【女子プロレス小説】小さいだけじゃダメかしら?

ミッチー・ミツオカ

第1話

 小野坂おのさかユカはふわりと宙に舞った――

 自分よりも倍以上あろう体躯を持った対戦相手から、重量感のあるタックルを真正面で喰らった彼女は、まるで交通事故の如く軽々と吹き飛ばされたのだ。リングの四方からその“惨劇”を目撃した観客たちは、その「飛びっぷり」の良さに驚きの声をあげる。まだ二試合目だというのに、三百人も入れば超満員マークの付く小さな公営体育館では、大柄の対戦相手よりも小さいながらも技の受けっぷりがよい、女子プロレスラー・ユカへ注目が集まり、既に熱狂の渦に包まれていた。

 ユカは歯を食いしばりふらふらと立ち上がると、壁の如く立ち塞がる目の前の敵に向かって、ありったけの力を込めエルボーバットを何度も叩き込んだ。肘を相手の胸元へ打つ度に彼女の、脱色したショートヘアーが実年齢よりも幼い顔を隠すほど大きく揺れ、その小さな身体からは信じられない程強い“圧力”に対戦相手は、圧倒されてしまいポジションをじりじりと後退させていった。

 「頑張れ!」「攻めろ!」叫ぶような観客たちの声援がユカに集中する。

 いける!と踏んだ彼女は大きく叫び気合を入れると、自ら反対側のロープへ向かい走り出す。背中全体で硬いロープを受けて反動をつけスピードアップさせ、敵の顎へ目掛け“肘爆弾”を叩きつけるべく腕をフルスイングさせた。だがこのユカの攻撃を既に読んでいた相手は、身を屈めて難なく回避すると今度は自分がロープへと走りリバウンドした後、一撃必殺のクローズラインを逆に彼女の喉元へヒットさせる。

 加速プラス、ウェイトの十分に乗った相手選手の攻撃を、再び喰らったユカの身体は、着衣しているコスチュームに附属するフリルを波打たせて木の葉のように回転し――そのまま頭からマットへ落下した。意識が朦朧とする中、自分の上半身にずっしりと重くのし掛かる、対戦相手の体重を感じながらユカは肩を上げることも出来ずに、黙って敗北へのスリーカウントを聞くのであった。


 今夜の大会も何のトラブルもなく無事に終了し、決して大きくはない会場内の控室では、帰り支度をする選手たちで一杯になっていた。リング上を彩っていた窮屈なコスチュームも脱ぎ、すっかりリラックスした彼女たちは下着姿である事も気にせず、まるで修学旅行での旅館のように騒ぎながら、シャワーの順番待ちや差し入れのつまみ食い、そしてスマートフォンを使ってのツイッターやブログ更新の《情報発信》など個々に忙しく活動している。控室の外では唯一の男性である団体代表の元川瑛二もとかわ えいじが中にも入れず、廊下に掛かっている壁時計を見ながら泣き顔で、迫る体育館の撤収時間を気にしていた。

「ユカさん、今日はありがとうございました」

 薄い青色の下着姿のままくつろいでいたユカに、大柄の女性が礼儀正しく挨拶をする――先ほどの対戦相手だった。どうやら彼女はユカの後輩らしく、リング上ではあれほどパワフルなファイトを見せていたにもかかわらず、第三者からは見えない“上下関係”の壁なのか、身体を縮ませてユカに接している姿が何だか可笑しい。

「今日のファイトも最高だったね! この調子で臆せずどんどんいけばきっとすぐトップを張れるよ、わたしが保証するって!」

 数分前に自分を“負かした”相手だというのに、ユカはそんな事も関係なく目の前の後輩を褒め称え励ます。彼女にとっては勝ち負けなどは大した問題ではなく、自分たちの試合を見て、会場にいる観客が喜んでいるかどうかの方に関心があるのだ。

