《第4話》勢いって、大事なのかな!?



「来週かぁ……」

 連藤は呟く。

 一方、デスクの仕事は山になっている。

 昨日の言葉を反芻しているが、後悔し始めていたのだ。

 果たして自分が、目の見えない自分がエスコートできるのだろうか。


 第一に、

 __なんだかカフェに行きづらい。


「もっと早くにそのレストランに行けばいいじゃねーのか?」三井が突っ込む。


 そう、確かにそうだ。


 うんと、小さく頷いたとき、不意に三井が、


「お前ってさ、

 オーナーが好きなの?

 ビーフシチューが好きなの?


 どっちよ?」


 思わず口どもる連藤に、三井は大げさに肩をすくめてみる。


 ___鋭い質問だ。


 どっちなのだろう___


 それにしたって彼女と二人になって何を話すのだろう。

 今日の天気?

 明日の予定?

 カフェの中だから、適度な距離感で保てたのを、二人で一緒となるとその空間でどう過ごせばいいのだろう。


「……わからない。

 どっちも気になることにはかわりない……」


「なるほどね」三井も一緒に悩んでみるが、全く答えなど思い浮かばない。

 一緒に冷えたコーヒーをすすってやることぐらいだ。




一方、カフェでは__

「どういうことなんだろう……」

 どういうことだと思う?

 問いかけられたのは、あの後輩二人組である。


 今日は平日ど真ん中のため、お客が少ない。

 というより、彼らしか今日はまだ来ていなかった。


「ビーフシチューのレシピを聞き出そうとしてるとか」

 巧がいうが、

「それは何度も聞かれてるし、何度も炒めて煮るだけって答えてるよ?」

「詳細な分量を聞きたいとか」

「え? そんなこと?」

 彼女が変な声を上げる。

「いっつもレシピはぐらかされるっていってたけど?」

 瑞樹が返すと、

「マジで?」

 彼女は口を一文字に締めてみる。

 そんなマジなレシピ知りたかったんだ……

 なんか悪いことしてたな……


「次に会ったらちゃんと答えるようにする」

 彼女はそう答え、慣れた手つきでグラスを磨いてはいるが、


 全然進んでいない__


 仕事が手につかないことが彼女にもあるのかと二人は驚くが、彼女のため息も半端ない。

 息がなくなるんじゃないんだろうか。


 瑞樹は、不意にカウンターから体を乗り出し、

「なんか美味しいっていう感性が同じだから、一緒に食べてみたくなったんじゃない?」

 目と鼻がくっつきそうなほどだが、彼女は至って冷静だ。


「そんな単純?」


 再びグラスを磨き始めた。

 何が彼女の中でまずいことなのだろう。

 

 二人はぬるいコーヒーを飲み干し、もう一杯お願いすることにする。

 オーナーからは小さな返事が返ってきた。

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