黒い思想
その場に留まっていたら、ほぼ確実にまた襲われる為。最初に居た世界〈ユアタウ〉に戻ってきた。フロウはあの一撃で一時的に身体が掻き消えただけで、そのうち復活してしまうだろうとのこと。
「本当にフロウはしつこいんだから嫌になるよね」
「もう何回も聞いた。良いからどこかの家に入ろう」
〈ユアタウ〉に存在する家の中から適当に選び、扉を開くと中には黒服の男が立っていた。普通の人間は居ないという話のため、この男はどこかの管理者かその従者となるのか。
「ククッ……。貴様を待っていた。私はジダイガという名だ」
「待っていた? お前は管理者か?」
管理者であれば、自分の存在を感知し先回りして待ち伏せすることも可能だろう。だとすれば、混沌と秩序以外の3択だ。世界を破壊しようとする神聖に会いたくもないが、邪悪というのもあまり良いイメージはできない。一番マシなのは中立か。
「確かに探知と転移は管理者の専売特許だが、その従者であっても主人の力を借りて発動することは可能だ。それだけで私を管理者とするのは早計と言えるな」
「そうか」
管理者の従者であっても油断は出来ないのだな。確かにフロウの時も、アレは運が良かっただけだ。レアルが居なければ、再度出会ってしまえば撃退する方法が無い。
「やっと来てくれたんだー。アタイ待ってたよジダイガー」
「レアル、問題は無いか」
「アタイこれでも強いんだから大丈夫だよ。でもでもー。ジダイガが居てくれたらもっと頑張れちゃうかも?」
「済まないな。私は私のすべき事があるのだ。解決したら好きなだけ居てやろう」
「……。そろそろ良いか?」
拍子抜けするような茶番はいい加減にして欲しい。こちらの力が抜けてしまう。自分が完全に蚊帳の外ではないか。
「貴様は秩序の管理者。エンシェントから命を狙われているようだな」
「あぁ、ここに来るまでにフロウという精霊に襲われた」
「なるほど、流石エンシェントの感知能力と言った所か。だが、管理者は世界が中途半端に復活した為に、その影響を受けて弱体化している。そうだな? レアル」
「うん。間違いないよ。本来のアタイならこんな早くフロウに見つかる事なんて無かった筈だもん。そうなると、他の管理者も弱体化してるのかな?」
「今のところフロウよりも上位の精霊が動いている気配が無い。エンシェントも余分に力を与える余裕が無いのだろうな」
「従者は主人に力を与えられなければ動けないのか?」
もし、そうであれば。神聖の管理者の従者と言っていたアローンクローズが動いていた、そうなるとその主人も何かしらの行動をしていてもおかしくは無い。
「それは管理者ごとに違う。共生同体を重んじる秩序はその通りだが、個を重んじる混沌や邪悪は関係の無い話だ」
「まぁ、アタイの部下はどっか行っちゃったし、寧ろ居たら邪魔されそうだから呼ぶ気も無いよ」
それで良いのか……。混沌の派閥は本当にまとまりと言うものを感じられない。個を重んじると言っていたため、それもありなのかも知れないが、さすがに主人の妨害さえもするとは。
「さて、聞かせてもらおう。かつて神聖の管理者は世界を崩壊させたが。貴様はどう思っている」
「自分は真実を知りたい。世界を破壊するとは意味の解らない話だ」
「もし、何かしらの意味があったとすれば」
「だとしても、世界の破壊なんて考えられないな」
「ククッ。なるほどなるほど。軌跡通りの素晴らしい回答だ」
普通に考えたらそうなるに決まっている。何が面白くて世界の破壊なんて考えなくてはならないのか。そんな事をしても全てが終わってしまうだけではないか。
「貴様はエンシェントと対立している。奴を倒さなければ平穏は無い」
「それは解っている」
「だが、この不安定は世界は。安定化を計るエンシェントが倒されてしまえば。わかるな?」
「世界を支えているものがなくなってしまえば、崩れてしまうのか?」
確かにあり得る話だ。ハリボテを集めただけの世界なのだから、支えて居るものが居なくなれば、そのままバラバラになってしまうかもしれない。
「ククッ。一つだけ方法がある。エンシェントを動けないほどに弱らせ、封印してしまえば良い」
「確かに」
倒すのでは無くて、何も行動できないようにしてしまえば良いのか。目的はエンシェントを倒すことではなくて、動きを止める事なのだから。
「貴様にこれを渡そう。力を拡散させる魔道具だ。これをエンシェントに打ち込めば奴はまともに動くことは出来ないだろう」
ジダイガから、なにやら禍々しい杭を受けとった。力を集めさせなければ、新たに精霊へ譲渡することも出来ないという事か。
「あ、じゃあ。アタイはこれやるよ」
「ナイフ?」
レアルからは一見普通のナイフを受け取った。確かにナイフはあると色々と役に立ちそうだが。本当に普通のナイフか?
「これはアタイが物理法則を書き換えたナイフで、どんなものでも斬れるけど、負荷に耐えられなくて。一回で壊れるから注意してね」
なんて使い難いナイフだ。寧ろ普通のナイフの方が良かったと言うか。
「ククッ。私は情報を集めに行こう。心配するな、指揮者は1人であるからこそ成り立つものだ」
謎の言葉を残してジダイガは去っていった。何を言いたかったのかわからないが。策でもあるのだろうか。
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