エマダツィ
蒼月狼
第1話 「ナマ」じゃなきゃダメだ!!
「幸せの国」と呼ばれるブータン王国。そこに「 エマダツィ」=「唐辛子のチーズ煮込み」と言う料理がある。
その名を知ったのは、年が明け春もせまる冬の終わり頃だった。
「エマ」は唐辛子、「ダツィ」はブータンでチーズ料理を表す言葉だそうだ。
赤米と一緒に食べるのが定番らしく、情報では「三食 エマダツィ!」と言うブータン人もいるらしい。
日本で言う所の「カレー」?と言った位置付けだろうか?それが第一印象だった。
材料は「生」と「乾燥」唐辛子の二つ、それにチーズと玉ねぎ、調味料に塩とサラダ油が小さじ程度、あとはこの材料を水を張った鍋にブチ込んで15分程度煮るだけ!と言う簡単料理?
とにかく初めは名前だけで見たコトも食べたコトもない料理。どういった見た目で、どういった味が「正解」なのか全く解らない。で、調べる事に。
すると出てくる出てくる料理レシピ、俺が知らないだけでメジャーで人気なブータン料理の様だ。
材料はさっき記述した通りだが、よりボリューミーに、そして旨味を求める為か?具材にベーコンを追加したり水ではなくスープストックを使用しているレシピもあった。
見た目は唐辛子が浮いているドロッとした感じの料理。肝心のお味の方だが「旨い!」そして「辛い!!!!」と激辛系の料理である事が解った。
唐辛子料理なんだからそりゃ~辛いだろう。激辛料理は好きじゃないんだが。
全体像は判った、とにかく料理しようじゃないか。まずはスタンダードだ、ベーコンやスープストックは使わずにチャレンジ!
と、勢い込んだが簡単に事は運ばなかった。
なぜ?
材料は入手しやすいように思われた。
が、「生」唐辛子が無い、無い、無い。「ナマ」が何処にも売ってない!
何処の店も、赤い「乾燥」唐辛子しか置いていなかった。考えてみれば唐辛子の「ナマ」なんて今まで見たコトも買ったコトもね~。
市内のスーパー、個人の食品店、業務食材取扱店や輸入食材専門店にデパ地下まで回ったが、「ナマ」唐辛子を見つける事は出来なかった。
エマダツィを作りたい。が、「ナマ」唐辛子が無い。その時は唐辛子ごときでネット通販を利用すると言った事まで頭がまわらなかった。いや探したけど見つからなかったんだけ?記憶があやふやだが市場に無いのは一つ理由がある。
だが、この時は知る由も無い。
「 エマダツィ」は絶対に作ると決めた「動機」があった。
数日間、会社帰りに知っている限りの食料品店を巡ったが成果は無し、俺は食材探しに途方に暮れ始めていた。
とにかく「ナマ」で「辛い」野菜なら何でも良いんじゃないか?
と言う具合に思考が混乱し始め、業務用食品店で「オクラのワサビ漬け」と書かれた「姿形が唐辛子に近いかも」と言う理由で手を伸ばそうとしていた。
が、
待て、俺の目的は「 エマダツィ」=「唐辛子のチーズ煮込み」を作る事であってわさび漬けをチーズで煮る事じゃない!と、我に返った。
危なかった、少し冷静になって基本の情報収取からやり直そうと考えた。
冷静になると色々と頭が働く、そして両親が退職後に農家から畑を借り、地域の農協に出すほど本格的に家庭菜園をやっていたコトを思い出した。
やはりプロ?の意見を仰ぐのが一番だろう。さそっく御袋に「ナマ」唐辛子って何処で手に入るんだ?と尋ねた。
すると母は無知な息子に知恵を授けた、「唐辛子の旬は夏だよ、今は乾燥物しかないんだよ。」
春間近かとは言え、、、今はまだ冬だ。
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