場で、時には保育所の子どもたちの前からあるいは戦場の慰問まで。着飾った衣装と慣れない歌、それから精一杯覚えた踊りを武器に、彼女たちは今日も人前に立ちます。舞台の上の彼女たちを少しでも多くの人に知ってもらうために歌います。たくさんの人たちに見て、応援してもらうために踊ります。


 応援してくれるたくさんのお客さんが、いつの日か魔法使いとなる支えとなってくれることを願って彼女たちは今日もステージへと向かいます。


 彼女たちの歌を聴いたまだ見ぬ誰かに想ってもらうのです。「あの子が魔法使いになれますように」って。


 「歌って!踊って!握手会!? 魔法使い目指します、あなたの応援で。」



 さあ、落ちこぼれ魔法少女未満達による最後の賭け「魔法のための少女クラブ」がここにはじまるです!

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