「ほらぁ、みんな早く着替えて着替えて! 遅くなると追加使用料が発生するから、外で待ってる元川さん涙目だよぉ!」 

 控室中に響き渡るほど大きく掌を打って、遅々として進まない帰り支度を催促するのは、本日の興行でもメインを務め上げたこの団体のエースである《レッド・ストライカー》赤井七海あかい ななみだ。170㎝近い高身長という恵まれた身体に加え、格闘技の経験もあり正に《女子プロレスラー》になるべくしてなった“逸材”である。ここにいる他の誰よりも、選手歴の長い七海の言葉に誰も反論するわけはなく、皆スイッチが入ったようにてきぱきと身支度のスピードを早めだした。

「ユカ、あんたも急ぐの! みんなより年上なのにいつも一番遅いんだから全く」

 急に“お小言”が自分の方に向いてきて、すっかり意表を突かれたユカは長椅子から立ち上がると、急いでTシャツを羽織りだした――七海の話はまだ終わらない。

「それで支度が終わったら、いつもの店で集合ね。待ってるから」

 そう言い終えると彼女は足早に控室を後にする。ひとり残されたユカは七海の去った方向を見つめたまま、黙々と着替えを進めるのであった。


 「三ツ星」「行列のできる」という女子受けしそうなキーワードとは縁遠い、何の変哲もないごく在り来たりな、商業ビルの一階に設置されている古ぼけた小さなレストラン――ここが彼女たちふたりの“集合場所”だ。団体が管理する彼女らの住む選手寮から一番近く、あまりお金の無かった練習生の頃から、自由に使えるお金がちょっとだけ増えた現在に至るまで事あるごとに利用する、地方出身者であるふたりにとっては《実家》のような安心感のある店なのだった。 

 最寄りのバス停から走ってきたのか、息を切らせてユカが入店すると壁側の一番隅っこの席に座っていた七海が、大きく手を振って彼女を呼んだ。

「お疲れぇユカ。ささ、水でも飲んで」

 差し出されたコップ一杯の水を、ユカは立ったまま一気に飲み干すと、ふぅ~っと大きく息をつき七海の正面の席へ座った。ふたりの顔に笑顔が宿る。

 頃合いを見計らってテーブルに料理が並べられていく。七海は大根おろしが雪のように肉の表面を覆う和風ハンバーグ、ユカは具が大きなビーフシチューだ。料理から発生する熱と匂いが試合後でお腹の空いた彼女たちの食欲をそそる。欲に負けたユカは備え付けのロールパンを少し千切ると、熱々のシチューに浸し口いっぱいに頬張った。シチューに溶け込んだ牛肉の旨みが、口から鼻へと抜け彼女は幸福感に浸る――と同時に、急いで口に入れた為に料理の熱で、少し舌を火傷してしまった。

「バカね、急いで食べるからよ。水いる?」

 七海から渡された水を飲み口の中を冷やすユカ。ころころと変わる彼女の表情を見ていると、同期であり親友である七海はいつも癒されるのであった。

「七海、今日もメインご苦労様」

「いやね、ユカがしっかりと身体を張ってお客を沸かせているからこそ、こんな私でもどうにかカッコついてるのよ。礼を言うのはこっちよ」

 謙遜し合うふたり。それはお互いが真にそう思っているからこそ、自然と口から感謝の言葉が出る。「私が一番」な個人主義的なレスラーの多いなか、彼女たちのような《立場》に対して欲がない選手というのは珍しいかもしれない。それはふたりが必死になって、ゼロの状態から団体を盛り立てていったから他ならない。

 メジャー団体を退団した元スター選手を担ぎ出して旗揚げした、ふたりが所属する団体《東都女子プロレスリング》だったが、数カ月も経たないうちに「方向性の違い」を理由に彼女ほか数名のスタッフが離脱、最大の《目玉商品》を失った団体はいきなりピンチを迎えてしまう。そこでデビューして間もないユカと七海はいろんな団体へ《出稼ぎ》を行い、そこでふたりは闘ったり組んだりして自団体の知名度と自分たちの《商品価値》を高めていき、「半年で潰れる」と揶揄されていた東都女子もなんとか三年目を迎え、ようやく彼女たちの頑張りが女子プロレスファンの間にも認められ、団体にも固定客リピーターが付くようになったのだ。

