第48話 「あにき!」「きょうだい!」

 夕食は山海の幸を集めたスペシャル・ディナーで、円形の中華テーブルに鍋の具材として様々な魚・肉・野菜その他が揃って、全体に盛り上がった(あんこうとか常陸牛とかあるはずなんだけど、そこらへんは取材不足なんでお許しください。どこかスポンサーになってくれるのならもうすこし取材する。メモ)。

 グループはおれとハチバン、アキラとカオル、セイさんとアカネさん、それにブラノワちゃんとおれの親父、って感じに分かれるんだけど、ブラノワちゃんのお世話はセイさん、親父の相手はハチバンがしていたので、おれはアカネさんと緊張しながら話をした。今どんな話考えてるの、とか、学校面白いかな、とかとても普通の、会社の先輩と後輩みたいな感じだ。

 アカネさんは自分の話をあまりしてくれない人だったな、と、昔のことをおれは思い出した。

 アキラとカオルはいつものように、神の実在と不在について果てしない雑談をしていて、別にいてもいなくてもいい。なぜ来たかというと、カオルが酒を飲めるようになったからである。

 親父とブラノワちゃん、それにアカネさんはそれなりにおしゃれっぽい冬のリゾート服で、それ以外のおれたちは昔のジャージを持ち込んで着ていた。当時の上履きのフチの色と同じ、学年によって異なる3色(緑・青・赤)のワンポイント・マークがついている、あまりおしゃれではない奴である。さすがに上履きまでは持ってきていないが、どうせ誰かが血の色で汚すことになるだろうから、と、元・物語部員はあきらめているのだった。

 円卓のメンバーで非アルコール飲料をあてがわれていたのはハチバンとブラノワちゃんで、へべれけだったのは親父だ。ブラノワちゃんはウーロン茶を、これは乙ね、とか言って飲んで、どんな食べ物でも、おいしいわ、と言って感心しながら食べていたので、特にワインを飲まなければ死ぬ、という体質ではないようだ。

 セイさんは勝手に鍋の中に肉や野菜をどんどん入れて、勝手に自分とブラノワちゃんに取り分けてる。鍋奉行に取り分け同心である。アクを取るアク代官はアカネさんが、しょうがないなもう、という感じでやってくれた。

     *

 食後、一同はホテルの各室へ一度戻り、めいめいが追加の夜食と飲料、それにカードゲームの類を持って、一番デリシャスなおれとハチバンのスイートルームのリビングに集まった。

「あにき!」「きょうだい!」と、おれの酒虫のアルくん(アルチュール)と、親父の腹の中にいるエルくん(エルキュールというらしい)は感動の再会をした。緑色のアルくんに対して、あにき分であるエルくんはピンク色な以外はほとんど違いはない。考えてみるとあにき分は弟分のことを「おとうと!」とか呼ばないのよね。

 アカネさんとブラノワちゃんは、もう一度お湯に入ってくる、と言って姿を見せず、ハチバンは隣の寝室ですこし仮眠を取る、と言って姿を消した。ハチバンはあまり夜が強い体質ではない。あと、こっそりビールを飲んでるかもしれないが、そういうのは話に出てこなければ問題はないはずである。

 だいたいこの流れだと、ハチバンが被害者で、犯人はアカネさん、名探偵はブラノワちゃんになりそうな気がするんだよな。

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