お手柄事件簿

春田康吏

【事件編】

※この小説は、私が高校生のときに実際に経験したことを基に

小説にしてみたものです。


 朝、井上弘志はテレビの音で起こされた。

今日は、病院に行く日だ。

この間、インフルエンザにかかって検査したところ肺が、ちょっと曇っていたため今回詳しい検査をやるという。

全く医者は、何かにつけて検査、検査と言うと弘志は、思った。

実は弘志は、車イスに乗って生活している高校生だ。

だからといって弘志は、何とも思っていない。能天気な性格なのだ。


9:10AM


父が弘志を車に乗せるため車をガレージから出す。

部屋で待っている弘志のもとに突然、携帯電話が鳴った。

♪サッポロサッポロサッポロ一番♪

弘志は、普通の着信音ではなく今、流行りの着メロにしている。

何の曲かというと、弘志の叔父が某インスタント食品会社に勤めているせいか、このCMソングにしている。

普段、携帯電話にはメールしか来ないので少し弘志は、驚いた。


ピッ 携帯電話の受話器を取るボタンを押した。


弘志「もしもし」

祖父「あー。もしもし 予定より早く着いたから

    父さんに病院、来なくていいよ。と言っといて」

弘志「あっ。そう、それじゃいっとくわ。」


ピッ

いつもは母が車を運転して、車イスを車から出したり弘志を抱えてくるのは父の役目である。


弘志「じいちゃん、もう着いたから来なくていいって」

父「ほんと?じゃあいいな。」


父は、少し嬉しそうに言った。

なぜ祖父が来てくれるのかは、あとで分かる。

そしてまず弘志から車に乗って車イスが、後ろに積み込まれた。

家の掃除をしていた母も車の運転席にのりやっとのことで出発となった。

この時、弘志はまさかあんな事が起こるとは思っていなかった。

ただ、病院でこれから行われる検査が無事に終わってくれればいいことをひたすら願っていただけだった。


 病院への道路は、いつもより混雑していなかった。

トラックが、グングン追い越していく。

15分ぐらいだっただろうか車は、病院に到着した。

いつものように祖父と車を誘導する警備員が立っていた。

車イスを車から出す。

そうして、いつものように車イスにのりいつもとは違う内科の待合室へ向かう。

というのも弘志は月に2回幼いときからの持病の関係で違う科に通っているのだ。

弘志は、いつも思うのだがやけに年寄りが多い。

腰が曲がったおばあさん、酸素吸入をしているおじいさん。

超高齢化社会のためだろう。その中に混じっている弘志。。。

長い通路をまっすぐに歩いていき待合室に着いた。

そこは、いつも通っている整形外科、外科、内科と並んでいる。

この前と同じ椅子に祖父と母は座った。

後から来た祖母も婦人科に行くため2階へ上がっていった。

弘志は急に尿意を感じた。そして車イス用のトイレに入る。

行く前にしてきたばかりだというのにたくさん出た。

最近、急に寒くなってきたためだろうか。

トイレから出てイスに座りやっと落ち着いたかと思ったが

看護婦がやって来てこのまま放射線科に行くように言われた。

だったら最初から言ってくれればいいのに。と思いながらも渋々一行は放射線科へ向かう。

行く途中、周辺の壁には、

いたるところに最近、「置き引きなど盗難にご注意下さい 院長」という小さな紙が張ってある。

弘志は、こんな事が実際にあるのか、と思っていた。

放射線科での検査は、造影剤を入れてやるためかいつもと違う部屋で行われた。

弘志は幼い頃からこの病院に入院したり通院したりしているが、この部屋に入ったのは、初めてなのかもしれない。

「かもしれない」というのは弘志の記憶に残っていなかっただけなのかもしれない。という事だ。

どうして弘志がなぜこんなに造影剤を入れてやる検査を心配がっているのかというと

それには過去の話が必要である。

ただ、痛いからとか怖いからとか子どものように思っているだけではない。

それはというと・・・・


 それはというと、一、二年ほど前に弘志はこの造影剤を入れてやる検査を受けた事があるからだ。

そのときの状況を思い出すと、今でも弘志は身震いする。

あの時は、放射線科の技師が注射するのが慣れていない為と弘志の血管は、幼い子どものように細いからだった。

思ったとおり失敗して手がすごく、たこのように腫れた。

結局、その時は病棟の医師がやったのだった。


それを思い出し、恐れていた。

しかし時は、待ってくれず 検査は行われた。

看護婦が針を刺す血管を探す。迷っているようだ。足も探す。

左足右足右手左手刺せそうな場所は、全部見た。

