あの丘に咲く花のように

@mknkfs

第1話出逢い

何故人は生きているのだろう?生きなければいけないのだろう?辛い。生きるのが辛い。朝の光がカーテンの隙間から射し込む部屋でベッドから上半身を起こした男が遠い目をしていた。男の名は丘崎涼介(おかざきりょうすけ)22歳。ボサボサの髪は癖毛の為整える事もしない。顔立ちは整っているのでなかなかのイケメンと言ってもいい。しかしモテない。身長は百七十九センチとなかなか高く体型もシュッとしている格好いいと言えなくもない。しかしモテない。彼は大学受験に4回失敗し、仕方なく就職した会社が僅か3ヶ月で倒産したため現在無職。今日は彼にとって大事な日になる。暗い気持ちのままベッドから起き上がり洗面所に向かった。顔を洗い、放ったらかしにしていた髭を綺麗に剃って髪を整える。黒いスーツに着替えたら、一度部屋を見渡してゆっくりと玄関のドアを開け眩しい太陽が照りつける世界へと足を踏み出した。ガタンゴトンガタンゴトン。7月の夏空の下、涼介は電車に揺られながらある場合に向かっていた。しばらく電車に揺られていると、風景が緑豊かな山から澄みわたった青が広がる海になった。目的の場所は近い。涼介は立ちあがりドアの前に移動した。しばらくしてドアが開くと懐かしい潮の香りが鼻から入り脳を刺激した。「この香り・・やっぱりいい」しばらくホームで潮の香りを堪能した涼介は目的地に向かって歩き始めた。彼の目的地は駅から海岸を歩き一度山に入ると地元の人しかしらない獣道の先にあった。視界が開けるとそこには、一面が海と空に覆われた丘が姿を現した。テニスコート程の広さがある丘の一角に涼介の目的の場合はあった。白い花が咲くその場所に腰を下ろした涼介は鞄から一枚の写真を取り出した。「・・母さん」写真に写っているのは去年の秋に他界した涼介の母沙耶(さや)である。もともと体が弱く、入退院を繰り返していたが去年の夏に容態が悪化して回復する事なく息を引き取った。自分にとって最大の理解者であり、支えとなっていた人。この丘は一度だけ母に連れてきてもらった思い出の場所。母にとってもお気に入りの場合で結婚する前にはよく訪れていたと病室のベッドに寝ながら笑顔で話してくれた。いつも優しい笑顔で寄り添ってくれた母が大好きだった。そんな母に恩返しがしたいと頑張ろうとしたのに・・・。母の写真にポタポタと雫が落ちた。手は微かに震え、歯が小刻みにカチカチカチカチと音を出すようにぶつかっては離れ、ぶつかっては離れを繰り返していた。母が居てくれたから頑張ってこれた。母の為に頑張ろうと思えた。どんなに辛い事でも乗り越えられると信じていた。しかし、もう限界だった。頑張れば頑張るほどに苦しくて、辛い思いが自分の中に溜まっていく感覚だけが残っていった。朝起きて仕事に行き、一日会社に束縛されてはサービス残業を強制させられヘロヘロになり自宅に帰って死んだように寝るだけの生活。こんな人生に意味なんかあるのか?生きていくため?仕方ない?そんな事なら生きなければいい。自分にはもう頑張って生きていく理由なんてないのだから。涼介は母の写真をスーツの内ポケットに仕舞うと立ち上り水平線の先にまで続く広大な海の一点を見つめた。しばらく海を見つめたまま立ち尽くしていた涼介はゆっくりと右足を前に出した。「ダメ!」女の子の声が涼介の耳に飛び込んできた。誰かいた!見られた!涼介は後ろを振り返った。しかし、誰もいない。丘にはもちろん自分だけ、森にも人はいない。じゃあ今の声はいったい?涼介は声の事が気になったが気を取り直してもう一度海に向かって今度は左足を前に出した。「だからダメです!」グイッ、今度は声だけでなく袖を引っ張られた。「!!」涼介は後ろを振り返ったがやはり誰もいない。しかし、確かに袖を引っ張られている。涼介は恐る恐る空いている手を伸ばした。掴んだ。なにやら細い棒のようなものを、強く握ったらポキッと折れてしまいそうな何かを。それに何だかサラサラしてる。この感触は昔どこかで感じたような。「・・・あ、あの」涼介が手に触れた感触に浸っていると、遠慮がちに声を掛けられた。声のしたほう、棒の先には顔を真っ赤にしたまま困ったようにモジモジしてる女の子がいた。かわいい!その仕草はもちろんだが、女の子自体もとてつもなくかわいい子だった。髪は白くサラサラのロングヘアーが腰まで伸びている。肌も白いというか透けるような感じで身長は百五十五センチあるかどうかと小柄だが、女の子の部分はしっかり出ていた。白いワンピースを着ていて清楚という言葉を形にするとこうなるんだろうと思わせる子である。涼介は暫し見とれてしまった。この世にはこんなにかわいい子がいるのか、テレビで人気があるアイドルや芸能人を観てもここまで心奪われる事はなかった。「かわいい」「えっ⁉」心の声が漏れ出していた。涼介の言葉に真っ白な女の子は驚いた表情をしたが、次の瞬間には真っ赤に顔を変色させてあたふたしだした。これが俺、丘崎涼介と彼女花咲真白(はなさきましろ)の出逢いだった。ここから涼介の運命の歯車はゆっくりと動き出した。

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