第4話 始まりは

 始まりは、夫が自分の予定を細かく聞いてくる事だった。休日、何時ころ外出するのか、戻りはいつになるのかを、さりげなくを装って必ず聞いてくる。少し不審に思った物の、休日ぐらい夫も出かけたいだろうし、なるべく家を留守にしたくないだろうから予定を合わせるためだろうぐらいに考えていた。

 しかし、たまたま夫が携帯を操作する所を見た時、その不信感はさらに高まった。わざわざパスワードを設定しているのに気づいたからだ。

 寝室に長い髪を見つけた事で、疑惑は確信になった。夫はきっと浮気している。

 夫を殺すためなのか、愛人を殺すためなのか、自分でも分からないまま、気付いたらキヌエは毒薬を手に入れていた。

 数日後、彼女は夫のバッグをそっと開けた。髪の毛よりももっと決定的な何かを探すために。そして、それはあった。手の平に乗るプレゼントの箱が、書類にまぎれて入っていた。

「きっと、愛人へのプレゼントだわ」

 このプレゼントが、自分の物のはずはない。キヌエは耳にピアスの穴を開けていないのだ。そういえば、最後に夫からプレゼントをもらったのはいつだろう? 夫への恨みより嫉妬の方が強かった。今こそ、夫と愛人、どちらを殺したいのかはっきりと分かった。

 キヌエは、震える指でピアスに毒を塗った。これで、このピアスを身につけた者は耳の穴から毒がしみこみ死ぬだろう……


 夫は、妻がいなくなったのを見計らって、一人姿見の前に立った。手に女性用のウィッグを持っている。いつからだろう。女装趣味にはまったのは。妻にはもちろん言えない。

 もうすっかり妻の目を盗むのにも慣れてきた。自分に似合うピアスも、買う時に恥かしくないようにプレゼント用に偽装して買うテクニックを身につけたぐらいだ。新しく買ったピアスを、夫は手に取った……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る