到達する者 ~arrival~

七獅子

始まりの物語

プロローグ ~それぞれの思い~

始めに:プロローグは物語終盤に関わってくる内容ですので、第1話から読むほうが分かりやすいと思います。御愛読頂けると幸いです。



プロローグ① ~意志ある石~




「ワタシは...石にモドる。そウシて、このチカラをミライにツナゲたいノ...」


静かに、そして優しく、ささやくようにその女性は自らの願いを吐露する。その表情は少し悲し気であったが、確たる意志を感じさせた。


「ゴメンなサイ。ワタシのせいでアナタのカラダはクチてしマう。」


話しかけられた男性は少し苦し気に、しかし、優しい表情で答える。


「いいんだよ。必要なことさ。僕のような、ただの人間が、ただ努力して知恵を絞っても、どうにもならなかったことに対して、抗うことが出来る。だから、君と僕とで...この子を未来に到達させてあげる...そのための礎となれることは、本望といえる。感謝しても、し足りないくらいさ。」


「ありがとう。」


その声は震えている。


「君に出会ったときは、君がそんな言葉を口にすることなんて考えもしなかった。」


「それはワタシだってオナジよ。アナタにいろいろナことをオソわったわ。特にカンジョウとか...ネ。」


ふふふっと笑みを浮かべ、顔を見合わせる二人。


「今マデありがとう。本当に。」


「それは僕のセリフだよ...」


もう、その男が喋ることはなかった。その男性は石のように動かなくなっていた。


「イイエ。ワタシの、私のセリフよ...」


彼女の目から零れ落ちた水滴しずくが、人間の男性を優しく撫でていった。





プロローグ② ~白の騎士~



どこかの研究施設のような場所で、白を基調とした服装の男が重武装の者達を一瞥した。その男の手は、さながら騎士の如く、剣のような形をしていた。無数の銃口を向けられているというのに顔色一つ変えることなく、小さく呟く。


「僕を本気で迎え撃ちたいのなら...彼女を用意すべきだ...しかし、そうはしなかった。何か、僕と会わせることに不都合でもあったのか?――」


そこにいない誰かに問いかける彼。そこへ、けたたましい発砲音と共に無数の鉛玉が飛んでくる。しかし、その銃撃の嵐は目に見えないの傘で防がれた。


「今、迎えに行くよ。僕たち、皆の力で到達するのだから...未来に。」


鳴り響く発砲音は、さながら白馬の王子様がお姫様を迎えに来た際の祝砲のようであった。彼のブレードが波動を纏い、激しい閃光と同時に、比類なき圧倒的な力を込めた美しい斬撃が放たれる。銃撃音が止み、そこは、先程までの状況からは考えられないほど、静寂が支配する空間と化していた。そこに木霊する音...それは人類を超越した者の心音のみであった...




プロローグ③ ~星降る夜に~


信じられなかった。先程まで彼らがいた場所が激しい光と轟音に包まれた。その衝撃波が彼らに、あの場所にいる仲間の運命を悟らせた。彼らは少年と呼ぶには少し大人びた顔をしているが、まだまだ子供だった。


「こんな...こんなことって......」


彼らは予想の遥か斜め上空を行く状況に絶望の表情だけを浮かべていた。


「今ので、こっちでも雪崩が起きるかもしれないし、早く逃げた方が...」


黒髪の少女が涙目でいつもは明るい少年の袖を引っ張っている。


そこから少し離れた場所で同じように絶望に顔を歪ませた少年が佇んでいた。


「僕たちの...せいか??」


いつもは自分の行動に自信満々の彼ですら、この状況に戸惑い、困惑し、悔恨し、自責の念にかられていた。彼らはその日、目撃した進化者エヴォルを。足を踏み入れたサブ進化者エヴォルに。




プロローグ④ ~講義~


「進化とは何も生物がそうなりたいと願い、形を変えたのではない。様々な突然変異というエラーの中で偶然にも生き残るための力を得た。要するに、進化は複雑な環境による偶然の産物だ。一方で、進化とは何らかの方法で生物自身が意図的に自己形成を変化させたと主張する者もいる。確かにそんな生物も存在しているかもしれない。ただ、少なくとも我々一般人が今までに発見した生物には不可能だろうね。」


――自らの意志で進化...いや、進歩、そして到達出来る者...それは――


彼は帝都大学生命自然科学部のキャンパス内の、よくクーラーの効いた快適な大講義室でいつものように教鞭をとる。


その講義を受けている生徒の中に美来みらいはいた。




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