「ただね――ユカの“本当の”実力も、そろそろ見せていい頃じゃないかと思うの。いつもいつも有望な選手の“引き立て役”やコミカル路線ばかりで本当に満足?」

 今夜初めて見せる七海の浮かない表情。彼女とは長い付き合いだからこそ、自ら進んでやっているとはいえ、現在のユカのポジションにはあまり納得がいかない様子だ。彼女の繰り広げるコミカルな試合は決して嫌いではない。生真面目な自分には出来ないからこそ、彼女に尊敬の念を抱いてもいる。だからその情熱を少しだけ、トップ盗りにも向けて欲しいなぁと七海は思うのである。

「うん? 楽しいよ。下の子がどんどん試合数を重ねて上手くなっていく姿を見てるとね、こっちもすごくやりがいを感じるんだ。トップに上がりたくないわけじゃないけど、団体のチャンピオンってカッコつかないでしょ? 在るべき人が在るべきポジションに付く。それが筋ってもんでしょ」

 しかし何度説得してもいつもユカの“答え”は同じ。欲が無いのか自信が無いのか、東都女子の“広告塔”には喜んでなれども、看板を背負う気などこれっぽっちも無いようだ。

「でも、もし七海がピンチになった時――その時は“助太刀”させてもらうから、それまでエースのお努め頑張ってね」 

「また調子のいい事を……本気にしちゃうわよ?」

 一瞬だけ真剣な表情に変わった彼女に、七海は淡い期待を寄せてみた。だがユカはやっぱり楽天家のままだった。

「いいよ。下の子が伸びてきたらその子に全部任せちゃうから」

「もーっ、そうやって責任から逃れようとする!」

 したり顔のユカを前に、七海は呆れて笑い出してしまった。だけどちゃんと分かっている、決して彼女は逃げたりはしない事を。それは長年の付き合いと実際に、練習や試合で肌を合わせた彼女だけが持てる“自信”だった。

 ふたりだけの楽しい夕食会は、料理の皿が空になっても一向に終る気配は無かった――


 東都女子の道場には、大きな悲鳴が響き渡った。

 「何事か?」と遠巻きに恐る恐る見つめる者もいれば、「あぁ、またか」と“惨状”を知っていても見向きすらしない者もいる。両極端な態度の違いがそのまま、この団体におけるキャリアの差となっているのだった。フロアの真ん中付近に設置されているリングの上では、寝技中心のスパーリングが延々と行われていた。悲鳴を上げたのはデビューを目指している練習生で、上げさせているのはあの小野坂ユカだ。まだ線が細いとはいえ長身の彼女を、いとも簡単にテイクダウンさせ、押え込み動けなくして関節を決める一連の動作には、一切の無駄がなく美しさすら感じる。スパーリングが開始されてからまだ三分も経たないうちに、練習生の彼女は既に汗まみれで疲労困憊となっているのに対し、ユカの顔にはまだまだ余裕の笑顔が浮かんでいた。マットレスリングの強さ――これが《能天気ダイナマイト》小野坂ユカの隠し持っている“実力”だった。

「わかったでしょ? レスリングの強さは身体の大小に関係ないって事を――ユカもそろそろ止めてあげなって、大人げないわよ」

 リングに上がり両者を分ける七海。手も足も出せないまま、ひたすらユカの餌食となっていた練習生は、体力を奪われてしまい「稽古」を付けてもらった礼も言えず、どうにか頭だけ下げると同じ年頃の子に肩を借りてリングを降りて行った。いつも笑顔で誰とでも公平に接している彼女なだけに、この「もうひとつの顔」は入門して間もない練習生にすれば“恐怖”以外何物でもないだろう。“遊び相手”がいなくなり、リングを囲む黒いロープを蹴ってつまらなそうにしているユカに、七海が声を掛けた。