それでも迷っているためその看護婦は助っ人を呼んだ。

もう一人、看護婦が来た。やはりその看護婦も迷っているようだ。

2人で、さっき見たばかりの所をもう一度見る。

何度見ても同じだろう。と弘志は、思った。

そしてようやく手のひらの所に刺すという事を決めたようだ。

そしていきおいをつけて刺す。「痛ッ」いつもの事だが弘志は、思った。

造影剤が、弘志の血管に入っていく。1人の看護婦が、もう1人の看護婦に「止めて」と言う。

手が、少し腫れたらしい。そう言っている。

しかし弘志は、こういう事に慣れているためか手が腫れてるとは感じなかった。

「ちょっともうこれ以上続けれんよ」と看護婦が言った。

やはり1回では、うまくいかないのだろう。と弘志は、思った。

いつもそうなのだ。慣れていない人だと。

2回目もすぐ隣の場所に刺された。なんとかうまくいったようだ。

普通、慣れてない人だと4,5回は失敗するのに。

「ラッキーだった。」と弘志は思った。

検査も造影剤を注入しながら レントゲンが撮られた。

造影剤が体に染みていくのが分かった。ぽわーと体が熱くなったからだ。

さっき看護婦が言った通りだった。

そして終わり、針が抜かれた。

弘志は、ほっとしあとは、もう診察を受けて帰るばかりだ。と安心し家に帰ったら何をしようか。と考えていた。

まだこの後おそるべき事が待っているとは、知らずに。。。


 またまた弘志と母と祖父の3人は、長い通路を渡り、待合室へと向かった。

内科と放射線科は、全く位置が逆のためずっと歩いていかなくてはならない。

しかし、何年もこの病院に通っている弘志はそれほど苦痛でもなかった。


待合室に着いた。またさっきと同じイスに座る。

もちろん、弘志は車いすである。

またずっと待ってるのか。と思うと少し嫌だが弘志は、こういう時決まって人の観察をする。

もちろんじっと見てるといやらしいので、いろいろ視点を変えてみる。


□■□■その時だ。一人の老人が、歩いてきた。▲△▲△


どうやら弘志の車いすで通れなさそうだった。

ちょうど車いすで遮断された形になっていた。

すぐさま弘志は、電動車いすのスイッチを付けてどいた。

そのことに気付いたのか母が席を移ろうと言い出した。

続いて祖父も席を移る。弘志もそのまま、その隣に車いすをつけた。

そろそろお昼が、近くなったので祖父がコンビニに昼食を買いに行く。と言った。

久しぶりに弘志は、鶏肉のから揚げ弁当が食べたかったので祖父に注文しておいた。

そして祖父が、そこから出て行く。


・・・いつからその人物は、そこにいたのだろうか

   席を移る前?席を移ってから?それとも・・・


 祖父が、コンビニに昼食を買いに行った為、弘志と母は2人で順番を待つ事になった。

弘志は、また失礼と思いながらも気付かれずに人間観察を始めた。

それも次第に飽きてきて、さっきから気になっていた弘志の頭に敷いてあるタオルがずれてきたのを母に直してもらうように頼んだ。

母は、いつもの事かと思いながらちょっと頭を持ち上げタオルを直した。

どうやらタオルを止めてあるクリップが落ちたためタオルがずれたようだった。

弘志は昔から神経質でちょっとした体の位置や周りの寝具などの位置も、ちゃんとしていないとイライラする。


■▲● ■▲● ■▲● ■▲● ■▲●


そいつは、その様子をどこから見ていたんだろうか?

見計らったようにゆっくりと動きだした。

そいつとは母のタオルの位置を直す腕の間から弘志が見た白っぽい皺が通った手だった。

その手は、そっと気付かれないようにある黒い手提げバッグの中に入っていた。

まるで、白蛇がバッグの中に入っていくかのように・・・。

そして意図も簡単にバッグの中に入っている財布を抜き出した。

弘志は、一瞬驚いたがあれは母さんの財布ではないな。と確信(?)した。

しかしよくは似ていた。

そしてタオルを直すのが終わり母は、席についた。

弘志は、母に何も言っていないのに、母は虫の知らせがあったかのようにバッグの中身を見始めた。

ふと弘志は、隣の席に目をやった。

そこにさっきまでいたはずの女は、ゆっくりと向こうの方に歩いていった。

まさかとは、思ったが一応その女を目で尾行した。

それと同時に母は、青ざめた顔で財布がない。と言い出した。

弘志は、さっきこの目で見た場面を思い出し血の気が引いていくのを感じた。

そうしているうちに、さっきまで目で尾行していた女も弘志の目から消えていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る