恵&倫也vs詩羽&英梨々始まる? side詩羽&英梨々 1
これは、俺たちが大阪へと移動するきっかけとなる出来事『町田女史機密漏洩事故』のお話である……
時は遡ること前日、倫也と恵と別れた
「まさか、可能性低めだと思ってたあの子、加藤さんがあんな手に出るなんて、詩ちゃんももしかするともう手遅れかもね」
「私は加藤ちゃんを最初に見たときからこの子は
「そうね。詩ちゃんがもっと攻められてたらくっつけたんだけどね」
「まあ、霞センセと柏木センセは4月から大阪来たもんな。その時点で会える事も減るし不利だよな」
「いやいや、引き抜いたのはあんたでしょうが。そのせいでうちの『純情ヘクトパスカル』の新刊も出せないんだから」
「だから今日お苑も来たんだろ?そこんとこの話のために。わざわざあの不死川ファンタスティック文庫の副編集長が来るんだもんな。でも仕事は大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。この連休分くらいの仕事は終わらせてるし、もし何かあってもうちのみんなで代われるから。何より私、詩ちゃんの担当編集よ?来ないわけにいかないでしょ?」
「そういうもんか?まあいいけどさ。そろそろ新大阪だ。準備はできてるか?」
「ええ、もちろん‼」
こうして、朱音と苑子の二人はマルズ本社へと乗りこんだ……
そして次の日の朝、休日にもかかわらずイラストを徹夜で仕上げていた『フィールズクロニクル』の原画担当である英梨々の元に、同じくフィールズクロニクルでシナリオを担当する詩羽が訪れていた。
「………なにしに来たのよ霞ヶ丘詩羽」
「いえ別に?ただあなたの進捗状況を確認しに来ただけよ澤村さん。」
「ふーん、まあ昨日から2枚くらい上がったわよ?」
「そう、まずまずじゃない。まあ私はメインのところはもう終わってるから、あなたのところに来れたわけだけど」
「なんなのよ‼ちょっと締め切りよりだいぶ前に終わらせれたからって上から言ってきて~‼」
「そうね。締め切り前に終わらせれたから見に来たのは事実なのだけれど、別に上から言ってるわけではないわ。何せ、私にはまだ終わらせなければならない、この作品以上のものがあるもの」
「………純情ヘクトパスカルの新刊の事?」
「あら?澤村さんは私の本読んでないんじゃなかったかしら?」
「…っ、それでもあんたみたいなのの作品でもそこそこ有名だから、私の耳には入ってくるのよ‼」
「そう、まあそういうことにしておくわ。それはともかく、さっき澤村さんが言った通り、私は純情ヘクトパスカルの新刊を書き上げなくちゃいけないのよ。すでに前巻から半年以上経ってるしね」
「そう、まあ澤村さんも頑張りなさい」
そうして英梨々と別れようとしていた詩羽は、遠くから聞こえてきていた二人の声にその場から離れるのをやめ、そちらへと耳を傾けた。
「どうしたのよ霞ヶ丘詩羽?」
「少し静かに、澤村さん。今
「それがなんだっていうの?」
「澤村さんは知らないと思うのだけれど、仕事は真面目な町田さんが酔ってるのよ?ちょっと話の内容が気になるじゃない。なにか重要な情報が聞けるかもしれないし」
「そうなんだ。じゃあ私も聞いてみようかな」
「ええ、面白い話が聞けそうよ」
「ふわ~~。ごめん、ちょっと眠いから寝てるかも」
「澤村さん今日も徹夜で仕上げていたものね。今日くらいはゆっくり休んでなさい」
「そ……う……じゃあお言葉に…………あま…………」
「よっぽど疲れてたのね。これはしばらく起きそうにないかしら。では改めて、聞いてみようかしらね」
「………お苑、あんた飲みすぎだって。というかさ、そんな酔っちゃってんなら今日は家で休んでたらいいのに」
「そーねー。でもかわいそうじゃない‼だって詩ちゃんはもうメインシナリオは終わってるのよ?だったらもうこっちにくれたっていいじゃない‼」
「まあそう怒るなって」
