幼い俺が誘われた折絵悠の世界

なきゃ

第1話

確かあれは三歳だったと思う。

母親に「勉強ばかりで疲れたでしょう」と連れてこられた美術館での話だ。


そこにはいくつもの作品があった。

本物だけ、とはいえ無名画家の作品も多々あった。

『花』がモチーフだったりする作品をあつめた展示会だった気もする。



「ねぇママ、あの人だかりは何?」



大きな絵画でもないのに、そこには何十人と人だかりができていた。

疑問に思って母に問うと「行ってみる?」と手を引かれて

その作品のほうへ向かった。




――――この時、俺の世界は一瞬で変わったんだ。






「きれえ・・・」


「そうねぇ、貴方もこの男の子みたいに落ち着いた子で居てね」


「うん!」



一目見て満足した俺は、きれえとだけ言って離れようとした。

でもそんなことは出来やしない。


視界の端で、その男の子が微笑んだ気がしたから。



「ねぇママー、この男の子今笑ったよー」


「元々笑ってるわよ」



俺の発言に顔をすこしゆがめる母。

そりゃそうだ、浮かべた笑顔も美しさの一つなのに「今笑った」なんて。



「違うよ!ほんとに笑った!」


幼いながらにも意地を張る俺だったが親に注意されて拗ねたんだ。





__有難う、男の子。嬉しくて笑うのは久しぶりなんだ





誰かの声が俺に降った。




「えっ、誰・・」






きっとこの絵が俺に話しかけてくれたのかな。

もっと話だかったけど、また親に手を引かれて別の作品のほうへ。






「ママ、また会いに行ってもいいのかな」


「?・・いいのよ?」




忘れないうちにまた会いに行くからね、お花君。

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