クロの好きなもの
第一部427話、565話あたりを読んでいればたぶん大丈夫かと。
この更新時点で第一部427話までいってたっけ? すみません、まだだったら読んでもあんまり。
第二部読んでる方だけご覧になった方がいいかもです。
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初めてそれを見た時、クロは尾羽根が震えるのを感じた。
ものすごく気分が良くなって、ドキドキしながら眺めた。
ジーッと見ていたら、それが逃げていくので、追いかけて傍に寄って見つめた。
そうしたら、大好きなシウがこう言った。
「ダメだよ。それ、食べ物じゃないからね?」
分かってるよ?
「アリスのだから。分かってる?」
「きゅぃ……」
分かってるもの。
クロが答えたら、シウはテーブルの上に前足を乗せたブランカを怒っていた。
「ブランカ、爪を出さない。叩いちゃダメだって」
そうだよ。ブランカはクロの好きなものに興味津々で、手を出そうとする。
動いてるってことは、生きてることだから、怪我させちゃダメなんだ。
でも、ブランカは「みゃ!」って元気よく答えるけど、全然分かってない。
シウはしようがないなあと笑ったけど、鳥のお爺ちゃんからは怒られてしまった。
「カーカー、カーカーカーカー」
早く助けないか、馬鹿者、だって。
お爺ちゃん鳥に怒られたので、シウはブランカを掴んでフェレスの上に乗せてしまった。
クロはブランカに邪魔されずに見つめられると思って喜んだのだけど、シウに捕まってしまって肩の上に移動した。
近くで見ていたかったのになあ。
でもシウがダメって言うなら、しようがない。
シウの言うことは、なんだかぴったりくることばかりだから。
これって気持ちいいってこと、好きってこと。
フェレスが時々言ってる。
シウが絶対大事。シウのことを守るんだ、って。
それはね、好きだからなんだって。好きっていうのは、幸せなことで、とても気持ちのいいこと。
クロはシウの手の中でぬくぬくするのが好きだから、そういうことなんだと思ってる。
シウの言うことは守らなきゃいけない。
分かってるんだけど、やっぱりテーブルの上のそれが気になってしまう。
ねえ、あれは何?
葉っぱに近付いて、もぐもぐ食べている姿がとっても、そう、体が震えるの。
だからシウの肩からジーッと見ていたんだけど、お爺ちゃん鳥に「カー……」って言われちゃった。
鳴いた後、お爺ちゃん鳥がバサッと飛んできてクロの目の前に立った。クロの目から見えないように立つから、シウの髪の毛を潜って反対側に行く。
「きゅぃ?」
「カーカー、カーカーカーカー」
お爺ちゃん鳥は、もぐもぐ葉っぱを食べているのは幻獣の芋虫エールーカで、エルという名前だと教えてくれた。
「きゅぃ?」
それって、クロ達の仲間? あんなに小さいのに?
「カーカーカーカー。カーカー。カーカーカー」
違うけど、似たようなもの。
クロはシウの真似をして首を傾げた。そうしたらシウの髪の毛が当たって、なんだか嬉しくなった。
もぞもぞしていたら、シウが「どうしたの」と撫でてくれた。
「きゅぃきゅぃ」
「コルに遊んでもらってるの? エルを怖がらせないなら、テーブルに下ろしてあげるよ」
「きゅっ!」
シウがそっと下ろしてくれた。
お爺ちゃん鳥の体が大きくて、エルが見えないけど、ちょっと我慢。
「カーカー。カーカーカー、カーカー」
「きゅぃ!」
エルはお爺ちゃん鳥の大事な家族らしいよ。クロにとってのフェレスとブランカ?
「カーカー」
そうなんだ。
じゃあ、あの人間の子はお爺ちゃん鳥のあるじで、シウみたいな人なんだね。
「カーカー」
やっぱり!