「私で良ければ相手になるわよ、どう?」

 彼女の提案を聞いた途端、ぱあっとユカの表情が明るくなる。

「うん、やろうやろう!」

 余程嬉しかったのか、茶髪のショートヘアを浮かせて跳ね回る元気娘。そんな彼女を正面にして、拳を軽く握りアップライトで構える七海。道場内に緊張感が走り、各々練習していた他の選手や練習生たちがリングを囲むように集まった。

 七海の隙のない立ち姿に、興奮を隠せないユカはぺろりと舌を出すと、低い姿勢で彼女の周りを移動しテイクダウンを奪おうと隙を窺った。対する七海も縦に横にとフットワークを使いながら、時折蹴りを出し威嚇してユカを自分の間合いへ入れないようにする。

 突然、それまで細かく動いていたユカが仰向けになって寝転がった。驚いた七海の足が一瞬止まると、ユカの脚が下から這い上がるように絡みつき、気が付けばマットに倒されていた。そのままユカは相手の足を脇に挟み固めると、関節が曲がらない方向へと一気に捻る。踵固めヒールホールドを完全に決められた七海は、最早痛みから逃れる術もなく、ユカの腿を叩いてギブアップせざるを得なかった。ユカは得意気な表情で人差し指を一本突き出し、七海に対し「一本先取」した事をアピールした。

 親友とはいえ、先にギブアップを奪われて面白くない七海は、もう一度構え直しユカとのスパーリングを再開した。一本先取している事で気持ちに余裕のあるユカは、意地悪にも七海の痛めた方の脚に向かってタックルを仕掛け、もう一度関節技で一本勝ちを狙う。マットを這うような低い片足タックルが彼女の脚を捉えるが、七海は逆にユカの身体に覆い被さり彼女の動きを止めた。背中の上からは重圧がかかり、胸の下には腕が回され固定されてしまい逃げる事が出来ない。焦るユカをよそに七海は、彼女の背中の上で体勢を変えると、足を股に引っ掛けて四つん這いの体勢を崩し、空いていた首筋に素早く腕を巻き付け締め上げた。

 べたんと腹這いに寝かされ尚且つ裸締めスリーパーホールドを決められてしまっているので、力の入れ処も無いユカは無念にも、マットを叩いてギブアップを宣言する。これで両者は1体1のイーブンとなった。

「うぉぉぉっ!」

 悔しさで一杯のユカは立ち上がると、七海の腕を掴むと思いっきり正面のロープへ振り飛ばした。バウンドして戻ってきた彼女に高く鋭いドロップキックを放ち、七海は胸元に被弾し大きく後方へ倒れる。胸を押さえ痛がる大親友の髪を掴んで無理矢理立たせると、今度はそこへエルボーバットを二発三発と叩き入れる。

 押されっぱなしでたまるか! と七海は四発目のエルボーを腕でブロックすると、逆に肘をユカの顎へと思いっきりぶち込んだ。体重の乗った、彼女のエルボーバットはたった一発でユカの動きを止める。ダメージを受けふらふらと左右に揺れるユカのどてっ腹へ向かて、今度は七海が連続でミドルキックを叩き入れていく。一発また一発と打ち込まれる度にユカの身体が浮き上がる。そして止めとばかりに七海は、彼女の頭部へ目掛けてハイキックを発射した。だが彼女の技を読んでいたユカは体勢を低くして、大きく弧を描く七海の蹴り脚を避けた――はずだった。実はこのハイキックはフェイントで、かわされた七海は顔色一つ変える事も無く、身体を捻ると今度はニールキックを中腰の状態でいたユカの顔へヒットさせた。《レッド・ストライカー》赤井七海の必殺技フィニッシャーのひとつ、二段回転蹴りだ。

