すべてはあなたの為に

カンナ

第1話

何年経っただろうか。あの頃と違って、笑いかけてくれなくなったのは。


「ルイス、行ってくれるよな。名高い戦士よ」

「はっ。直ちに」


女王として君臨して早2年。父王も夫も失った彼女、幼き息子王子が育つまでの地位だが、今では立派に国を統治している。もう少しで反乱も治るだろう。


だが、2年で変わった。愛らしく美しい笑顔を振りまく彼女が冷たい仮面を被るようになってしまった。しかも、側には怪しき佞臣。反乱者もそうでないものも、佞臣のでっち上げで処刑され続け。王の側付きとして父の跡を継いだ俺もいづれは彼らのようになり兼ねない。だから命は全て受けた。


「ルイス、お前、実行してなかったのか?」

「は・・・・・・何のことでしょう」


ある日、日常は壊された。俺の秘密がばれた。


「サイモン卿、ヴィラール卿、その他、多数を、処刑しなかった。証拠もありますわ」


佞臣がニヤリと笑う。ああ、命運はここまでか。


「申し上げます。彼らは罪なきもの、ゆえに逃しました。あなた様のため、でございます」


女王が口を開く前に、証拠もございます、声を上げる。


佞臣の表情は一変。そこには彼の罪の束。彼が今まで己の権力にしがみつくために行ったことすべて記入された書類の束を懐から出したからだ。女王は書類を受け取り一瞥するなり、顔を青ざめさす。



「だ、騙したのか、ガロ。妾を、妾を」


震える女王の声を背に聞きながら、俺は下がった。これで俺の役割は終わり。


慈悲深き女王に、貴方ならなれる。


さて、俺はどうしようか。

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すべてはあなたの為に カンナ @ka318nna

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