お爺ちゃん鳥は色んなことを知っている。それなら、さっきから気になっていたことを質問してみよう。
「きゅぃ。きゅぃきゅぃきゅぃ?」
「カーカーカーカー」
「きゅぃ?」
「カー。……カーカーカーカー、カーカーカーカー」
エルを見てどうしてドキドキするのかお爺ちゃん鳥に質問したら、おぬしもまだ子供だな、って言われた。
それで教えてくれたのは、希少獣の本能だってことだった。
本能っていうのは、クロにも分かる。
生まれたときから、クロにとってシウはとても大事な存在だと分かっていたし、シウのために何かしたいって気持ちがずっとあった。
フェレスに教えられるまでもなく、シウはクロの一番好きなもの。
そういう本能なのかな。
クロは、エルのことが好きだっていう。
「……カーァァ。カーカーカーカー、カーカーカー」
なんだか人間の大人がやるみたいな「はあっ」っていうのをやって、お爺ちゃん鳥は言った。
それは、狩猟本能なんだって。
狩るってこと。
え、じゃあ、クロはエルを狩るの?
「カッ、カーカーカーカー! カーカーカーカー!」
な、ばっかもん! 狩ってはならん! って、怒られちゃった。
びっくりして、怖くなって、トトトと下がったらテーブルから落ちそうになってしまった。
そうしたら、シウがちゃんと助けてくれた。
「どうしたの、落ちちゃうよ。コル、あんまり怒ったらぽっくりいくよ。アリスのためにも長生きしないといけないんだから」
「カーカーカーカー」
「あはは。分かったってば。年寄り扱いはしちゃダメなんだね。でも、ほら、エルも守らなきゃいけないんでしょ」
「カーカーカーカー」
「はいはい」
「カーカー、カーカーカー、カーカー」
「クロ、コルは怒ってないんだって。ただ、教えただけらしいよ。エルを食べちゃダメ。あと、エルを見てドキドキするのは、好きだからっていうよりも啄みたいって気持ちからじゃないかな。自制心がしっかり芽生えるまでは、エルに近付いちゃダメだよ。分かった?」
「きゅぃ」
そっか、エルは食べられるかもしれないと思って怖かったんだ。
クロも、誰かに捕まえられて、咥えられたら怖いと思う。
「きゅぃ! きゅぃきゅぃ」
「そう。偉いね、クロは」
「きゅぃ……」
えへ。
シウはまた肩に乗せてくれた。そして何度も撫でてくれる。
あったかくて、大好き。
フェレスもブランカも好きだけど、やっぱり一番好きなのはシウ。
シウのことは啄んだりしないし、狩ったりもしないよ。
でも、シウになら咥えられてもいいな。シウならたぶん、怖くないから。
こっそり決意をお爺ちゃん鳥に教えたら、ものすごーく低い声で鳴かれた。
あるじを信じないのか、ばかたれ、だって。
シウは、大事なクロ達を、イジメたり怖いことはしないんだって。もちろん、食べたりもしない。
あるじを持った希少獣なら、そこはちゃんと信じろと怒られちゃった。
コルは、それが卵石から生まれてすぐに契約できた希少獣の、義務なんだって言った。
それはとても幸せなことで、奇跡的なこと。
だから、クロはもっともっと、シウのために頑張りなさいと言われた。
テーブルの下を見て、人間みたいな仕草で頭を振ると、お爺ちゃん鳥はまたクロに囁いた。
あの子はあんなだから、お前さんが頑張りなさい、と。
はい。
でも、ブランカはクロよりも本当はずっと強くて、ずっと本当のこと分かってるんだよ。だから大丈夫。
「カーカー」
「きゅ!」
「仲直りしたの? 良かったね、クロ」
「きゅぃ!」
「カーカーカー、カーカー」
「あ、クロ、ちょっとだけならエルを見ても良いんだって。良かったね」
「きゅぃー」
「あ、待って、ブランカはダメ。フェレス、立ち上がったらブランカがテーブルの上に乗っちゃう。そう、離れて。ああ、もう。クロ、先に下りて。コル、クロをお願いね」
シウはそう言うと、フェレスの上でみゃーみゃー鳴いてるブランカを抱きとった。
ブランカは同じ時に生まれたけどまだまだ子供だから、しようがない。
クロは妹のような存在のブランカを見て、それからお爺ちゃん鳥を見た。
「カーカー」
「きゅぃ」
頑張ります。
みんなのことも、好きだから。
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