猫の冒険
辺寝江夢
プロローグ 呪い
なんでだろう全然眠れない……。
眠ろうと思いベッドへもぐりこんだはいいがいくら目を瞑っていてもいつもと違いまったく眠れそうになかった、あまりにも寝付けないもんだからこれじゃらちが明かないと思い気分転換に外の空気でも吸おうかと思い外へと向かう。
階段を下りていると前からうっすらと誰かが歩いてくるのが見える、まさか警備のゴドリックじゃないだろうな、あいつ声がやたらとでかいんだよな、今会ったら余計寝れなくなる……、などと思いつつ歩いていくとだんだんとはっきり見えてくる。
「おや?クリス坊ちゃまこんな夜更けに出歩かれるとは、どうかなさいましたか?」
「なんだ爺やか、いやそれがさ、困ったことになかなか寝付けなくて、ちょっと外の空気でも吸おうかと思ってさ」
「左様でございましたか、ではゴドリックを呼んでまいります」
「いや……別にいいんじゃないかな……」
「ですが、もしクリス坊ちゃまが怪我をするようなことでもございましたら旅行中の旦那様方に申し訳が立ちません」
「じゃあさ、爺やじゃダメか?どうせ庭をちょっと回ってくるだけだしさ、それにこんな夜遅くにあいつ大声なんか聞いたら余計眠れなくなっちゃうしさ、なぁいいだろ」
「うーむ、しかしですな」
「今回だけだからさ、おねがい!」
「まぁそこまでおっしゃられては仕方ありませんな」
「よし!決まりだな!」
そういって爺やといっしょに外へと向かった。
●
夜独特の冷えた空気が肺へ流れ込む。
「やっぱり夜の空気は気持ちがいいな!体の奥からスッキリする感じだ」
「それはようございました」
「せっかくだ爺やそこらをちょっと回ろう」
「夜の空気は冷とうございます、あまり長居するのもどうかと思われますが」
「ちょっと一周するだけだって、それぐらいいいだろ」
「かしこまりました」
しばらく庭を歩いていると遠くに猫が一匹見えた。なぜだかわからないが、それは夜にもかかわらずはっきりと見えた。
深い、とても深い黒色の猫だった。
気になったので近づいてみると猫は逃げようともせずこっちをただじーっと見つめているようだった、こっちから目線を外すのもなんだか癪に障るので負けじと見つめ返していると爺やの声が聞こえる。
「クリス坊ちゃま、クリス坊ちゃま、急にぼーっとして、どうかなさいましたか?」
「あ、あぁ、いや猫がな、じーっとこちらを見てくるもんだからさ、ぼくも負けじと見返してやったんだ。ほらそこに、あれ?さっきまでいたんだけど、もう逃げていったのかな?ということはぼくの勝ちだな!」
そういって爺やと一緒に屋敷へと向かう。
家に着く頃には程よい眠気がした、これ幸いとすぐさまベッドへ転がり込む。
ベッドへもぐりこみ目を瞑った、その瞬間、恐ろしいほどの眠気に襲われすんなりとそして恐ろしく深い眠りについた。
●
「どこだここ?」
とりあえずあたりを見渡す、黒くモヤモヤした物が宙に浮いていた。
「ねぇ坊や、あなたずいぶんと生意気なのね」
黒いモヤモヤはこちらに向かってしゃべりかけてきた。
「私があなたに危害を加えたかしら?それなのに私のこと睨めつけてくるなんて」
だんだんと形がはっきりしてきた。
「しかもその理由が癪に障るからだなんて、まだ青臭い坊やくせにプライドだけはやたら高いのね」
庭で見た猫に似ていた。
「私が誰だかわかって?」
質問の意味がよくわからなかったのでとりあえず首を横に振る。
「はぁ……なるほどね」
なんだか猫はあきれているようだった。
「最悪ね、プライドが高くて、生意気で、そして無知、救いようがないわ」
猫に馬鹿にされる筋合いはない。
「しかも自分の行いを改めようともしないなんてそんな坊やにはお灸をすえてやらなきゃだめね」
そういうと猫はまたモヤモヤに変わっていく、そのモヤモヤは僕の全身を包みこんだ。
く、苦しい――、だんだん意識が遠のいていく。
「あとは、起きてからのお楽しみ、ふふ」
その言葉を最後に僕の意識は途切れた。
●
窓からさす朝日とともに目が覚める。
なんだか変な夢を見ていたようなそんな気がした。
