絶対領域を確保せよ!

ホウボウ

それは突然に

 グラウンドからは野球部がランニングの掛け声、音楽室からは吹奏楽部の演奏が流れてくる――


 そんなよくある放課後の学校。生徒会室に集まった俺たち生徒会役員は沈黙に包まれていた。



 ……それは生徒会長、吉田透子の一言から始まった。




「スカートの丈を、短くしよう」


「…………」


 ……何言ってるのこの人?

 というか幼馴染なんだけど。


 昔から突拍子もない性格をしている、とは思っていたけど、さすがに訳がわからない。というかついていけない。


 もちろん書記の織原さんも、会計の園田も、俺より驚き――というより呆れ? なのか何も言えないみたいだ。

 しょうがない、ここは俺に任せろ。



「すまん、聞こえなかったフリ……しとくわ」


「聞こえなかったフリとはなんだ! これでも私は真剣に言ってるんだが」


 ……この子、アホの子なのか?


「真剣って言われてもなぁ、なんでスカートなんだ? というかどういうことなのか説明してくれ」


「スカートって、その丈によって『絶対領域』が発生するじゃないか。私はそれを発生させたいんだ」


「それを発生させてどうする」


「最近、身だしなみに甘い生徒が目立つ。それを改善していきたいんだ」

 割と真面目な理由なんだな……ってそうじゃない。何かおかしい。


「それ、スカートの丈じゃなくても良いだろ。それこそ、風紀に任せたりとか――」



「趣味よ」


 ――はい?


「女の子の絶対領域で男は興奮するんでしょう? それが見たいの」


「それにね、この学校のスカート……デザインは良いのに校則で少し長いわ。もう少し短いのを履かせてあげたいの」


 すいません、幼馴染で完璧に見えて頭のネジが飛んでいるこの女の子の思考が理解できません。というか男か、お前は。


「ごめん、ちょっと何言ってるか分かんない」


「僕も同感です。スカートの丈に拘る理由が――」

 やっと喋ったか、園田よ。でももう手遅れだ。


 こいつがここまで考えている、ということは……



「いや、もう決定事項だ。これから校則改定についての議論をしよう」

 やっぱりな。もうこいつは誰にも止められやしない。俺でも。



 正直、俺は「絶対領域」に興奮する変態ちっくなナニかなので、あまりおおっぴらには透子を支持できないが、できる限りの事はやってやろうじゃないか……と密かに応援する。

 まあ、健全な男子高校生だから仕方ない。園田くんはどうか分からないけど。


 書記の織原さんは、あまりの展開の早さに置いてかれている。普段からおっとりした人だからそういう点ではいつも通りなんだけど、あとで説明しなければ……




 これは誰にも止められない、暴走機関車≪吉田透子≫の物語の幕開けだった――

 暴走に付き合わされるこっちの身にもなってくれ……ホント……

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