いただきます

如月李緒

episode1 朝食

 朝、小さめのアラーム音で目が覚める。

 時間は6:50。いつもの起床時間だ。


 リビングでは、お母さんがソファーに座ったまま寝ていた。

 たしか、今日は仕事がない日。ゆっくり寝かせてあげたいところだけれど、姿勢が辛そうで、少しだけ悩む。

 いつも、休日前は帰りが遅いお母さん。休み前はキリのいいところまで仕上げるようにしているらしく、帰ってくるころには時間が0時をすぎることも多々あった。

 キッチンを見ると、昨日と何も変わっていない。つまり、食べてきたということ。

 昔は食べてくることなんてほとんどなかったけれど、前に料理の音で私が目を覚ましてしまったことがあって、その日以降あまりにも遅い日は外で食べてくるようになってしまっていた。


 かろうじて、お化粧は落としているみたいだけれど、着替えてはいない。

 きっと、帰りがかなり遅かったのだろう。疲れて座ったら気が抜けてしまったといったところか。

 結局、9時まで起きなかったら起こすことにした。

 毛布を一枚かけて、お母さんのもとを離れる。


 起こしたら二度寝するかもしれない……というより、ベッドに移動して二度寝してほしいのだけど。

 もしも起こすとしても、せっかくの休日なのに早い時間に起こすのも、早い時間に起こしてビックリさせてしまって完全に目覚めるなんてことがあったりするのもなんだか申し訳ない。

 だから、9時。



 今日の朝食は自分で作ることにする。

 もう中学生だから、それなりに作れるし。

 疲れて眠ってしまってるときは、ちょっとやそっとの物音じゃ起きないから、大丈夫。


 冷蔵庫をあけると卵が2つと牛乳、あとは昨日の残り物しか入っていなかった。

 冷凍庫も、お弁当のおかずくらいしかもう入っていないはず。

 ちらりとお母さんを見て、ため息をつく。

「……今日は午後から買い物だね」

 本当は休ませてあげたいけれど。

 買い物はやっぱり車で行けた方が、たくさん買えるからいい。

 午後の予定が決まったところで、炊飯器がピーとなった。7時に予約していたご飯が炊けたようだ。

 手を洗ってご飯をまぜる。

 それからようやく、朝食作り開始だ。


 まずはボウルを出して、卵を2つ割る。

 牛乳と砂糖、塩をそれぞれ適量入れてかき混ぜる。

 フライパンを火にかけて、卵を流し込む。

 パタンパタンとたたんで、また少し卵を流し込んで、半分くらい使う。

 全部たたみ終わってから、残した分にラップをして、冷蔵庫へ。

 それからちょっと火力を強くして、軽く焼き目をつける。

「よし、できた」


 ご飯を茶碗によそって、出来立ての卵焼きも、お皿にもる。

 昨日の残り物である、ほうれん草のゴマ和えをだして、豚肉ともやしを塩コショウで炒めた炒め物を電子レンジに入れる。


「いただきます」

 両手を合わせて、心を込める。

 目の前には今日の朝食。

 少し離れたソファーにはお母さん。

 平和な日常。

 けれど、もう少しわがままが許されるのなら、誰かと一緒に食べたい。

 時間を共有したい。

 でも、お母さんを困らせるのは嫌だし、無理もさせたくない。休めるときは休んでほしいから、そんなわがままを言いたくない。


「……ちょっと牛乳入れすぎたかな」

 お母さんの作ってくれたほうれん草のゴマ和えも炒め物もおいしかった。けれど、自分の作った卵焼きは味も薄いしまだまだだと思った。

 1人で食べた朝食。

 いつ お母さんが起きてもすぐに準備ができるように、準備で待たせることのないように、準備万端にしたくて、少し急いで食べた。

 あとはお母さんが起きるまで片付けをしよう。

 食器は、あとでいいとして、まぁ、テーブルをふいたり、服を畳むことくらいは静かにできるだろう。



 こうして、私の平和な日常いちにちは始まった。

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