アルテマが生まれた日

①メリア

 僕が生まれたのは今から約千年前。当時のアルテマはエルウィール家、つまり僕の家系が継いでいた。だから必然的に僕はアルテマになる権利を持っていた。そんな僕は人一倍契約書としてもすぐれていて、青の契約書ながらも火を扱うことも植物を操ることも更に黒毒も僅かながら扱うことが出来た。勿論最初から使えたわけではない。苦痛の言葉しかない、修行と称された恐怖の試練を乗り越えたから手に入れたものだ。

* *

「炎はこう出すの。話聞いてる?」

 火の魔術を教えてくれたのは茶髪のストレートなロングヘアに左は鮮血のような赤、右は透き通った白の瞳を持った美人な赤の契約書、メリア・スウェーナ。桃色のカッターシャツに白いジーンズというスタイルを好む火を扱うのに性格は氷のようにクールな先生だった。また、女性ながら身長が168cmなのもより威圧感を増していた。そのハイヒールの音がする度に冷や汗が首筋に流れる。

「本当にイリアスは出来が悪いのね。明日出せなかったらその目玉潰すわよ?」

「……っ!!」

 彼女の本当に怖いところ、それはこの発言。目玉を潰すというのは決して冗談ではない、実際にメリア先生の教え子であった父の友人の子供が本当に右手首を失って帰ってきたらしい。そして彼女は前日その子に右腕無くなると思ってね、と言っていた。だから実行したのだと言う。確かに赤の契約書は血液を摂取すれば失った体の一部を取り戻すほどの再生能力は手に入れる、でもあくまで一部だ。だからその子には今右手の指は全て無い。僕なんて青の契約書だ。一度失った物を再生させる能力なんてない。でも、僕も明日炎の魔術を使えなかったら左か右の目を取られるのだろう。あれ? でも先生は片目って言ってたかな、下手したら両目が無くなるかも……。そんな恐ろしいことを出来る先生だった。

「へぇ、綺麗な炎出すのね。やっぱり青が使うからこうなるのかしら?」

 翌日、僕は死ぬ気で努力をして炎を出すことに成功した。青い炎しか出なくてすごく昨晩は悩まされたが、先生はこれを珍しいといって笑みをこぼしていた。

「青い炎って化学の実験で酸素と二酸化炭素が絶妙な量で作り出されるじゃない。魔術でも同じなのよ、赤い炎も十分力はあるけれどやはり限界はあるの。やっぱり青の契約書が使うって言うのが良いのかしらね? 私だってそれを使えるようになったの10年前くらいなのに。」

 ……歴史に残る、不死鳥フェニックスになれるかもしれないわよ。イリアス?

 メリア先生は口調はとても厳しい人であったが褒めるときはちゃんと褒めてくれる俗に言う出来た教師だった。誰でもきっとあの鬼のような言葉と凍りついた表情の次にこの普通の女性の可愛らしい笑顔を見せられてしまったら、笑顔を作らざるを得ない。人としては変わった人ではあったけれど、僕は彼女の事は嫌いにならなかった。

「これは、きっと歴史に残ると思う。私がちゃんと後世に残さないと。」

 これが書物『不死鳥フェニックスの使い手イリアス』。著者メリア・スウェーナ。

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