第24話
颯人がティナを見つけたのは学院の図書館だった。ものすごく熱心に調べ物をしているようで、しばらく話しかけることができなかった。その調べ物が一段落したと思えたところで声をかけた。
「なにか調べ物?」
颯人の存在に気づくと、ティナは開いていた本をパタンと閉じた。
「あ、もしかして邪魔しちゃった?」
「あなたの大切な守護獣が大変なときにというのに、こんなところで油を売っていていいのかしら」
「その守護獣ためにベレスフォードさんを探してたんだ」
その言葉にティナは一瞬不思議そうな顔をして、
「場所を変えましょう。ちょうど伝えたいこともあるし」
「伝えたいこと?」
颯人の疑問にティナは答えなかった。
「この辺なら問題なさそうね」
ティナについていき、たどり着いた場所は本館の裏手だった。人気のないところでとても静かだ。風の音がより鮮明に聞こえてくる。人に聞かれたくないような話をする場所なら打ってつけだろう。
「こんな奥まった場所まで来て、伝えたいことってなんなんだ?」
颯人の問いに一呼吸してゆっくりと口を開く。
「ここ最近、良くないことばかり立て続けに起きたから、過去になにか手がかりがないかと色々と調べていたの。結界が破られたことや人を襲う幻獣、その過程で秋月源一郎についても調べたわ」
「あの人のことを……?」
颯人の顔つきが少し険しくなる。
「あ、勘違いしないで。あなたとの約束を反故にしようってわけじゃないの。気になることがあったのよ」
「気になること?」
誤解されないよう補足する。その言葉で溜飲は下がったようで、話は止まることなく続いた。
「ただ今は先に別の話をするわ。実を言うと分かったことがいくつかあって順を追って話さないとややこしくなるのよ。いい?」
確認を求められ渋々うなずく。できることからその気にはことを先に話してほしかったが、調べたティナがそうしたいのならこちらとしては無理強いできない。ごちゃごちゃと話されるくらいなら、理路整然と説明してくれたほうが助かるので特に反論はしなかった。
「まず、結界が破られた件だけど、実は過去にも一度だけあったのよ」
「間違いないのか?」
「ええ」
最初からにわかには信じられない話をされて颯人は困惑する。当然だ。あれだけ鉄壁を誇ると言われていた結界が一度ではなく、過去にも破られていたとあってはなにを信じればいいか分からなくなる。
ティナはあくまで冷静に続ける。
「名前まで分からなかったけど、とにかく強大な力を持つ幻獣だったことは確かね」
竜属や悪魔属ですら傷ひとつ付けることすらできない結界を破るほど幻獣など聞いたことがなかった。それはいったいどれほどの力を持つ幻獣なのか。考えただけで恐ろしかった。
「それでその幻獣はどうなったんだ?」
「倒されたのよ、とある召喚術師に」
「とある召喚術師?」
ここで二本目の指を立てる。
「そこまでは書いていなかったけど、この幻獣が現れたのが今からおよそ一世紀前。ある人物の活躍と符合しない?」
そう言われてハッとする。
「秋月源一郎……」
うなずくティナを見て言わんとすることを理解する。
「最後にもうひとつ」
三本目の指を立てる。
「秋月源一郎はどうやってその幻獣を倒したの?」
「それはもう分かってることだよ。封印したって」
「ええ、確かに記録ではそうなってるわ。でも、じゃあどうやって封印したというの? まさか、弱らせもせず封印したというわけではないでしょう」
「それなら守護獣と協力して――」
そこで颯人の言葉が止まった。
出てこないのだ。秋月源一郎の守護獣の名前が。
「そう。私も不思議に思って何度も調べたわ。けど、どこにも載ってないのよ。彼の守護獣の名が」
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