いつものようにベッドから起き上がったその時、ふと目に入った自分の手に違和感を覚える。
目に映るそれはまったく見覚えのないものだった。
その手はまるで動物みたいにフサフサと毛が生えており、爪は鋭くとがって、そして手のひらにはなんというか、あの犬や猫などについている肉球のようなものまであるではないか。
頭が混乱し今起こっている事柄に対して思考がまるで追いつかない。
ありえない……、な、なんで……、そんなことを考えながら僕はただそれを見つめていることしかできなかった、だがいくら頭の中で否定しようとも感覚が告げてくる、それは間違いなく自分自身の手だということを。
しばらくそれを見つめていたらあることが思い浮かんだ。そして僕は恐る恐る壁にかけてある鏡へと目をやる。そこにはまるで猫のような顔が映しだされていた。
恐る恐る顔を触って確かめてみると、犬や猫を触っている時と同じ感覚がした。
な、なんで……そんな……嘘だ……、そんなことあるはずない……、な、なんでこんなことが……、ゆ、夢!そうこれは夢だ!そうだよ!あり得るはずない……、こんなことあるはずがないんだ!先ほどとは比較にならない程の否定の言葉が頭を埋め尽くす、頭がパンクしそうだ、ただひたすら怖くてたまらなかった。
やがて頭の中を埋め尽くす否定の言葉はコップに並々注がれた水があふれだすかのように知らず知らずぬうちに声に出ていた、そして声はだんだんと大きく強くなってゆく、もはやそれは言葉ですらなくなっていた。
わけのわからない悲鳴のような声を聞きつけ誰かがドタドタと慌ただしく階段を駆け上がってくる。
「クリス坊ちゃん!どうかなさいましたか!」声とともに勢いよく扉が開かれた。
「ぼ、ぼく、ね、猫、猫が猫に!な、なぁこ、こる、これは、ど、どどどどうい――」
「な、なんだ!だ、誰だ貴様!!」
(????どういうことだ??いったい何を言っているんだ????)
何を言われているのかさっぱり理解ができないでいた。
しばしの沈黙の後、思考が追い付いてきたのかその言葉がほかの誰でもない僕に向かって発せられたのだと気づいた。
「ぼ、ぼくだよ、クリスだよ!ゴドリック」
僕は慌てつつもはっきりと答えた。
「貴様!!よくもそんな世迷言を!それに貴様クリス様をどこへやった!」
「どこへやったって、だから言ってるじゃないか僕がクリスだって!」
信じてもらおうと必死に答えた、だが――
「貴様!ふざけるのもたいがいにしろ!この
そういうとゴドリックは槍を手に大きく振りかぶりそして投げつけた。槍は頬をかすめ壁へ深々と突き刺さる。
「クリス様をどこへやった、答えろ!三度目はないぞ、わかったか
いまだ混乱する頭の中でゴドリックにどうにか自分の言葉を信じされる方法はないかと考えを巡らせるがそんな言葉は一向に思い付きはしなかった。
「早く答えんか!さもなくば――」
このままでは殺される……!そう思った僕は、ゴドリックが壁に突き刺さった槍を引き抜こうとしたその隙に窓へと向かって走り出した。
窓を突き破り外へと飛び降りる、ここが二階だということを意識している余裕などありはしなかった。
(やばい!このままでは……地面のぶつかって死んでしまう)
そんなイメージが頭をよぎる、しかし体が変化したことにより
無事着地できたのもつかの間、二階からものすごい怒号が響いた。
自分はあの場から逃げ出してしまったのだ、捕まったら殺されてしまうだろう。
先ほどとは違った恐怖が頭の中を埋め尽くす。
逃げなければ――、僕は走り出した、無我夢中で走りだした。
追ってくるような足音は早々に消えていた、だが僕は走るのをやめられなかった、恐ろしかったのだ今まで身内同然に接してきた人にただ殺意のみをぶつけられるのが、そして同時に悲しくもあった。
そんな気持ちを振り払うがごとく僕は走り続けた。
いつからか空からは雨が降っていた。
猫の冒険 辺寝江夢 @jogariko
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