鋼鎧のアウトレイヂ

藤村銀

序章『Reloa〝Dead〟』

火葬

 羽虫の群がる外灯の下、志希人しきひとは彼女に死を与えた。

 

 心臓に杭を突き立てる。たったそれだけの動作だと言うのに、志希人の息は上がってしまっていた。口から吸い込む夜の空気は冷たくて、死の臭いをたっぷりと含んでいる。嗅ぎ慣れた臭いのハズなのに、どうしてこうも吐き気がするのか。

 

 杭を引き抜くと、ぬるりと糸を引いて血が垂れた。この世のどんな色よりも鮮明な赤で、美しい。けれども時間が経てば経つほどにそれはどす黒く変色していく。いずれは真っ黒に染まるだろう。

 そうなるよりも早く、美しいままの遺体に火を放った。月や星、外灯の光よりもなお煌々と火が暗闇を照らす。舞い上がる火の粉は彼女の命の残滓のようで、空に吸い込まれては消えていく。

 

 いや、彼女に宿っていたのは仮初の命、ただ心臓が動いていただけ。決定的な死を与えはしたものの、最初から死んでいるようなものだったではないか。

 そう自分に言い聞かせるも、涙は意志とは関係なしに頬を伝いこぼれる。

 これも全て、志希人が弱かったから招いた結果だ。もっと強ければ、彼女を殺すなどという選択はしなくてすんだハズだ。

 

 でも今は悔いている時間さえ惜しい。

 

 まだ肉を抉る感覚の残った手でケータイを操作し、電話をかける。

 

 コール音が、暗闇の中に吸い込まれて消え、またケータイから音が生まれては消えていく。そんなことを数回繰り返して、電話はようやく繋がった。

 

 音が一瞬世界から消えてから、相手の息遣いが届く。

 

 笑っているように思えた。

 

 これから志希人は彼女の死体を手土産に彼方の相手へ会いに行く。それが約束だった。

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