クロの秘密
先日思いつきでキャラ投票をしました。
(参加してくださった皆さん、ありがとうございます)
一位がクロでしたので、クロの小話です。
第二部の最新話まで読んでいれば問題ないかと思います。
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クロは小型希少獣だ。
本獣も――たぶんシウが思うよりも――しっかりと自覚していた。
クロはシウの肩に乗って学校へ行くことも多く、そうすると人の言葉というものを聞くことになる。人のような賢さは持っていないけれど、クロはなんとなく理解していた。
希少獣というものの中で、小型希少獣があまり喜ばれない存在だということを。
小さいだけ、可愛いだけ、と言われてしまうことを。
その言葉に含まれる、あまり良くない空気にもクロは気付いていた。
けれど最初こそ落ち込んだものの、そのうち気にならなくなった。
シウがクロのことを悪く言ったことがないからだ。
むしろ、「すごいねえ」「偉いねえ」と褒めてくれる。クロは嬉しくて嬉しくて、もっと頑張ろうと思うのだった。
ある日「やってみたいな」と思っていた魔獣を誘い出す「釣り」に挑戦してみた。
フェレスとブランカが楽しそうだったので、クロはいつも上空から見ていて羨ましかったのだ。
三目熊を見付けた時に、クロはフェレスに相談してみることにした。
「きゅぃきゅぃ」
「にゃにゃ!」
やってもいいよ、と言ってくれたのでクロは上空からの指示係を止めた。ブランカは自然と補助に回ってくれて、三目熊の進行方向から外れる。
クロはふたりのやり方を思い出しながら、三目熊の前に躍り出た。
隠蔽を外す時はちょっぴり緊張したクロだけど、大丈夫。フェレスがいる。それに飛行訓練はいっぱいした。
だから、思い切ってやってみた。
すると「餌が飛んできた!」と思った三目熊がまんまと引っかかった。
クロは尾羽根を揺らして挑発し、発進する。尾羽根を揺らすのはフェレスのマネだ。フェレスはいっつも尻尾を振って、魔獣を引っ掛けてくる。クロは上空から見ていて、いつもすごいなと思っていた。
ブランカも真似するのだけど、振り方に気を取られてギリギリのところを襲われてからは止めていた。ひやっとしたみたいだった。クロもあれにはびっくりして、シウに「きゅっ」と念話してしまったほどだ。後でブランカはものすごく叱られていた。飛びながら尻尾を自在に振れるようになるまで「尻尾で挑発することは禁止」だと言われていた。
でも、クロは飛行は得意だ。鳥型だからというのもあるけれど、上空を飛んで監視するという「お仕事」を任されていたから頑張って訓練した。フェレスやブランカみたいに獲物を狩れない分、役に立ちたかったのだ。だから、尾羽根を振っても平気。
三目熊がいきり立って追いかけてきたのをスルッと避けて、でも決して逃げ切らないというギリギリのスピードで飛ぶ。
低空飛行で木々をすり抜け、岩場の山を避けながら飛んでいく。三目熊は何も考えずに追いかけてきた。
真っ直ぐに、ただ真っ直ぐに。
クロは右へ左へ、時に上へと鳥らしく飛び続けた。
シウたちが待っている拓けた場所まで。
フェレスの気配を感じて、クロは高揚した。もうすぐだ! と。
三目熊も追ってくる。クロはスッと速度を落とした。三目熊の意識をクロだけに集中させるように。
三目熊はクロの考えた通りに、警戒もせず森の中の拓けた場所へと飛び出た。
シウが目を丸くしてクロを見ている。それでも何も言わない。シウは、フェレスが隠れていたところから飛び出だして三目熊を倒す瞬間を、黙って見ていた。
クロはフェレスと立場を入れ替えた時に上昇していたので、滑空しながら降りていった。スーッとシウの傍に降りた頃にはフェレスがもう三目熊を倒していた。
「クロが釣ってきたの? びっくりしたよ」
「きゅぃ」
「うん、大丈夫ならいいんだけど」
「きゅぃきゅぃ!!」
やりたかったの、と言ったら、シウはちょっと変な顔になった。でもすぐ笑顔になる。
「危ないことはダメだけど、無理してないならいいよ」
防御も付与しているからね、と小声で言う。シウはいつもクロたちのことを考えてくれている。安心なんだけど、クロは安心しちゃいけないなって思う。
フェレスもそんなことを言っていた。やられたらおしまい、だから絶対一撃で倒す、って。
クロも同じ。フェレスの言うことは、ちゃんと聞く。ブランカも見習ってる。……たまに失敗するけど。
「でも、本当に大丈夫だった?」
「きゅぃ!」
「そっか。んー、じゃあ無理はしないでね。危険だと思ったら、すぐ逃げること。分かった?」
「きゅぃきゅぃ」
シウはちょっと心配しすぎだと思う。でもなんだか、嬉しい。フェレスやブランカも同じ気持ちみたいで、クロはなんだか羽の根本がむずむずするのだった。
クロはシウに言ってないことがある。
三目熊を釣ってきた時、とってもワクワクしていたのだ。
怖いような、それでいて楽しい気持ち。それは上空を警戒しながら飛んでいる時には味わえなかったものだ。
そして、もっとギリギリのところを飛んでみたいと思った。
心配するシウのことを考えると、もっと極めたいだなんて言えなかった。
だからちょっとずつ訓練しようと考えた。
それで飛行にもっと自信が持てたら、今度はすごい魔獣を相手にするのだ。
きっと、もっとワクワク、ゾクゾクするに違いない。
でも本当に難しいと分かったら、必ず逃げる。逃げ切ってみせる。
それがシウの望みだし、シウと約束したことだから。
クロはシウに安心してもらえるためにも、もっと頑張ろうと心に決めた。
それでいつか、すごい飛び方を見せる。シウはまた目を丸くしてクロを見ると思う。それからきっと笑顔で「びっくりしたよ」と言ってくれるのだ。
だから内緒。シウに秘密にする。
クロはなんだかワクワクして、早く特訓を始めたいなと思ったのだった。
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