宝石箱に散らばった数々の恋

朝比奈凛子

愛しい先輩。

貴方と出会ったのは高校の頃。

右も左も分からない私は、とりあえず部活だけは決めようと思った。

走るのも苦手な私。運動部なんてものは、もってのほかだった。

哀しい消去法だけど、文化部なのは決定事項。

後は何処に入るかだったのだけれど、それも簡単に決まった。

私はお話を書くのが好きだった。

読んだりするのも好きだった。だから、行き先は決まっていた。

文芸部の門をたたく、今日は一度見学をしよう。


中に入る。一人だけ生徒が座っていた。背の高い、男の人。


「新入生?」

「はい」

「そっか、座って」


促されて座ると、彼は私に本を差し出す。文芸部の部誌だった。


「とりあえず、作品の感じとかスタンスとか、読んで」

「はい」


私はそれを手に取って、パラパラとめくる。案外分厚いものだった。

あの、と、声を掛ける。


「何?」

「その、先輩のお名前は」

「あ、俺? んーとね」


八崎です。と彼は…貴方は、私に微笑みました。


「あの、えっと、間宮です」


私も慌てて自己紹介で返した。彼はくすくすと笑って、私に言う。


「緊張するよね。俺もする、人と話すの苦手なんだ」

「そう、なんですか?」

「そうそう。君とだって、先輩後輩だから喋れてるようなもんだよ」

「はあ」

「ごめんね、読んでくれる? あ、そうそう」


彼は私にそっと近づいて、私が握った部誌のページをパラパラとめくった。


「これ、俺の書いた話だよ」

「あ、はい」

「良かったら感想を教えてくれるかな?いつでもいいよ、じっくり読んでね」


それだけ言うと、彼は元の席に戻る。読んでる本は部誌ではない。

とても分厚い文庫本を、楽しそうにふんふんと読みふけっている。


この時の私は既に、彼に。そう、貴方に恋をしていた。

生涯を共に過ごす貴方に、初めて想いを寄せた瞬間でした。


――――――――――


今。

私は貴方に寄り添って、また本を読んでいる。


「っていう事があったけど……こんな事、別に覚えてないんでしょう?」

「ごめん。本当に分かんない」

「あははは……貴方って本当、昔からずっと鈍臭いのね」

「君も一緒だろ?」

「そうね」


貴方は私の生涯の恋人。

多分、誰よりも一緒に居てくれた人。


でもごめんね。

私、何も貴方だけに恋をしたわけじゃないの。

一番は常に貴方。思い出も何もかも優先されるのは、貴方だけ。

でも、沢山たくさん、私は恋をしました。


ごめんね、浮気だと思うよね。

だから私は一生黙っていようと思います。墓場まで、持って行きます。

此処から綴られるのは、そんな私の恋物語。

永遠の恋人との逢瀬の裏に描かれる、表では語れない数々の愛の話。



千差万別の、男達との恋物語。

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