第15話
「リア!?」
いきなり手を振り払われたキングは、ひどく驚いた表情を浮かべていた。
「ごめんなさい、キング。でも、私はもうあそこに戻りたくないの。」
正面きって言ったリアに、キングが度肝を抜かれた様子を見せたのは一瞬だった。
すぐに眉根を寄せると、一喝した。
「リア!!クラウンは、お前を許さないぞ!!」
キングが大声を上げてリアを怒るのは、とても珍しかった。
今回のことは、それほどの事態ということだ。
リアは、目を伏せた。
クラウンが意にそぐわなくなった自分をどのような処遇にするのかは明白だった。
それは想像するだけでもとても恐ろしい。
「……だけど、だけど」
リアは、真っ直ぐにキングを見た。
「私は、エースに会いたい!」
言葉にすれば、それは嵐のように強烈で晴れ渡った空のように鮮やかな、ひとつの感情となって体中を駆け巡った。
エースの名に、キングは一層眉間にしわを寄せた。
「……っ、いい加減にしろ!!あいつは、エースは、もう───」
「生きてるってわかったの!!」
かき消すように、リアは叫んだ。
今度こそ、キングは絶句した。
リアが嘘をついているようには到底思えなかった。
この件に関して、リアが嘘をつくなんてあり得ないことを、キングは一番よく知っていた。
一番傍で、見ていたから。
どんなに彼女があいつのことを好きでいたのかも、それゆえにあいつがいなくなってからどんなに塞ぎ込んで、壊れていったのかも。
リアは、自分でも噛みしめるように、繰り返した。
「生きてるってわかったの。だから、会いたい。たとえ、覚えていなくても、拒絶されてもいいから、私は─────」
そのときだった。
横合いから、不意に強い風が吹いた。
とっさのことに、リアはバランスを崩してよろめいた。
そして、なんとか踏みとどまろうとして足を引いた先には、何もなかった。
「リア!!!」
キングが、らしくもなく慌てた様子で手を突き出してきて、
デッキで悲鳴が上がったのが聞こえて、
視界の隅に手すりに乗り出すようにして駆け寄ってきた蓬髪が見えた気がして、
そちらを向こうとした拍子に、眼鏡が外れて、
(あ、借り物なのに───)
なんて、のんきに考えている自分がいて、
すべてがスローモーションのようで、やたらと現実味がないな、と思いつつ、
リアは落ちていった。
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