エージェント ファルコン

いちごはニガテ

第1話 流血の霊峰

見慣れた風景ではあったが山脈の麓で暮らすヨックにも、この間近でみる光景は圧巻だった。


時折り舞い吹雪く花弁にも似た幾つもの朱い結晶。


まばらに立ち並ぶ朱く染められた剣葉樹。


朱い帯のように這い広がる凍てついた朱い小川。


酸化した鉄分を多く含み、僅かに朱みをおびた雨の降るこの星。


なかでも特にこの辺りは気象条件的に色濃いものとなり、北部の山脈は解けることのない朱い雪で年中染まっている。


原住種族のヨックでさえも息を呑むこの景色には、外界からの来訪者にも驚きなのだろう。


いやそれこそ話にしか聞いたことのないこのインセクターと聞かされた雄(雄と言ってよいのだろうか?ヨックは話に聞く限りこの者の所作からして雄と感じたのだが)にとっては、もしかしたら珍しくもない景色かもしれないのだが。


それにしてもインセクターとは、報道などで垣間見る異型のベイグズ達と違い、ヨックの目には外界に溢れている人間たちと変わりなく見えたのだが。



「えっとお客さん。寒くはないですか?」


「大丈夫、それよりも君たちの離れ種族がいる場所はまだ遠いのかな?」


ヨックの言葉に背中で揺れながらはじめて、ファルコンと名乗ったインセクターが応えた。


その問いにヨックは足をとめ、その前足の蹄で凍りついた大地を穿り、長い首を下げて仲間の痕跡を嗅ぎ当てようとした。


「やはり噂通り、この辺りはまだ彼らの居住区には遠いようです、最初の予定通り2K先の山小屋まで取り敢えず向かうことになりそうですが」


「そうですか…」


それきり背上のファルコンは、先程までと同じく口を開くこともなかった。

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