本当の敵-07
「本当の敵-07」
ロッテは本部の地下に部屋を設け、個別で隊員全員を呼んだ。父、ニコラスが襲われた際に誰とどこにいたのか。どういった行動をしていたのか。または不審な者を見なかったか。クロエが終わったところで、リタに声をかけてきた。
リタは本部の広間で待っていた。椅子に腰かけて本を読んでいたが、中断して立ち上がる。リタが最後である。
「仲間を疑うなんて嫌だねえ。本当に赤ずきん部隊の中にいるのかどうかも怪しいってのに」
リタは「そうね」としか答えられない。リタ自身も、本部でいたニコラスが襲われたことで内部に侵入していると考えている。手引きした者もいるかもしれない。
確かに、お互いを調べるのは正当な判断といえた。
地下に降りて、重い扉をあける。木のテーブルと二脚の向かい合う椅子。窓はない。薄暗い部屋だ。この部屋は尋問部屋である。
リタも人狼を捉えて、仲間がいる可能性があるときはここで尋問をしたことがある。拷問をすることもあった。
まさか、自分が呼ばれる方になるとは考えてもみなかった。
「座れ」
ロッテが足を組みながら書類にペンを走らせている。敵意があるのが見てとれるが、こちらは何も後ろめたいこともない。冷静に答えるまでだ。
「リタ=ヴィンダウス。お前はあの日、どこで何をしていた」
「アンナが襲われ、周囲の警戒に当たる予定であった。しかし、《ハンター》隊長であるラインハルトに話があった為、しばらく馬小屋付近で立ち話をしていた」
「相談とは何だ」
「ここで話すことではない」
アセナのことだ。アンナが襲われたときの不審な動き。怪しい、とは思うものの、アンナを救ってくれたことに変わりなく、まだ判断のつかないことを話したくはなかった。
「いいから話せ。お前だけが赤ずきん隊員と一緒に行動していなかった、十分疑わしいのだからな」
ロッテはペン先をイライラしたように紙面につついた。流されずに、黙っておく。
「ラインハルトと一緒にいたことは確かだ。彼に確認をとってくれたらいい」
そこで、ロッテは鼻で笑った。何がおかしいのだろう。
彼女はリタの目の前でペン先を揺らしながら皮肉めいた笑みを浮かべた。
「《ハンター》は取り調べない。赤ずきんにそこまでの権限はない。その上で、今回行動が確認取れなかった者は、内通者としてリストに上げる。それは尋問対象である」
ロッテの言葉に、リタは組んでいた腕をとく。
「――ラインハルトに確認できない私は自動的に対象になるということか」
「そうだ」
「馬鹿げている! 時間の無駄だ。こんなことをして、実際は《ハンター》の中に内通者がいたとしたら、どうするつもりだ?」
「お前はいると思っているのか?」
「……っ」
言葉に詰まる。そう。これを誘導するつもりだったのかもしれない。おそらく、ニコラスは尋問したい相手が決まっている。
父は、彼の容姿が銀狼に似ているので嫌っている。
「アセナ。お前はたまに親しげに話していたという目撃証言もある」
「彼はよくわからない」
「ニコラス様がおっしゃたようにお前は銀色の狼になると判断が鈍る。それと同時にお前は銀髪をしているだけで、好意を抱くようだな」
「わからないと、言っている!」
ついに、リタは机を叩いた。ロッテは嬉しそうに笑っている。誤解もいいところだ。ロッテと同じ考えを父が持っているという事実もリタを感情的にさせた。
「《ハンター》は取り調べできないのではなかったか」
「その通り。だが、内通者と思わしき赤ずきんが、仲間だと名指しした場合は召喚することもできる――これより、リタ=ヴィンダウスを以上のことから拘束・尋問することにする。入れ」
ロッテが扉の向こうに声をかけると、第一部隊の赤ずきんらが数名入ってきてリタを椅子に縄でくくりつけた。
「やめろ! これは意図的で私的な理由が混ざっている。許されることではない!」
「黙れ!」
ロッテが叫び、リタの頬を平手で叩きつけた。
「お前はもう隊長の娘という甘やかされた場所から降ろされたんだ。これからは、私の言うことを聞け! いいな!?」
リタの鼻から血が少し垂れた。頬が熱を持ち、口を動かしにくい。
「……尋問の正当性を要求する」
「まだ、言うか!」
ロッテはそれからリタを数度、拳で叩いた。リタは痛みには慣れている。ロッテは息があがるほど、痛めつけた。
「ロッテ様、これ以上は――」
赤ずきんの制止が入って、ようやく止める。ロッテは赤くなった手を振った。
「そうだな。楽しみはとっておかないと。お前が内通者の名前を言うまで解放はない。いいな」
ロッテは、そう言い残し隊員を連れて部屋を出た。部屋から明かりはなくなり、真っ暗になる。
流石に、朦朧としている意識の中、リタは痛みとは別で思考を紛らわせる。
アセナが怪しいという事実は確かだ。しかし、リタが言うことでニコラスはアセナを拷問するだろう。もしかしたら、人だとわかっても殺してしまうかもしれない。
リタは色々考えなくてはいけないのに、意識が遠のいていくのを感じた。次までの間に抜け出す手立てを考えないと。
そう思うのに、視界が暗いせいでそのまま闇の中に自分が消えてしまった。
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