夜空に無限の夢現

レスト

第1話 by Shiho.M

 見たこともない、知らないものを想像することはとても難しいことだ。十八歳のわたしですらそう思うのだから、わたしより年下の子に想像しろというのはもっと難しいだろう。

 わたしは、平和な世界を知らない。

 そんなことを起き抜けの頭で考えられるのだから、今日の朝は比較的静かなほうだと言えた。昨日は数か月に一度の全体非番で、怪我人が誰もいなかったというのが大きい。

 簡単に顔を洗い、歯を磨き、カッターシャツの上から白衣を羽織る。これが一番シンプルで動きやすい服装だ。

 朝食の時間まであともう少し、丁度いい時間だろう。今日もまた、平和ではない一日が始まる。


 少し長い話になるが、聞いてほしい。

 一九四五年八月、ポツダム宣言を受諾した日本は、第二次世界大戦に敗北した。そこから軍隊を持たないようになったのは、皆さんご存知の通りだろう。

しかし今から十七年前、わたしが一歳のときに、世界で謎の生物が発見された。簡単に言ってしまえばゾンビのようなその生き物は、我々人間に対し攻撃を仕掛けてきたのだ。どこから湧いてきたのか、正体は何なのか――そのようなことを考えているうちに、いつの間にかその生物と人間の戦争が始まった。その生物は「未確認生物」と呼ばれるようになり、軍隊を持つ国はすぐさま排除に当たった。

 ここで困ったのは日本である。軍隊を持たないことを憲法で決まられている我が国は攻撃ができない。自衛隊の防戦一方で、未確認生物から攻められるのを待つ体制になってしまったのだ。

 日本は、何十年ぶりに憲法九条を書き換えた。もはや一刻の猶予もなかったのだろう。

 簡単に言うと、内容は『未確認生物の対抗するためだけの軍隊を設立することとする』『日本特別軍という名称』といったところだ。自衛隊が本土を防衛するなら、未確認生物がやってくる前にこちらから攻める軍隊を作ったのだ。

 日本特別陸軍 大庭おおば隊所属 後方支援部看護科看護師 真壁志保まかべしほ。これがわたしの肩書である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る