第7話 進化
××年、総理はあふれる涙をこらえる事ができなかった。ついさっき、A国大統領から直通の電話で、世界で唯一残っていた核が解体されたとの連絡があったのからだ。唯一の被爆国として、世界の先頭に立って平和を訴えてきたかいがあった。
棍棒を武器にしていた時代から、人間は奪い合い、騙し合い、殺し合いを続けてきた。その残虐さの究極の姿が核ではないか。自分と同じ生き物をどれだけたくさん殺せるかを追求した道具。だが、とうとうそんな物はこの世から消えた。
これを皮切りに、これからは理性的で、穏やかな世界になるだろう。銃ではなく話し合いが、奪い合う事より分け合う事が優先される世界。そう、人間は進化したのだ。
大統領は、こみあげる笑いを押さえる事ができなかった。彼の前に、封をした試験官が置かれていた。長い間の努力の結晶。人工的に作り出された菌を材料にした細菌兵器。もちろん、こんな兵器を我が国がもっているのを他国は知らない。
この試験官一本で、地球の半分の人間を殺すことができる。そしてこの兵器がすばらしいのは、人間のDNAに働きかけることだ。反応するDNAを特定する事で、狙った人間、あるいは狙った人種だけを殺す事ができる。たとえば病院の205号室に入院しているB国人が死んでも、その隣のベッドにいるA国人は死ぬ事はない。そして、毒の強さを調節する事で、犠牲者の死に方まで選ぶ事ができる。戦争中、敵に威力を見せ付けたい時はわざと毒を弱めればいい。犠牲者は、血を吐き、体中を膨れあがらせ、喉をかきむしり、うめきながらのたうち回って死んでいく。国際社会の非難が怖ければ、犠牲者の骨も髪の毛すらも残さずキレイに消す事ができる。むごたらしい死体の映像がなければ、非難しようにも被害の大きさなどピンとこないものだ。
そして何よりすばらしいのは、この最近が人間にしか反応しないことだ。飼い主がしんでも、飼われている犬は元気なまま。魚も植物もつやつやと元気なまま。洗いさえすれば、この細菌兵器が使われた土地に生えた野菜だって食べる事ができる。こんなすばらしい兵器ができたのだ。野蛮な核などもう必要ない。
そう。人間は進化するのだ。
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