第2話酒場の常連 ギルボア

白いフードを被った一人の少女が大通りを歩く。


時刻は昼下がり。


大通りには人が溢れ、露天商が大声で呼び込みをし活気に満ちている。



煙の国 アイオラ


この国では蒸気機関が発達し、至るところに煙を目にすることから通称「煙の国」と呼ばれている。



少女は手に持っていた紙切れを確認し、大通りから建物の間にある細い脇道へと入り、その先にある酒場へと入っていく。


カラン、と扉を開く音と同時に鈴のような音がなると、店主が興味もなさげに目を扉の方へやるが再びグラス磨きをしはじめた。どうやらグラスの曇りがよく取れず気になっているようだ。


少女は、あたりをキョロキョロと見渡した。まだ昼過ぎだというのに何組かがテーブル席で飲みながら楽しげに話をしている。顔をりんごのように赤くしていることからすでに何杯か飲んだ後なのか、それともただその客が酒に弱いだけなのか、少女には区別がつかない。


「あの…」

意を決し、近くにいたそのリンゴのように赤い男に話しかける。


「なんだ、おまえ?」


「あの…私、その人を探しているんです。その、ここにいる聞いて…」


少女は男のぶっきらぼうな言い方に怖気ながらも尋ねる。男は話を遮られたせいか機嫌が少しよくないようにもみえる。


「あ?そうかい。で、そいつの名前とかは知ってんのか?おまえ」


「…ギルボア、ギルボア・アーネットという方を探しています」


「ギルボアぁ〜?ギルボアって言やぁ、この酒場には一人しかいねぇぜ」

彼と相席していた別の男がそう答える。


「ほんとうですか!? そ、それで、彼はいまどちらに!?」

少女は食い気味で尋ねる。


「あいつはいつもここにいるよ。ほれ見てみろ、あそこで酒に溺れてるキチガイ野郎があんたの探してたギルボアだよ」

男たちは酒の勢いか品もなくぎゃははと笑い声をあげながら少女にそう伝える。彼らの指さした方に目を向けると、なるほど、歳は少女より3回りは上に見える男が酒ビンを握りしめたままテーブルに突っ伏して寝ていた。


「あの方が…。丁寧に教えていただき感謝します」

そういうと少女は律儀に男たちに礼をし、フロア端のテーブル突っ伏している男の元へと歩き出した。







「彼らからお聞きしたのですが、あなたがギルボア・アーネットさんですか?」


少女は突っ伏している男の横に立ち尋ねた。

近くで男を見ると酒の匂いを漂わせ、よれよれの薄汚れた服を着ており、髪も髭も伸ばしきった様子だ。実際に少女は見たことはないのだが、それはまるでスラム街にいる浮浪者のような風貌をしている。


「ん…。んん。んぐ…。…だれか俺の名を呼んだか…?」


突っ伏していた男、ギルボアは少女の呼びかけにより目を覚ました。


「おまえさんが、呼んだのか?何の用だこんな浮浪者に…」

ギルボアは自嘲しながら少女に尋ねる。


「はい、私があなたの名前を呼びました。…ギルボアさんあなたのお力をぜひお借りしたいのです」


ギルボアは握りしめていた酒瓶の口を加え中の酒を一口のみ、


「おまえさん、その声質からすると、まだ子どもだな?ガキが酒場にきてもいいことはない。さっさと帰るんだな」


と答えた。


「はっ、ガキが酒場にいる日がくるたぁこの国は本当におしまいだな」


豪快に笑いながらそうも答えた。



「でたよ、きちがいギルボアのたわごとが…」


「この国が終わるわけないだろ、馬鹿ギルボア。いまだって順調に国も俺らの財布の中も潤ってら」


周りの席から嘲笑とともにそんな声が聞こえる。







「けっ、なにもわかってない馬鹿どもめ。本当に終わるんだよこの国は、もう何をしても手遅れだ」


ギルボアは小さく愚痴をこぼしながら、酒をまた飲み始める。










「いいえ、ギルボアさん。まだ手遅れじゃありません。あなたがお力をお貸ししていただけたなら、まだ終わりません。」






少女がそうギルボアを話し始めた。


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