「茜には言われたくないわよ‼だって今回の件だって、あなたの契約のせいで詩ちゃんがこっちに戻ってこれないのよ⁉」
「その点はすまないと思ってる」
「あら、茜が素直に謝るなんて珍しいわね。でも、茜が謝ったところでこれは変わらないんでしょ?」
「そうだな」
「ホントに、なんでシナリオ担当の詩ちゃんにアフレコの監修とか特典の制作とかまでやらせるのかな‼詩ちゃんがかわいそうすぎるわ‼ただでさえ安芸くんまで取られそうなのに」
「ばっ、ここでそれは言うなって言われたろ⁉」
「いいわよ‼どうせここには今詩ちゃんはいないんだ…か……ら」
「町田さん?ちょっと今の話詳しく聞かせてもらっても?」
「あちゃー、だから今日は来るなって言ったのに‼」
「そ、そうだけど、詩ちゃんがここに来てるなんて思うわけないじゃない‼」
「いやいや、来る可能性くらいあるだろ?だってここ職場だぜ?」
「そんなことはどうでもいいです。町田さん、倫理君が取られそうとはどういうことですか?」
「は~。仕方ない、聞かれたらもう答えるしかないな。お苑後で絶対倫也君にキレられるぞ?」
「そ、そうね。あのね詩ちゃん、今、安芸くんと加藤さんが、京都で二人で旅行してるの」
「⁉」
「だから取られそうっていう話になってたの」
「わかりました。今すぐに澤村さんも連れて倫理君と加藤さんと話してきますね」
「ちょっと詩ちゃん⁉」
そう言って詩羽は英梨々を起こそうとしていた。
その間に、アラサー二人はそそくさとその場を離れていった。
「起きなさい‼澤村さん」
「ん~、何よ?」
「今すぐ京都に向かうわよ‼」
「は⁉なんでいきなり?」
「加藤さんと倫理君が二人で、二人きりで旅行してるのよ‼まさか加藤さんがそこまで大胆だったとはね。不覚だったわ。それで二人で行って少し問いつめたいのよ。私たちがいない間になぜそんなことをしたのかね」
「そうなんだ。行くのは構わないけど、会うのはやめてあげたほうがいいんじゃない?」
「澤村さんはそれでいいの?私たちが離れてる間にこんなことになってるのよ?」
「まあ、それはそうなんだけど。離れてるっていうか、離れるのは私たちだけじゃないから」
「澤村さん、それはどういうことかしら?」
「あれ、あんたは知らないのね。まああんまり恵と関わってないもんね。じゃあ、あの二人の邪魔をしないって約束できるならなんでこの時期なのかっていう話をしてあげるわよ」
「は~、仕方ないわね。そこまでの理由だと判断したらいいけれど」
「そう、まあいいや。実はね………」
「なるほど。そうね、確かにそれが理由なら、加藤さんを責めることはできないわね。でもこんなことを澤村さんに話せるようになったなんて、仲も戻ったみたいね」
「そうね。まあ、あの時は面白かったけどね。でもいつのまにか恵が倫也の事『倫也くん』って呼んでたことにはビックリしたけどね」
「というわけで、邪魔するのはやめておくわ。でもどんなことしてるのか気にならない?」
「……それは確かに気になる」
「だから、ひとまず澤村さん、あなたは一時間ほど仮眠をとりなさい。それから京都に向かうわよ」
「わかった。じゃあお言葉に甘えてもう少し寝かせてもらうわ」
こうして、詩羽と英梨々は
しかし、紅坂朱音はすでにその場にはいなかった。そして、最後に見た詩羽が言っていたのは、「加藤さんと倫理君と話してきますね」という言葉。さらに、英梨々との話がついたであろう詩羽が朱音のもとに来て一言、「澤村さんに一時間ほど仮眠をとってもらってから京都に行かせていただきます」と言われ、主語述語が抜けてしまったことにより、図らずも恵と倫也の移動劇の始まりとなる電話を掛けてしまった。
こうして、旅行二日目、見守ろうとしているだけの英梨々と詩羽と面倒なことになると勘違いしてしまった恵と倫也の追いかけっこと呼ぶには範囲の広すぎる逃避行が始まる………
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