30の魔法使いにできること。
@nikumasimasi
第1話 さわり、物語の核心
戦場の中、それに限定したことではないが、ふと自分の状況が分からなくなることがある。
――それがまさに今。
心境の乱れを表に出さぬよう冷静に努め、勝機を窺うように周りに目を向けて情報を集める。
紅に沈む夕日。大きく崩れた岩壁。夕日に照らされた荒野は燃え上がるようで、立ち昇る砂煙はまるで黒煙のよう。
すぐ隣にはたくさんのけがを負って片膝を付くハゲもとい長谷川さんが。
後方には大怪我で岩壁にもたれかかる戦闘不能になったおやっさんがいた。
そして眼前、切り立った崖の上にいたのは、炎のように燃え上がる紅いスカーフをたなびかせ悠々と腕を組む男。
その男は見下げる形でオレたちの前に立ちはだかり、その表情は無。だけど目に宿るのは怒りの業火。だけど恨みや妬みといった黒ずんだものではなく、もっと輝かしい光のよう。……だからこそ
オレはそのどこか眩しい男にたじろぐ。それは戦況が不利だからとか、相手の強さに臆したからとかそんな理屈めいたことじゃなく、一人間としての差を否応なしに感じてしまったからかもしれない。
弱腰そのまま戦場から逃げ出そうかと、戦力的撤退も止むを得ないといろいろ屁理屈をこねてこの戦場から脱しようとした。
だが……。
同士と呼ぶ長谷川さんがオレに熱い視線を送ってくる。こんな状況下なので色恋沙汰じゃなく、期待の視線というものだろう。
正直言えば迷惑だと思った。面倒だと思った。
だけどオレは拳を握り、赤いスカーフの男へ拳を構える。
流されてではなく、自分の意志で拳を構える。
そしてオレは、相手に拳を突き出した――。
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