嗚呼、素晴らしき輪生!

石田治部

第1話 嗚呼、素晴らしき義侠心

菌…と聞いて何を連想するだろうか。

汚いモノ、触れたくないモノ、細菌、ばい菌。

おおよそいいイメージではないはずだ。

俺はこの言葉を聞くと小学生の頃に「○○菌」などとイジメられた記憶が頭の片隅に過る。思い出したくもない過去だ。

兎に角良いイメージではない。

もっとも20も過ぎてそんなイジメを受けるような事はあり得ない。だからそんな事を他人から言われるとは露ほども考えてはいないし自分が言われるはずも無い事をまさか他人が言われるとも考えてはいない。だからそんなイジメはいまやもう存在しない世界線を俺は生きているのだ。


「彼方ちゃんって鈴菌だよな〜」


俺は食っていた1杯250円の大学の学食のかけ蕎麦を盛大に吹き出した。

振り返ると声の主は後ろの席のグループだった。男ばかりが三人。もう5月の半ばで少し動けば汗ばむ陽気だというのにどいつもこいつも暑苦しい冬場に着るような厚手のジャンパーを着ていた。見るからに正気ではないヤバイ連中だとわかった。

「ちょっと変わってるよな彼方ちゃん」

「センスがな」

ドッと笑い声があがった。

明らかにその「彼方ちゃん」を嘲笑侮蔑する笑い方だった。俺の世界線ではあってはならないイジメが確かにそこに存在した。


「ちょっとお前ら…!」


関わるべきではないのだろう。

だが許さざるべきイジメが俺の目の前で存在している。その顔も見た事のない「彼方ちゃん」はこの異形な男達に陰口を叩かれている。それを俺は見過ごす事は出来なかった。何故なら俺もそうして昔イジメられた暗い過去を持つからだ。


(彼方ちゃんは俺が守る…!)


俺は男達の座るテーブルの前に躍り出た。俺の世界線にはあってはならないイジメを廃するために…!


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