 顔を両手で押さえ痛がるユカの元へ七海が駆け寄った。

「大丈夫、ユカ?……えっ」

 七海が側へ近寄った途端、ユカはヘッドスプリングで起き上がると、状況が把握できず棒立ち状態の彼女に跳び付き、太腿で頭部を挟み後ろへ反り返ってそのままマットへ突っ込ませた。今度はユカによる縦回転の脳天杭打ちパイルドライバーともいうべき難度の高い技、フランケンシュタイナーがずばりと決まった。ユカと七海による、試合さながらの激しいスパーリングは、リングの外で見ている後輩や、まだデビューも決まっていない練習生たちの心を熱くさせていき、次第にふたつの陣営に分かれ声援を送りはじめる。さながら道場は小さな試合会場と化していた。

「そこまでだユカ、七海。ホラみんなも練習に戻って戻って」

 “女の園”に闖入するひとりの男性――団体代表である元川だ。彼は手を叩いて選手や練習生に注意を促しながら、ユカと七海のいるリングへ歩んでいく。

 まだ年齢も四十台と若いがプロレス団体のスタッフ歴は長く、チケット売りから移動バスの運転手にリングアナウンサー……出来る事は何でもやった。その熱意が認められた結果、三年前に複数のプロレス団体を運営するマネージメント会社から、新しく設立した東都女子の代表に任命されたのであった。旗揚げ三ヶ月目でスター選手やスタッフの大量離脱という憂き目にあったが、それでも安易に団体を畳む事なく、新人の中でも頭角を現してきた赤井七海と小野坂ユカに未来を託し、二人三脚――いや三人四脚で東都女子の名を世間に知らしめるために奔走した、「選手と代表」という枠を超え彼女たちの《同志》ともいえる人物だ。元川の姿を見て、それまで激しく闘っていたふたりが、どちらからともなく手を離しスパーリングを中止した。

「どうしたんですか、元川さん? 珍しいですね道場まで来るなんて」

「あっ、もしかしてスパーリングの相手になってくれるとか? それともかな?……なんちゃって」

「ユカ、そういう冗談はシャレにならんから言うな。仮にも女子プロ伝統の『三禁』を謳ってるんだから、練習生たちに示しが付かないじゃないか――ってそうじゃなくて」

 真面目な話をしようにも、七海はともかくユカにいつも冗談ではぐらかされ、なかなか本題に入っていけない元川であるが、今度ばかりはそうもいっていられない様子だ。ユカの顔にトレードマークの笑顔が消える。

「マジっすか」

 こくりと首を縦に振り返事をすると、彼はふたりの間に入り話し始めた。

「――今度の」

 幾度もあった経営危機の時にも、自分たち選手の前では決して見せなかった元川の苦々しい表情に、七海たちは只事でない事を直感する。

「《旗揚げ3周年記念シリーズ》にの参戦が決定した……」

 ――!?

 “彼女”という単語ワードを発する時の、彼の嫌そうな表情を見てふたりは即座に誰だか理解した。浦井冨美佳うらいふみか――団体設立当時の看板選手であり、この東都女子に最大の危機をもたらした、三人からすればあまり良い感情を持っておらず、出来れば関わりを避けたいくらいの忌まわしき人物であった。

「何でですか? 何故自分で見限って捨てた、この団体にあの人が上がるんです?」

 信じられないと言わんばかりの表情で、七海は元川に喰ってかかるが、黙って彼女に身体を揺すられるだけで返答に窮していた。

「お、オーナーからの指示なんだ。アニバーサリー・ゲストと言う事らしい……感情よりも観客動員を優先する、という事で僕の反対意見は無視されたよ」

 何も言わずに、リングから飛び出し道場を後にする七海。

 “正義感”の強い彼女には未だ三年前の、冨美佳による身勝手な行動を許せずにいた。頼るべきリーダーが突然、自分たちの前から姿を消すという出来事は、当時まだ駆け出しだった七海には心身的なショックが大きく、その衝撃は今でも深く心に刻みついたままだった。

 リング上に取り残されたユカは、七海の行動に対しどう対処すればよいか分からず、彼女の消えた方向を元川とふたりでただ黙って眺めているしかなかった。

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