ドゥームスコンプレックス
@higasakota
第1話 インストール
「ドゥームスバレットって知ってる?」
知らない。
俺はその問いかけを無視して教室に戻ろうとした。
休み時間のことだ。
「ま、待って、待って!ゲーム好き!?ゲーム好きなら放課後プレハブに来て!絶対楽しいから!」
背後から聞こえてくる女子生徒の声に一切反応せず俺は教室に戻った。
放課後、俺はプレハブに来ていた。
「最後に来てくれたのが2年生の月宮孝太郎くんです!」
と、ゲーム愛好会の部長である橘さんが俺を紹介する。
この人が放課後に俺を待ち伏せして無理やりここまで連れてきたのだ。
2畳ほどしかない空間に男女4人が集まっていた。
隣の部屋で部活動に励む卓球部の軽快なラリー音が聞こえてくる。
「はい!じゃあ今日はこのゲームをやりましょう!」
橘さんが部屋の外から銀色のボックスを持ってくる。
ゲームキューブに似た何かだろうか、と思って見ていると橘さんはそこに何やらコードを色々と繋げていった。
そして彼女は人数分のヘルメットのような代物を用意する。
「これはナーヴギアですか?」
「うん、違うよ。でもこれで仮想空間に行くことができるの」
じゃあナーヴギアだろ、と思ったが口には出さなかった。
という以前に橘さんの言うことがシンプルに信じられない。
「俺の知らない間にゲームはここまで進歩したんですね」
と冗談まじりにそう言うと橘さんは「やってみればわかるよ」と言って俺にそのヘルメットを被せた。
え?と声を上げるまもなく目の前が暗転する。
目が覚めた。
初めに目に入ったのは夜の空だった。
自分が仰向けになっていることを理解する。
上半身を起こして辺りを見渡した。学校のグラウンドだ。
さっきまでプレハブにいたはずなのにグラウンドに移動していた。
もしやここがゲームの世界なのか?
そう思って腕をつねってみるが、痛覚はしっかりと働いてる。
やっぱり現実だ。
俺以外にも2人、プレハブにいた奴らが不思議そうに辺りを見渡している。
鼻にピアスをつけた強面の男とメガネをかけた大人しそうな女だ。
「おい、どうする?」
とりあえず声をかけてみる。
「・・・・・・プレハブ、戻ってみます?」
意外にも鼻ピアスは敬語だった。
「君もそうする?」
俺はメガネの女の子に問いかける。彼女は黙ってうなづいた。
じゃあそうしよう。
もう帰ってもいいんじゃないかと思ってもいたが2人がそう言うなら自分も合わせよう。
プレハブに足を向ける、その時だった。
「え」
数メートル先でモモモッと何かが地面からせりあがってくる。
それは大型トラックと同じぐらいの大きさをしていた。
一瞬、状況に感情が追いつかない。数拍遅れて俺は後ずさった。
大きな銀色の丸い球体。そこを中心に蜘蛛の足のような8本のアームが伸びている。
『今からあなた達にはこれを倒してもらうわ』
突然頭に響いてくる声。
それは橘さんの声だった。
『大丈夫、これはゲームよ』
そう言われても目の前の光景があまりにもリアルすぎて、むしろ信じられない。
困惑する俺たちのことなどお構い無しに、その巨大なソレは動き始める。
ソレの中心部である銀色の球体、その左右に取り付けられた筒が急回転。
そこから発射される鋼鉄の弾丸が地面を穿った。
瞬間、俺達は散開する。
もちろん意図したものではない。全員が反射的にバラバラの方向へと逃げただけだ。
バババッと砂埃がまう。
当たっていたらどうなっていたんだ・・・・・・。
自分の体が恐怖ともいえる何かのせいで硬直していくのを感じる。
いくらこれがゲームだと言われても、自分から弾丸に貫かれようとは思わない。
『武器を転送しますね』
その声と共に両手にずっしりとした感触が伝わる。
黒くコーティングされたそれは俺にとって初めてみる存在だった。
アサルトライフル。
・・・・・・いや、違うのか。テレビのニュースでよく見るタイプのものとは少し違って先が異様に太いような気がする。
だがこの先端から何かを発射して対象を殺す武器だということは簡単に理解できた。
ドガガッと轟音がする。
目を向ければ鼻ピアスが果敢にも縦横無尽に動き回りながら攻めているではないか。
負けじと自分もその巨大な敵に向かって銃口を向ける。
これがもし現実なら、こんな敵は勝てっこないと絶望していただろう。だがこれはゲームだ。
ゲームならどんな強大な敵でも倒しがいがあるというもの。
俺は憶えてきた高揚感に身を任せて、引き金を・・・・・・。
「お願いします」
ふと誰かの声がした。
ひどくキーの高い電子音のような声。
その声が、俺の引き金を引く指を止めた。
刹那、強い衝撃が頭を揺さぶる。
自分の頭を敵の弾丸が射抜いたのだと気づくまでに少しばかり時間を用した。
「おかえり」
目覚めると、元いたプレハブ小屋にいた。
つけられていたヘルメット・・・・・・というよりヘッドギアを外して声のしたほうを見る。
橘さんが部屋の隅でパソコンをいじっていた。制服に小さなマイクをつけている。
パソコンの画面を覗きこむと先ほどの光景、夜のグラウンドとそこで繰り広げられている銃撃戦がうつっていた。
それを見て、やっぱりゲームなんだよなと再確認する。
「どうだった?すごかったでしょ?」
「はい、もちろん」
早々にやられて退場してしまったわけだが、俺は凄く満足していた。
「ゲーム愛好会入ってくれる?」
「・・・・・・・・・」
しかし俺はその誘いを断った。
単純に、このゲームが体に悪そうだと思ったからだ。
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