てのひらまで

鋼野タケシ

1 タイムリミットまで、20分。

 昇降口から、ブレザー姿の彼女が出て来た。

「お待たせしました、先輩」

 彼女はニコニコと笑っている。

「帰りましょう」

 彼女はぼくの横に並び、歩く。60センチの距離をあけて。


 並んで歩く時、ぼくらにはいつも60センチの距離がある。

 60センチは先輩と後輩の距離。手と手のふれあわない、知人の距離。

(だから今、この距離はあって当然だ)

 ぼくは考える。

 彼女に一歩、近付けば30センチに縮まる。

 30センチは友人の距離、手を伸ばせばふれあえる距離。

(たぶん、一歩なら……彼女は許してくれるだろう。その程度の信頼は築けている、はずだ。たぶん)

 問題は、そこからもう一歩。

 もう一歩、距離を詰めればふたりの間は15センチになる。

 互いの手がふれ、抱きしめあえる、恋人たちの距離。

(今日こそ……彼女に好きだと伝えなければ)

 彼女との距離を15センチまで、恋人の距離にするために。

 バス停にたどり着く前に、彼女に想いを打ち明ける。


 校門からバス停まで――タイムリミットは20分。

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